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14.腕試し

 腕試しをするオブディティの三人の兄とライゼスとわたし、そして強引に見届け人に納まったカミルが、ダンジョンの近くにある人のいない開けた場所にいる。


 わたしは前に進み出たライゼスを尊重して、先を譲った。


「剣を使って万が一があった場合、オブディティ嬢に怒られてしまいますので、この棒きれを使わせていただきます」

 そこら辺にある棒を拾って、剣をわたしに預ける。


「実力がわかればいいので、構わんよ。ではこちらも、そうするか」

 長男と思われるシトロンも木の棒を探してくる。


 わたしも自分用の木の棒を探しておこうかな、なんだかチャンバラごっこみたいでちょっとワクワクしてきたぞ。

 木の棒を捜そうと見回すと、嫌でも気付くことがある。

「あ、ちょっと待って、ここ、足場が悪いから均した方がいいよね!」


「え?」


 開けた場所ってだけで、足下には草が生い茂り、木の棒が転がっている程度には危ない。

 全員に端に退いてもらってから、刈り取りの魔法で草を一掃し、落ちてる枯れ枝もまとめて一カ所に積み上げる。


「なるほど、麦の刈り取り?」

 わたしの後ろで見ていたライゼスに問われる。

「どっちかっていうと、牧草かな。ロールにしなくていいと楽だね」


 それから凸凹の地面を、一気にプレスする。ちょっと沈み込み過ぎたかも……五㎝ぐらい段差ができてしまった。


「地面に圧を掛けたのは?」

「凸凹してたら危ないでしょ。因みにこの方法は、麦って圧を掛けなきゃ発芽しないからさ、身体強化して重たいローラーを牽くんだけど、重力の魔法で圧を掛けたら早いんじゃないかなって、試行錯誤してたんだよね。でもまだまだ、練習が必要みたい」

