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9.オブディティ・イクリプスの特訓

オブディティ視点です

 イクリプスの家は、領都の貴族街の東端にあります。


 領地は持っておらず、代々騎士として、領主に仕える家系で、現在の当主である父も騎士として武勲をいくつも立てて、子爵という地位を不動のものにして久しい家なのです。

 三人居る兄たちも、それぞれ騎士として各所に出仕しております。


 今日はわたくしが寮から家に戻るので、兄たちも数日休暇をもぎ取って帰ってくるらしいのですが。

 実にむさ苦しい限りですわ……。


 上から二十四、二十二、二十と二つおき生まれの三人の兄たちは、末に生まれた十六のわたくしを溺愛しているといっても過言ではないのです。


 わたくしを小さくて可愛いと猫かわいがりをするのですけれど。父を含めて大岩も動かすような屈強な大男共に比べれば、どんな人でも小柄で可憐と形容できると思うわ。

 両親や兄たちの愛情が嬉しくないわけではないの、わたくしも家族のことを愛しているのですし。

 ただ……ちょっと、暑苦しいというか、むさ苦しいというか。


 だから、入寮の時もできるだけ急ぎで入り、休みに入り寮を出るのもギリギリにしているのです。


「ただいま戻りました」

 遠くの土地に帰らねばならないソレイユさんに比べれば、何倍も楽な帰宅だわ。


 僅かな時間馬車を走らせてたどり着いた我が家は、なにも変わらない佇まいでわたくしを迎えてくれる。


「お帰りなさいませ、お嬢様」

「お帰りなさいませ」


 執事とメイド長が出迎えてくれ、わたくしはそのまま母の居る部屋へ向かいます。

 家の一切を取り仕切っている母なので、父が出仕している間は父の書斎を使っている。別に家政の為の部屋があるのに、父の気配がある書斎が好きとのこと、今でもラブラブなのには羨ましさを感じますわ。


「お母様、ただいま帰りました」

「オブディティ、お帰りなさい。少し大きくなったかしら?」


 抱きしめ合った母にそう言われたけれど、残念ながら一ミリも伸びていないのは、こっそり毎日身長を測っているので承知しているわ。


「お母様が縮んだのかもしれませんね」


 わたくしと同じ色味を持つ母はわたくしよりも拳ひとつ分くらい背が高いのですけれど、我が家に置いては五十歩百歩ですわ。


「また、そういう意地悪を言うのだから。折角美味しい珈琲を用意したのに、飲ませてあげませんよ」

「冗談ですから。まずはお茶にいたしましょうよ、帰りがけに美味しそうな焼き菓子を買って参りましたから、お兄様たちが戻る前に」

 お兄様たちは、味わいもせずに質より量で食べるので、美味しいモノを出す必要を感じませんわ。

「あら、それはいいわね」

 母は侍女に命じて、すぐに珈琲とわたくしが買ってきたお菓子と一緒に、庭のテーブルに用意するように指示を出してくださったので、用意している間にわたくしは一度部屋に戻って制服から着替えてから庭へと向かい顔を引き攣らせてしまいましたわ。


「ターザナイ兄様、今日はお休みではないでしょう? どうして、もう帰宅しているのですか」


 三男であるターザナイ兄様がちゃっかり、母と一緒にテーブルを囲んでいるのを見つけて指摘すれば、立ち上がって大股で近づき、わたくしを抱きしめてきた。


「お帰り、オブディティ。待っていたよ」


 ちゃんと力加減をしてくれるところはありがたいけれど、わたくしももう十六なのですからと、抱擁から逃れる。


 我が家は黒髪遺伝子が強いのか、わたくし含め四兄妹の色味は全員同じ、黒。

 周囲からは、イクリプス家だと分かりやすいと好評ではあるのですわ。


 地球の記憶のある私には不思議だけれど、この世界の髪色と目の色は遺伝子で決まるわけではないので、わたくしたち兄妹の色味が合ったのは本当に偶然で面白い神様のいたずらですわね。


「こんなに長い間、会わなかったことないじゃないか。寂しかっただろう?」


「学園の授業で忙しく、寂しさを感じる暇もありませんでしたわ。それよりも、お仕事をサボったわけではありませんよね?」

 腰に手を当てて、怒った顔でターザナイ兄様を見上げる。

「ちゃんと別の休日と振り替えてきたから、心配いらないよ」

 慌てて言い繕うターザナイ兄様に、それなら良かったと表情を和らげた。


「あなたの兄たちは、家に帰ってもオブディティが居ないからと、びっちり仕事に出ていますから。所定の休日の振替が溜まっているそうですよ」


 だからわたくしの休暇に合わせて、何日も休みを取るなんてことができたのかしらね。


「オブディティが家から通ってくれれば、私たちもちゃんと休みを取るのだが」

「わたくしのせいにしないでください」

 ぴしりと注意すれば、嬉しそうに「ごめんごめん」と言うけれど、わたくしは謝罪とは認めませんわ。


「そういえば、鍛えて欲しいと手紙にあったが、一体どういう風の吹き回しだい?」

 ターザナイ兄様に聞かれて、級友たちと冒険者としてダンジョンに潜りたいことを伝える。


「わたくしのくじ運の悪さはご存じですわよね? 実技で採取を引ければいいのですけれど、三度連続で討伐を引いてしまい、不合格でした……ですから、どうにかして一匹だけでも討伐できるだけの力が欲しいのです。協力してくださいませ、お兄様」


