11.魔法の勉強3
翌日、いつものようにお手伝いを終わらせて、ライゼスと合流して木陰に向かう。少し離れてトリスタンがついてくる。
邪魔されないなら、別にいい。
それよりも、ライゼスの進み具合が気になる。
「できるようになった?」
「当たり前だろ。ソレイユだって一日でできたんだから、僕だってできるよ」
聞いたわたしに、ライゼスは胸を張って答える。
「それもそうだね! じゃあ今日は光が出せるね!」
スキップしながら木陰に着いて、さっそく昨日のおさらいをする。
「まずは魔力を体に回してから、次に左右の手に魔力を通す」
「うん、大丈夫、できるよ」
向かい合って座り、彼が手を合わせた状態で答えてくれる。
「よしよし。じゃあ次に、手のひらの真ん中を少しずつ空けていきます」
魔力を通しながら、指先と手首の方は付けたまま、真ん中をゆっくり開いていく。
「蕾の形になります。なった?」
「う……ん、なん、とか……っ」
凄く真剣な顔をしているけど、そんなに難しいかな? まあ、できてるならいいや。
「じゃあ、それが魔力を体の外に出せてるってことだから、その魔力を使って光にします」
わたしの手の中に、ぽうっと光が灯る。
「理屈は、理屈はわかるんだ」
言いながら、彼は真剣に、蕾にした手を見ている。きっと、魔力を魔法にするのに手こずってるんだろうな。
「光、光、光れっ! あちっ!」
一瞬光った気がしたけれど、どうやら熱もあったらしくて、慌てて手を離した。
「大丈夫?」
手のひらにフーフーと息を吹きかけて冷ましている。手の真ん中が少し赤くなってるから、きっととても熱かったんだと思う、しっかり冷やさないと火傷になるよね。
どうやったら、冷やすことができるだろう、冷やす……冷やす……。
光を出すときのように手のひらから魔力を出して冷やそうと頑張るが、思うように魔法にならない。きっとわたしの魔力じゃ足りないんだ。
「大丈夫ですか、坊ちゃん。ちょっと見せてくださいね」
ゆるっとやってきたトリスタンが、ライゼスの手のひらを見る。
「まさか本当に魔法ができるなんて思いませんでしたよ。ああ軽く火傷になってますね、冷やしときましょうか」
そう言うと、ライゼスの手のひらの上で手を振ってから、小さな氷の玉を作り出した。
「回復の魔法を掛けましたが、まだ痛みがあると思うので、少しのあいだ握っててください」
回復の魔法! それに、氷の玉を作る魔法なんて、はじめてみた!
「トリスタンさん、魔法凄いね!」
「まあ、魔法剣士ですからね。どちらかというと、魔法の方が得意ですし。坊ちゃん手を見せてください。まだ痛いですか?」
「大丈夫、ちょっとピリッとしただけだから。ほら、もう赤いのもなくなったし」
そう言って手のひらを見せてくれるけれど、まだちょっと赤いよ。
「ライゼス。本当に、痛くない?」
「痛くないよ」
彼の両手がわたしのほっぺを挟んで、ニコリと笑う。
氷で冷やしていたせいで冷えている手に、思わず「ひゃっ!」と跳び上がる。
「ほら、ソレイユ先生、魔法教えてよ」
「うん」
トリスタンはまた木にもたれて本を開いている。もうダメって言われると思ったのに、続けてもいいんだ。
ホッとしてから、ライゼスに促されて、やり方を変えることにする。
「ライゼス、手をかして」
向かい合ったまま彼と手を繋ぎ、二人で輪を作る。
「これで魔力を流してみよう? 左回りね。大丈夫できるよ」
目を瞑って左手から温かい力が入ってきて、右手から彼に魔力を流すイメージをする。
最初は中々彼からの魔力を感じなかったけれど、しばらく続けているとじんわりと左手から熱が巡ってくるのを感じるようになる。
「あったかいね」
「うん、温かい力だね」
「ちゃんと、わたしとライゼスの魔力が繋がったね。そうしたら、こっちの手のひらを蕾の形にするよ」
魔力を巡らせながら、彼と繋いでいる右手の方の手のひらを蕾の形にしていく。
「ここに光をつくるからね」
しっかりと中に空洞ができたのを確認してから、魔力を光に変えていく。
「凄い、凄いよソレイユ、光ができた」
感動する彼の声に頷く。
「光ってる時間が長いのは、ライゼスの魔力が多いからかな? あ、消えた」
「もう一回やってみて」
「いいよ」
彼に請われて、何度も光を作ってみせる。
「本当に熱がない、光だけなんだよね。不思議だな」
「光の色も変えれたら面白いよね」
「色? 光に色を付けるの?」
不思議そうにする彼に見せてあげたくて、オレンジ色の光をイメージして出そうとしたけれど、どうやら魔力が足りないらしく、光すら出なかった。
「できない……。くやしい。絶対ライゼスに色つきの光見せてあげるね、きっともう少し魔力の器が大きくなれば、できると思うんだ」
「楽しみにしてるよ。あ、もう時間みたいだ」
彼が見た方向からトリスタンが本を閉じて待っていた。
「もう帰るの?」
「うん、ソレイユのお手伝いが遅くなったら、子牛たちが可哀想だし」
「ちびちゃんたち、ミルクが遅れたらたくさん文句を言ってくるんだよ。じゃあ、また明日やろうね! バイバイ」
「うん、また明日」
別れの挨拶をしてから、わたしは振り向かずに子牛の牛舎に向かって走った。