7.新年の長期休暇
卒業式からあっという間の一週間が経ち、わたしはライゼスと一緒に馬車でルヴェデュの町へ向かっている。
勿論、長女レベッカと冒険者アレクシスの結婚パーティのためだ。
ライゼスと一緒に結婚祝いも考えたし準備万端で挑むものの、結婚パーティが終わったらとんぼ返りで領都に戻り、オブディティと合流して王都に向かうんだよね。
春にある新年の長期休暇は秋の長期休暇よりも長い。
冬の終わりから春にかけてのこの時期は、貴族社会的に社交のシーズンだから長く取られているということだ。
秋の長期休暇と同じく、トリスタンとロウエンも同行していて、二人で交替で御者をしてくれている。
流石に今回はアザリアの遺跡には潜らない予定なんだよね……とても残念なんだけれども。
「いやあ、また何か見つけたら、結婚パーティどころじゃなくなるかもしれませんから。今回のところは勘弁してください」
「宝箱の部屋に、もう一回行きたかったな」
わたしが呟くと、トリスタンも「まあ、確かに、中身が何になってるか、知りたくはありますけれども」などとごにょごにょ言っている。
「また次回の楽しみにしよう。今回は、まず、レベッカさんとアレクシスさんの結婚パーティが先決で、そのついでにシリリシリリ草の粉をもらって、王都まで届けよう」
「そうだね。えいっ」
人差し指を馬に向けて発射する。
「ソレイユ嬢、さっきから馬に指を向けてなにをやってるんです?」
「ないしょー」
ヒーリング弾を受けたお馬さんが、一角をフリフリご機嫌にテンポアップしてくれた。
まさか窓を透過させて、ヒーリング弾が撃てるとは思わなかった。思い返してみれば、かなりかっちりした特攻服を着ているオブディティのどこに撃っても、ちゃんと回復していたよね。
服の繊維を通過するだけじゃなくて、硝子や板なんかもイケるとは思わなかったけど。
「なんでもやってみるものだねえ」
「やっぱり、何かしてるんじゃないですか。いえ、詳しいことは聞きませんよ、ええ、聞きませんから」
トリスタンが頑なに聞かないアピールをする。
彼はヒーリングライトのことを知っているんだから、教えたところで問題はない気がするんだけどな。
「ソレイユ、嫌がる人に無理強いはいけないよ」
「そうですよ、ソレイユ嬢、無理強いはよくありません」
二人してそう言うので、バラすのは諦めた。
そんな感じで馬たちの疲労を問答無用で回復しながら移動した結果、予定よりも半日早く家に着くことができました!
「ゆっくりできる時間が増えてよかったね」
笑顔で言うライゼスに、トリスタンは「坊ちゃんは、ソレイユ嬢に甘い……今更ですがね」と諦めた顔をしているし、ロウエンは寡黙で口数が少ないのでなにを思っているかはわからない。
「それにしても、もう出来上がったんだ、レベッカ姉さんとアレクシスさんの新居」
「お帰りなさーい! ソレイユお姉ちゃん、ライゼスお兄ちゃん」
目敏くわたしを見つけた末っ子のカティアが、全力で走ってくるので、両手を広げてそのタックルを受け止めた。重力の魔法があるので、本気のタックルでも問題無く受け止めるよ!
