11.試験対策
オブディティの回想から戻ってまいりました(o´∀`o)
――結局、オブディティは刀を没収され、軽量で丈夫な打撃武器を渡されたそうな。
「刀で指を切るって。オブディティさんって、案外、おっちょこちょいなんだね」
「ふふふ、ソレイユさんには負けますわ」
オブディティはそう言うと、収納能力の中に入れてあった武器を取り出した。
「単管パイプ……」
「ちゃんと持ち手に滑り止めを付けて、すっぽ抜けないようにしてあるのよ」
軽量化の為に中を空洞にした、金属の棒だ。
よくジョイントで繋げて柵にしたり、ビニルハウスの支柱に使う単管パイプのような棒が、オブディティの手の中にある。
「そういえば、思った場所なら、どこへでも出せるの?」
ふと湧いてきた疑問を投げかける。
「自分の物でしたら、見える範囲であれば出せますわね。それ以外だと、手で触れなければ、出し入れできませんわ」
わたしの教科書に触れて収納し、空間から手で取り出して他の教科書の上に戻した。
「大きな物も触れたら、入れられるんだ? じゃあ、大きな石を収納に入れて、敵の頭上に落とすとか」
「……石を自分の物だと認識できれば、多分、できますわね。わたくしの視認できる範囲にはなりますけれど。ということは、わたくしの攻撃手段が増えるということですわね!」
「他の人の目がないとき限定だけど!」
興奮してしまう。
視認出来る距離なら、見通しさえよければ、どこまででもイケるってことだよねっ!
「うわあ! 早く試したいねっ」
今すぐダンジョンに行きたくなる!
「そうですわねっ。――あ、こほん。見通しのいい場所は、誰から見られているかわからないものですわ、残念ですけれど、そんな広い場所で使うことはできませんわね」
一緒になってテンションが上がっていたのに、咳払いで落ち着いた彼女に問題点を指摘された。
解せぬ、折角盛り上がっていたのに。思わず唇を尖らせたわたしに、彼女は笑う。
「でも、一撃必殺の鉄パイプ以外の攻撃手段があるのは、とても心強いですわね」
あ、それだ! 『鉄パイプ』だ、暴走族漫画とかでメジャーな武器の名称。
日本人の記憶の中で資材としてよく単管パイプを使っていたからついそっちで呼んじゃったけど、武器なら鉄パイプ呼びだったね、うん。
「でも、わたくしの収納能力の前に、まずは試験の準備ね」
すっかり通常モードに戻ったオブディティに促されて、仕方なく試験勉強に取りかかることにした。
* * *
「ソレイユさん……さっきから、時々、ぴかーっとやるのやめてくださらない? 気が散りますわ」
勉強机では狭かったので、共有スペースのテーブルに移動して、ソファをずらして絨毯に綺麗にする魔法を掛けてから直に座って、二人で勉強をしていたんだよね。
「こうやって地べたに座って勉強するって、この世界に来てからはじめてだから、すぐ足が痺れちゃわない?」
「それは仕方ありませんわよ。でも、そういえば、あまり足が痺れていないような……」
オブディティが気付いて自分の足先に触れて、痺れていないことを確認する。
ふっふっふそうでしょうとも!
