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13.四度目の正直

 こっそりとオブディティの冒険者登録の実技試験を見守っている、わたしとライゼスです。

 気分は『はじめてのお使い』を見守る保護者。


 今回もしっかりと魔物討伐を引いたオブディティだったけれども、今回はいつもとは違って拗ねることなく堂々とそれを受け入れた。


 装いも新たに……ええと、膝下までの長ランの特攻服にボンタン、ポニーテールにした額には鉢巻きで、武器は鉄パイプです。長ランの背中には漢字で『安全第一』と書かれている、今後空いているスペースに龍や鳳凰を刺繍したいとのこと。


 オブディティは形から入るタイプだったんだねえ……そして、漢字とか、自重しないねえ。漢字を知らない人からは、どこの言葉なのか、何かの文様なのかと不思議がられていた。

 この世界の人は元ネタを知らないので、変わった服だなという感想で済んでいるし、なにやらとても感銘を受けてる人もいた。もしかしたら、流行るかもしれない。


「ビッグラット、来たようだね」

 索敵をしていたライゼスが教えてくれる。


 立会人と共に、おっかなびっくりダンジョンを進んでいたオブディティの正面から、今回の標的であるビッグラットが近づいてきていた。


 このダンジョンの一階層だと、律儀に一匹ずつしか出てこないから安心なんだよね。初心者に優しいダンジョン仕様、オブディティは一階層はチュートリアルみたいだと言っていたっけ。


 そんな安全仕様のダンジョンだとはいえオブディティだし、心配が消えることはない。

「大丈夫かな……」

「何かあれば、すぐに出よう」


 手を貸してしまえば失格になるし、回復を撃ち込むのもオブディティがズルをしているみたいで嫌だと言っていたので、なるべく我慢するけど。

 とはいえわたしたち以外にも、オブディティの同行をソワソワしながら見守っている人たちが、何組か見受けられる。

 広く明るい通路は分かれ道が何本もあり、そこに隠れてオブディティを見守っているのだ。


 連続三回実技で落ちてちょっと有名になっているから、温かい視線で見守る人が出てきてるらしいんだよね。受付の人が言ってた。


 わかる、見守りたくなるよね。


 わたしたちの前にいるガタイのいい男の人三人とか、通路に隠れながら武器も握らずに拳を握りしめて、オブディティを見守ってるし。

 三人とも黒髪だから、同じ黒髪のオブディティを応援してるのかな?

 黒髪同盟を作りたいのかもしれないが、彼女はすでにわたしたちのパーティに売約済みだよ。


 少し前に陣取る三人を気にしているわたしに、ライゼスが耳打ちする。

「彼女のお兄さんたちだね」


 えっ、オブディティのお兄さん!

 小柄なオブディティとは真逆の、逞しい三人をまじまじと見てしまう。いや、オブディティの兄なら貴族なので、ジロジロ見てはいけないかもしれない。

 好奇心を堪えて視線を外す。

「どうしたの?」

 わたしの様子に気付いたライゼスが、不思議そうに声を掛けてくる。

「ええと、義務と権利の話で……」

 部室で聞いた、貴族の話を思い出したのですよ。


「ああ、冒険者をしているときは、気にしなくていいよ。講習で習っただろ? 冒険者になったら、頼りは自らの才覚のみ、家格で縛ることはできない、強いて言うなら序列はランクで決まるって」

「暗黙の了解とかはなくて? ほら、貴族優先とか」

 おたおたしながら、小声で確認する。


「ないよ。そんなことしてたら、高階層になったとき、死ぬよ」

 ズバッとライゼスに言われて納得する、それもそうか。


「もし、家格を笠に着る冒険者がいれば、ギルドに通報していいことになってるしね。勿論王族でも」

「やだなあ、王族は冒険者にならないでしょう」

 ライゼスジョークかと思って笑ったら、どうやら真実だったらしい。

「流石に王位継承権が上の場合は無理っぽいけど、権利を返上したり、継承権が低い場合は問題無いよ」


 王族でも冒険者になれちゃうんだ。

 領主の息子であるライゼスも冒険者になってるし、貴族の令嬢であるオブディティもこうして冒険者登録を目指している。

 冒険者って安全な職業ではないと思うんだけど、ある程度の安全を担保しながら活動することもできるからなのかな?


「いい、ストレス発散になるしね。素材を収めれば、世の中にも貢献できるし」


 スポーツ感覚かな? それで、他者貢献もできて満足感もあるし、お金も稼げるんだから、確かに悪くないかも?


 なにかモヤッとはするけれど、まあ、いいか。

 身分関係なく、命は懸けているわけだし。


「なにより、ソレイユとの結婚資金も貯められるしね」

 耳元で囁いてきたライゼスから、思わず飛び退こうとして抱き止められた。


「ほら、オブディティ嬢が接敵するよ」


 視線を戻すと、オブディティの近くまでビッグラット走って来ていた。

 彼女は落ち着いて両手で持った鉄パイプを構えると、しっかりと敵を見ている。


「いち」

 左足を軽く開き、脇を締める。

「に」

 右足を僅かに後ろに重心移動しつつ、鉄パイプを構えた手を軽く引く。

「さんっ!」

 左足を踏み込むと同時に、身体強化して鉄パイプを振り抜いた。


 さん、は「三」じゃなくて、「散」とか「惨」とかなのかな……。

 一瞬で魔物は討伐された。


 討伐した証しである魔石とアイテムを拾って笑顔の彼女に、さっきライゼスが言っていたストレス発散という言葉が思い出される。


 確かに、ストレス発散ではあるか……。深い階層だったら周囲を索敵してピリピリしなきゃならないからストレスは溜まるだろうけれど、低階層なら確かにストレス発散になるのは間違いないね。


 喜びを分かち合いに行きたいのを我慢して、帰路につく彼女から離れて後を付いていく。勿論、黒髪三人組もダンジョンの出口に向かっている。他の見守り組も、解散したようだ。


 そしてダンジョンを出たところで、オブディティの兄三人に声を掛けられた。



   *  *  *



 どうしてこうなった?