 ターザナイ兄様の分厚い手を取り、両手で握って切実な顔で訴えると、怪訝だった表情が少し緩む。


「協力するのは構わないが。オブディティは、剣もまともに持てないだろう?」

「魔力の制御も下手で、一気に魔力を放出してしまうものね」

 攻撃手段である剣も魔法も難ありと兄と母に断じられてしまいましたが、わたくしは毅然と反論をいたします。


「剣を取り落としたのは子どもの頃ですわ、あれから筋力も付きましたから、軽い剣ならば持てるようになっているはずです」

 断言したわたくしを、二人が胡乱な目で見てきます。


「わかった、まずは剣を持ってみようか」

 ターザナイ兄様に連れられて、我が家の武器庫へと移動しました。


 剣を持ちあげられないことにがっかりした幼いあの日から、一度も足を向けたことのない場所です。

 武器庫の中は整然と武器が並べられ、汚れひとつ見当たらない。そのことに感心をしたわたくしに、ターザナイ兄様は真面目な表情で説明してくださります。


「武器は己の命を預けるものだから、雑に扱わないことを一番にたたき込まれるんだよ」

「そうなのですね。では、わたくしも肝に銘じておきます」


 真剣にそう答えれば、ターザナイ兄様は笑顔になってわたくしの頭を撫でてくれる。


「髪が乱れるので、やめてくださいまし」

「オブディティの髪はすぐに真っ直ぐに戻るじゃないか」


 そう言いながら手ぐしで髪を整えてくれるターザナイ兄様に、思わず溜め息がこぼれてしまう。


「どうして他の女性には、こんな風に気安く触れることができないのでしょうね」

 奥手で有名な三番目の兄様なのです。

 憧れてくださる女性も多いというのに……。


「身内とは一緒にならないだろう。そもそも、私のような無骨な人間に、好意を寄せてくれる女性など……」

「好意は与えるものですわ。好意を受けることばかり考えるなんて、甘いですわね」


 わたくしライゼス様を見ていて痛感いたしました。あそこまで、熱烈にアプローチすれば、多少問題はあっても女性は落ちると。


 ライゼス様はデメリットよりもメリットが大きい御仁なので、参考にならないといえばそうなのですけれども。受け身の態勢よりは、よっぽどいいと思いますわ。


「まずは、意中の女性を見つけるところからですわね。そんなことよりも、わたくしの武器を探すのが先決ですわ、どういった基準で探せばよいのかしら?」


 ターザナイ兄様の職場は男所帯なので難しいだろうけど、頑張って愛する人を見つけてほしいものですわね。

 上二人の兄様たちのように、学園の在学中にお相手を見つけられればよかったのですけれど。ターザナイ兄様は奥手なので、お見合いで相手を決めてもいいと思いますわ。そもそも、貴族なのに自由恋愛をしている上二人の兄様たちがレアなのですし。


「オブディティが使うなら、やはり軽い方がいいだろうな」

 ターザナイ兄様が細身の剣を探してくれて、わたくしがそれを持ちましたが……。

 手から落とすことこそないけれど、とても振れるような重さではありませんでした。


「これも駄目か……どれなら使えるだろうな、短槍もありか」

 一メートル程の長さがある柄の部分が木製で先に付いている剣の部分だけ金属で出来ているので、わたくしでもなんとか使うことはできそうだと伝える。


「ですが、この距離まで近づかなければ、攻撃できないというのは怖いものですわね」

「それを言ってしまえば、剣だって同じようなものだ。距離を取りたいとなると槍だが、ダンジョンだと取り回しが悪いし、重いからオブディティには使えないだろう」


 わたくしは運搬要員として付いていくだけなので戦うのは他の二人にお任せいたします、なんて言おうものなら、ダンジョンを甘くみるな、魔物を甘くみるな、冒険者というものを甘くみるなと、怒られるでしょうね。

 真剣に悩んだ末の兄から一振りの剣を渡されて、胸がときめきました。


「特別に軽く作られた、かたなという剣だ。他の剣と違って、これは切る事に特化しているので、やいばが薄く、片刃となっている」

「刀……ですか」


 凝った意匠の鞘に収められたまま、その刀を受け取りました。

 特殊な技法で作られたそうで、確かにとても軽くてわたくしでも扱えそう……いいえ、扱いたいですわ。


「抜いてみてもよろしいかしら?」

「ああ、気をつけて」


 ターザナイ兄様から少し離れて鞘から刀を抜き、両手で構える。

 思ったよりも重くはなくて、胸がドキドキする。


「確かにこの刀でしたら、わたくしでも振ることができそうです」

「癖のある剣だし、使いこなすには修練が必要になるだろう」


 渋るターザナイ兄様を説き伏せて刀の使用許可を得たわたくしは、何が何でもこの刀を使いたいという一心で筋トレと木剣での素振りを開始しました。

オブさんの口調に苦戦中であります(*>ω<*)ゞ

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誤字脱字報告、大変、大変っ助かっております! ありがとうございます!! ゜・*.✿*書籍化決定しました!*✿.*・゜ 読んでくださる皆さまのおかげです! ありがとうございます。°(°´ω`°)°。ウレシ泣キ
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