「その秘密がこれですっ」
満を持して、顔面からヒーリングライトを出して見せた。
「眩しっ! ちょっとっ! なにを――っ」
オブディティが、わたしの顔を見て悶絶した。
声も出ないほど笑い、最終的には腹筋が痙るという苦情までもらってしまった。
万が一痙ってもヒーリングライトで治るんだけど、しおらしく苦情を聞いてからネタバレをする。
「実はこの光、ヒーリングライトっていって、シリリシリリ草のあった秘密の部屋の、宝箱から出てきた能力本っていうのを使ったら、習得しました。さっきから時々光っていたのは、ヒーリングライトで足の痺れを治してました」
ダンジョンで新しい部屋を見つけて、シリリシリリ草の話はしたけれど、ヒーリングライトの能力について言えてなかったので説明する。
ちゃんとライゼスとも話し合って、オブディティには言ってもいいということになっているのだ。
「ちょっとまって、それって、凄いことですわよね? スキルで回復するってことは、魔力は使っていないのでしょう? 際限なく使えるのではないの?」
「いくらでも使えます。一晩中でも!」
既に、二男に反重力の魔法を習得させるときにやったから、実績もある。
「なんてこと……能力本自体が稀少なのに、それを使って、そんな凄い能力を得たなんて。こんなこと、他の人間に知られたら――」
「オブディティの、収納能力と同じくらいヤバイよね?」
にんまり笑ったわたしに、彼女が引き攣る。
「だから、わたくしには教えてくれたのね」
「パーティを組むんだから、隠すのが勿体ないということになりました。因みに、ライゼスもわたしと一緒にこの能力を手に入れました」
能力本は能力を手に入れるときに、本に触れていた人全員に能力が与えられるということを伝えた。
「でしたら、もっと多くの人を巻き込んで、ヒーリングライトの希少性を下げてしまえばよかったのではないの?」
「能力本は、能力を得るまでは、何の能力が手に入るかわからない、ロシアンルーレットです」
真面目な顔で伝えると、彼女が言葉の意味をくみ取ってくれる。
「……ということは、ろくでもない能力を得る可能性もあるということね」
「そうらしいです。だから、同行していた、ライゼスの護衛は、万が一の時の為に、能力本には触れずに待機していました。因みに、能力本は一回使い切りで、コレクターに法外な値段で売買されるそうです」
ライゼスが教えてくれたことを、オブディティにも教える。
「法外な値段より、使うことを選んだのですね、流石ですわ。それで、この能力を知っているのは、何人くらいなのかしら?」
「わたしと、ライゼスと、取得するときに同行していたライゼスの護衛一人と、領主様と、オブディティさんで五人かな」
「部外者は実質、領主様とわたくしだけではないの」
オブディティが引いている。
「普通の灯りの魔法だって思ってればいいよ。ちょっと疲れが取れたり、痛みが取れたりするライトだと思ってね」
「便利なライトですわね」
「そうなんだよねっ、このライトがあれば疲れ知らずだから、いくらでも徹夜できるんだよ」
ウッキウキでそう教えてあげると、肩を落とされてしまった。
「ソレイユさん、それはね、あなた、エナドリを何本も飲んで残業をする、社畜の思考ですわよ」
「そうなの? でもさヒーリングライトは副作用もないし、疲れ知らずで勉強に集中できたらいいよね?」
しっかりと安全なことをアピールする。
「睡眠は取りますわよ?」
「ええ? ライトがあれば、寝なくてもなんとかなるよ。ちょっと太陽が黄色く見えるけど」
あれは不思議だよね、もしかして気分の問題だったのかもね。
「もうやったあとなのね。太陽が黄色く見えるのなら、徹夜の影響があるのではないの。つべこべ言わずに寝ますよ」
「あともう少しだけ」
「試験は一日では終わらないのですから、今日はここまでにしましょう」
頑として譲らないオブディティに折れる形で、テーブルの上を片付ける。
まあ、自分の部屋でやれば――
「部屋でやろうとしていますわね」
ギクッとしたわたしに、彼女は溜め息を吐き出す。
「ソレイユさん、試験が終わるまでは、一緒のベッドで眠りましょうね」
珍しく強引な彼女によって睡眠を確保され、万全の体調を維持されることになった。
ライゼス「オブディティ嬢。ソレイユから、最近一緒のベッドで寝ていると聞いたのですが?」
オブ「ええ。だって、そうしなければ、あの子、徹夜しようとしますのよ。睡眠を蔑ろにすると、長生きできませんわ。ライゼス様も、末永くソレイユさんと一緒に居たいでしょう? わたくしは、お二人のためにやっているのですわ」
ライゼス「……僕よりも先に、同衾した報いは受けてもらいます」
オブ「ちょ、ちょっと、お待ちになって、ライゼス様? ライゼス様!?」
その後、ちまちまとした嫌がらせを受けたオブディティがソレイユに泣きつき、ソレイユがライゼスに甘えることで事なきを得たとか得なかったとか。