 そう言って地面を見る。

「そうだね……これじゃ、麦が全部潰れて、粉になってしまうかもしれないね」

 麦の種が全滅なんて笑えない。もっと訓練して、加減を覚えてから使おう。


「さあ、舞台が整ったよ! ライゼス頑張ってね!」

 しっかりと応援すれば、ライゼスは嬉しそうにわたしの頭を撫でた。

「確かに『整った』ね。そんなにソレイユが応援してくれるなら――頑張ろうかな」

 木の棒を握り直したライゼスが、ゆっくりとシトロンを振り向く。


「いい顔だ」

 体格がよくて、凜々しい顔立ちのシトロンも木の棒を持って中央に向かう。

 二人が真ん中まで行くと、見届け人であるカミルが手を上げた。


「それでは、腕試しということを忘れずに。はじめっ!」

 手が下ろされると、身体強化をしたライゼスが、素早く間合いを詰める。


「ふんっ!」

 純粋に木の棒を振り下ろすだけの一撃だが、打ち合った木の棒はそんなやわな音じゃなかった。

「木も強化しているのか。二人とも、やるなあ」

 わたしの近くまで下がったカミルが、腕組みをして解説してくれる。

「それにしても身軽だ」

「そうでしょうとも! ダンジョンだと壁や天井があるから、もっと曲芸みたいに戦えるんだよね」

 広い場所での戦闘は、わたしやライゼスには不利なんだよね。

 スピード重視でトリッキーな動きをしたいから、天井や壁がある方がいいんだよ。なんなら、立木のある森の中でもいい。こうして広々した場所は、割と苦手なんだよね。

 とはいえですよ、これは実力を見たいだけなんだし、問題はないか。


 ライゼスの連撃が続き、周囲に木の打ち合う音が響く。

「決め手に欠けるのか」

 カミルが思案するように言った直後、軽く地を蹴り跳び上がったライゼスがシトロンの棒の先端に着地し、自分の持っている棒の先をシトロンのおでこに付けた。


「勝負あり!」


 カミルの宣言で、ライゼスはシトロンに突きつけていた木の棒を下ろして、乗っていた棒の先から綺麗な後方回転で降りた。

 戦いが終わった二人は、握手をしている。


「じゃあ次はわたしだねっ!」

 対人戦というのはやったことがないので、ワクワクしてきた。


「ちょっと待て、ソレイユ嬢の実力はもうわかってるだろう」

「なんで?」

 怪訝な顔をしたのはわたしだけで、カミルの言葉に三兄弟が頷いた。


「広範囲を切り裂く魔法の刃に、広範囲を一度に押しつぶす圧殺魔法を使えるんだぞ?」

 随分と酷い言われようだ。圧殺魔法ではなくて転圧しただけだっていうのに。

「わたしは対人戦はしなくていいの?」

 折角気分がのってるのに。


「ソレイユ、我が儘を言ってはいけないよ。それに早く戻らないと、オブディティ嬢を待たせてしまうんじゃないかな?」

 ライゼスに窘められてハッとする。


「そうだね! オブディティさんを待たせたら、怒られるよねっ! ちゃんと、お兄さんたちに絡まれて遅れましたって、説明しなきゃ」

 フンスッと鼻息も荒く宣言すると、三兄弟が慌てる。

「待て待て待て待て」

「それは勘弁してくれ」

「屋台で肉串を奢るのと、甘味を奢るのはどっちがいい?」


「肉串でお願いします!」

 二男アゲイルとの取り引きが成立する。その様子を見てカミルは苦笑しているが、口出しはしてこない。


「じゃあ、たまたま会ったことにしておこうね、ライゼス」

「そうだね。――既に、バレてそうだけど」

 ライゼスがわたしにだけ聞こえる声で後半を付け足す。

 バレてるかな?


「では皆さま、申し訳ありませんが、お先に失礼いたします」

 ライゼスがカミルと三兄弟に礼をして、わたしに向かって頷く。


 了解! 全力離脱だね!


 ライゼスに差し出された手を握り重力の魔法で体を軽くする。

「ライゼス、方角は大丈夫?」

 森の中なので、わたしはもう領都の方角なんてわからないよ。

「勿論だよ、落下は任せて大丈夫かな?」

「大丈夫。じゃあ、向こうで待ってるね」

「ああ、すぐ行く」

 肩が抜けないように身体強化をして準備ができたと頷くと、ライゼスはわたしを引き寄せて頬にキスをした。


「ソレイユ、気をつけてね」

 そう言うと、ライゼスはわたしをぶん回して遠心力を作り、わたしを斜め上に思い切り放り投げた。

 言うなれば人間ロケットだ。


「え、ちょ、なにをっ!?」

「おい! おい!?」


 慌ててる三兄弟とカミルがぐんぐん遠くなる、空気抵抗を受けないように体を細くして身じろぎもしないようにする。

 眼下にはダンジョンに続く道があり、それに沿うようにわたしは飛んだ。

 やがて推進力が落ちて落下になったので、重力の魔法を操作し更に体を軽くして着地の衝撃を減らす。


 ギルドが見えてきたので、体勢を少し変えて方向を修正し周囲に人が居ない場所を目指して着地を決める。


「はい、到着ーっ」


 調子に乗って宙返りを何回か入れてから、シュタッと地面に着地した。着地のちょっと前からわたしに気付いた人たちからどよめきが湧く。


「十点満点!」

 ビシッと両手を水平にして、着地が決まった!


「九点かしらね。周りの人をドン引きさせた分減点」

「オブディティさんの採点が厳しいっ」

 冒険者ギルドのドアの横で腕組みをしてもたれていた、特攻服姿の黒髪美少女に凄まれる。


「空から降ってくるのはおやめになってくださいまし。万が一、人に当たったらどうするのですか」

 オブディティの小言が心地よい。

「着地地点の周囲に人が居ないのは、索敵の魔法で確認してるから大丈夫だよ。それでオブディティさん、冒険者登録はどうなったのかな?」


 てってってと近づいて首を傾げて見せる。

「四度目の正直でちゃんと取得できましたわ」

「おめでとうっ!」

 会心の笑顔を向けるオブディティとハイタッチする。

 ついでに、周囲にバレないようにヒーリングライトを手の中で当てる。


「ありがと。実はふらふらだったのですわ」

 彼女にそっとお礼を言われて肩を竦め、凭れていた壁から背中を離した。


「本当はライゼスみたいに、撃てればいいんだけど、まだ光っちゃうから」

「あなたが手こずるなんて珍しいわね」

「そうかな? すんなりいく方が珍しいよ?」

 悩んで練習して、練習して、なんとかしてるんだけどな。


「それで、ライゼス様はどうしたの。もしかして、うちの兄たちに絡まれているのかしら」

 オブディティの言葉に、思わずぎくりと肩が揺れてしまう。

「え、ええと、ちょっと、用足しがあって、わたしだけ先に来たんだよね」

「大丈夫よ、兄たちが来ていたのは知っているから。となると、絶対にわたくしとパーティを組むあなたたちに接触するはずだもの」


 三兄弟の行動はやはりオブディティに見透かされていたのだ。

 オブディティにバレてしまっては……ああ、肉串は諦めよう。


 彼女とお喋りをしながら、ライゼスたちが来るのを待った。

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誤字脱字報告、大変、大変っ助かっております! ありがとうございます!! ゜・*.✿*書籍化決定しました!*✿.*・゜ 読んでくださる皆さまのおかげです! ありがとうございます。°(°´ω`°)°。ウレシ泣キ
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