「お帰りなさいソレイユ。皆さんもいらっしゃいませ」
末っ子に続いての長女レベッカだけど、なんだか、随分、色気が。人妻の貫禄? というか、元々美人なのに雰囲気が落ち着いて美人のレベルが上がった気がする。
「ただいま、レベッカ姉さん。美人度に更に磨きが掛かった?」
「あらそう? アレクシスに愛されているせいかしらね」
微笑んで、当たり前のことのように言う長女がかっこいい。
「ソレイユお姉ちゃん、見て見て見て!」
そして、カティアに引っ張られて入った母屋の様変わりっぷりに驚く。
正面から見ると変わっていないけれど、奥に伸びてる。
「木とかたくさんもらったから、みんなでお家を大きくしたのよ」
「大きくなったねえ」
驚きが隠せないよ! だって、奥行きが二倍になってる。
「あらソレイユ、お帰りなさい。ゲストルームもできましたから、ライゼス様たちも泊まっていってくださいね。お疲れでしょう? いまお茶を用意いたしますね」
母がライゼスたちに椅子をすすめてお茶の用意をしているなか、わたしは末っ子に腕を引かれて二階へと移動する。
「ソレイユお姉ちゃんの部屋もあるのよ」
「ええっ? わたしの部屋?」
小さいながらも、一人ひと部屋あるとのことだ。今までの雑魚寝が嘘のように、ちゃんと子供たち六人分の部屋がある。長女はアレクシスとの家があるから、こっちに部屋はないとのことだ。
末っ子も大きくなったからか、父の本棚部屋も解放されて広くなっていた。
「バンディお兄ちゃんが大活躍だったのよ。たくさんの木材を一遍に運んだりしたのよ」
反重力の魔法が活躍したようでなによりだ。
わたしも手伝いたかった。バンディよりもずっと、活躍できたはずなのに。
「次は、レベッカお姉ちゃんたちのお家よ」
手を引かれて、そのまま隣にある長女の新居に突撃した。
長女たちの新居なのに、玄関で出迎えたのは割烹着&三角巾&マスクで完全装備の三女のティリスだった。
「ソレイユ姉さん、おかえりなさい。今焼きあがるから、味見してね」
「あ、うん、ただいま。新居……というよりは、加工場では?」
そこは、立派な食品加工施設だった。
玄関を入ると右手側にドアがあり、正面には引き戸の内扉がある、末っ子に手を引かれてそこをくぐるときに綺麗にする魔法が自動で掛かった。どうやらドアのフレームが綺麗にする魔道具になっているようだ。
生乳を保管していると思しき円筒のタンク、業務用の大きなオーブンが二台ありその横のフレームのみの棚にはオーブンから出した焼き菓子が冷まされている。
真ん中のおおきなテーブルの表面は研磨された石……大理石加工の石で作られた、素晴らしい作業台となっていて、作業途中の生地が乗っている。
更には、業務用の如き巨大な保冷箱いや冷蔵庫が二台ある、片方は冷凍庫だった。
「ええと、新居……?」
戸惑うわたしに、三女が教えてくれた。
「二階がレベッカ姉さんとアレクシス兄さんのお家なの」
「え、それでいいの?」
三女の言葉に驚く。だって、新婚さんだよ?
「どうせ寝るだけだから、そうしてくれって言ったんだ。加工施設はレベッカの夢でもあるしな」
玄関の右手のドアは二階へ繋がる階段だったらしく、そっちからアレクシスがやってきた。
そっか、長女の夢は加工事業をすることだったか。
「レベッカ姉さんが加工部門を仕切っていて、色々なお店に商品を卸しているの」
「レベッカ姉さん、営業力凄そうだもんね。でも、作るのがティリスだけだと大変じゃない?」
「お母さんとレベッカ姉さんも一緒だから大丈夫だし、レベッカ姉さんが無理のない量で注文を受けてきてくれるから大丈夫」
長女の営業能力は素晴らしいね。
「今日は、明日のパーティで出す新商品を作っているの。マフィンと、プリン、ミルクを最大限まで入れたミルククッキーにミルクジャムよ」
「新商品?」
「レベッカ姉さんが、折角だから結婚式の時に合わせて、新作の商品を紹介すれば、いい宣伝になるって言うから頑張ってるの」
長女の発案に、前向きに対応する三女が素晴らしい。
「商品展開が見事にミルクづくしで、とってもいいと思う!」
「ふふふっ、バンディ兄さんにも頑張ってもらって、チーズとバターをたくさん作ってもらったの。ソレイユ姉さんが、バンディ兄さんに作り方を教えていってくれたお陰で、こんなに色々できたの、本当にありがとう!」
三女がわたしの手を両手で握って、心から感謝してくれる。
うんうん、完全徹夜でバンディに反重力の魔法を覚え込ませた甲斐があったね!
「あのね! あのね! バンディ兄さんが、アレクシス兄さんに魔法を教えたから、アレクシス兄さんもできるようになったのよ」
末っ子の言葉に驚く。
「反重力の魔法、あれはいい。応用の幅が広い。いま、ダイン家の大人組で練習しているところだ」
大人組というと、父と母と長女かな。双子と末っ子はまだやってる気配はないね。
「お父さんはすぐ使えるようになったけど、カシュー兄さんとお母さんがまだなのよ」
長女はひと月くらいで浮かせられるようになったということだ。
「カシュー兄さんは、俺は身体強化を使えるし、料理はできないから繊細な操作ができなくてもいいって、開き直ってたのよ」
末っ子が報告してくれる。
適材適所ってことで、長男は魔道具作り特化でいいんじゃないかな。
そして、翌日、長女レベッカと冒険者アレクシスの結婚のお祝いパーティが開催された。