 妹大好きな兄三人が、パーティを組む相手を見定めるために接触してきたところであります。


「理解はできる。大事な妹を預けるに値するか……わたしもティリスやカティアが冒険者になるって言ったら、絶対にパーティメンバーの実力は気になるし」

 名乗って理由を教えてくれた彼らに、思わず頷いてしまう。

「ご理解いただきありがとう。では、腕試しを願おう」


 脳筋かな?


「ターザナイさん、申し訳ありませんが、対人戦の経験がないので、腕試しというのは難しいのですが」

 ライゼスがはっきりと断る。

「なに、君たちの実力を見たいだけだ。こちらからは攻撃を仕掛けないから安心していい」


 そうは言われても……。

 ライゼスと顔を見合わせる。「君たち」ってことは、どっちか一人ではダメってことだ。


 引かない様子に諦めて承諾し、人の居ないところへ移動する。

 三人の後ろを付いていくと少し開けた場所があり、そこで彼らと向き合ったけれども、その前に。少し離れて後を付いてきていた人の方を振り返る。


「そこの人ー、なにか御用ですかー」

 見えない位置で止まっていたので、敢えて明るい声を掛ける。


 もしかすると、三兄弟の護衛とかなのかもしれないけれど、隠れて見られるのは嫌だ。

 わたしが声を掛けたからか、躊躇うことなくその人は空き地まで出てきた。

 三兄弟よりもガタイがいいし、冒険者としての装備も立派だ。それに、雰囲気が歴戦の猛者。


「よく気付いたな」

 猛者が笑顔で言う。

「索敵は得意です!」

 得意気に胸を張ると、隣のライゼスに微笑んで頭を撫でられた。

 ちゃんと出来てて偉いってことかな?


「俺は、カミル。ランク四の冒険者だ。冒険者同士の私闘は禁じられているのは知ってると思うが、気になってね」

 そう言って、わたしたちを見回す。


 アレクシスと同じ、高ランクで震える。

 高ランクと認識されているランク五に上がるにはかなりの力量が必要で、四に上がるにはダンジョン踏破などの大きな手柄が必要になる。ランク三以上は、わたしにとって未知の世界だ。


 カミルから指摘された、冒険者同士の喧嘩が禁止なのは知ってる、ちゃんと規約にも書いてあったし。

「はいっ! 喧嘩じゃなくて、腕試しです」

 手を上げて説明したわたしの手を、ライゼスが横からそっと下ろした。

 あれ、駄目だった?

 三兄弟を見ればゆっくりと首を横に振られた。

 そうか、違ったか。


 もう一度、カミルに向き合う。

「これからわたしたちと一緒にパーティを組む友人が、そちらのお兄さんたちの妹さんで。妹が心配なお兄さんたちが、わたしたちの実力を確認したいとのことでしたので、腕試しをするところでした」

 三兄弟が頷き、ライゼスも頭を撫でてくれた。

「やれば出来るのに、君はすぐ端折るよね」

「簡潔に伝わるなら、面倒な説明はしたくない派です」

 ライゼスを見上げて、力強く頷く。


「結果的に二回説明することになるから、時と場合を考えた方がいいよ」

 そうは仰いますがね?

「説明なんて、本当はライゼスの役回りだよ?」

「それはそうだね」

 わたしの言い分に、ライゼスが苦笑いする。

「ライゼス……ああ、君がか」

 カミルはライゼスの名前を知っていたらしく、なんだか納得したような顔をした。

「ということは、そちらのお嬢さんは」

「ソレイユと申します」

 先に名乗ってくれているので、ちゃんとこちらも名乗っておく。


「丁寧にありがとう。取りあえず、理由はわかった。じゃあ、俺が見届け人となろう、万が一冒険者ギルドに通報がいっても、第三者の証言があれば話が早いだろう」

 誰か近くにいたら、索敵の魔法でわかるんだけど……と言う雰囲気ではなかったし、きっとなんだかんか理由を付けて見ていく気がしたので、頷いた。


「じゃあ、僕から」

 そう言って、ライゼスが先に一歩前に進み出た。

過保護なお兄ちゃんたちは妹が冒険者登録できるように鍛えはしたものの、妹がお荷物でしかないことを理解しているので、パーティに力量が足りないと思えば強引に離してしまおうと思っております。お荷物持参のパーティは危険なので。


感想で質問いただいたので

Q.オブディティの特攻服の下はサラシですか?

A.サラシは兄たちに止められたので、ハイネックのシャツです(≧∇≦)ノシ

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誤字脱字報告、大変、大変っ助かっております! ありがとうございます!! ゜・*.✿*書籍化決定しました!*✿.*・゜ 読んでくださる皆さまのおかげです! ありがとうございます。°(°´ω`°)°。ウレシ泣キ
― 新着の感想 ―
本気で特攻服に大爆笑っ!!(笑) 不良少女と呼ばれて世代なのでかなりウケました。 いつも楽しいお話をありがとうございます。 元気が出ました!m(__)m
まさかの特攻服! 長ランの下は、サラシでしょうか? かわいいと何着ても似合いそうですが。 あ、安全第一……龍に鳳凰…… 読者の腹筋まで鍛えていただき、ありがとうございます。←(>▽<)ノ
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