8.報告
ライゼスと付き合うことになったと伝えた途端、オブディティに頭をわしづかみにされました。
「両親公認で、お付き合いということは、取りも直さず結婚が許可されたということではありませんか」
怖い、顔が怖いよ、オブディティさんっ!
「いやいや、流石にそこまでの話にはなってないよ」
「なってるんです。そうでなければ、お互いの両親に話を通しておく必要なんてないではないの」
オブディティの説明してくれたところでは、付き合うだけなら当人同士で終わり、将来を約束するのならば両親に紹介する。貴族的、暗黙の了解だそうです。
存じ上げておりませんでした。
「……まあ、あの方が相手ですから、遅かれ早かれでしょう。お付き合いを了承したということは、もう腹をくくったのでしょう? でしたら、いいじゃありませんか」
「う、それはそうなんだけどね」
しょぼんと肩が落ちる。
「でもさ、なんだか毎回、わたしがライゼスの思うとおりに動いてる気がして、悔しさがあるというか」
もごもごと言って、手をもちもちといじる。
「あなたもライゼス様を振り回しているから、お互い様だと思いますわ」
オブディティがキリッとした顔で断言してきた。
「そ、そんなことないと思うけど」
「あら……自分では、分からないものなのかしら」
真顔で考え込むオブディティを見て、もしかしてわたしってそんなにライゼスを振り回しているのだろうかと不安になってしまった。
それが顔に出ていたのか、わたしの顔を見たオブディティが苦笑する。
「ライゼス様は、それも承知の上であなたと付き合っているのだから、気にせず、振り回せばいいのではないかしら」
「それって、酷い女じゃない?」
おずおずと言ったわたしに、彼女は声をあげて笑った。
「安心して。あなた程、その言葉が似合わない人はいないわよ」
そう太鼓判を押してくれた。……太鼓判でいいのかな?
「それにしても、わたくしが居ないところで、進展があるなんて。一体何があったのかしら?」
何かある前提なのは何故なのだろう。普通に、告白されたとか、そういうことは……。
「いいから、早く教えてくださらない?」
わたしの内心を見透かして先を促されてしまった。
なので、豊穣祭であった、隣町の貴族の息子が、長女に懸想してきて、それを躱すために長女がアザリアの遺跡を踏破した冒険者と結婚し、それが受理されるまでの目眩ましとしてわたしがミスコンに出たこと、そしてまんまと捕まって変な魔道具で熱を出して前後不覚になったところをライゼスに助けられたことを伝えた。
「それで、なんとなく? その場の雰囲気で、そういうことに」
途中から険しい表情で聞いていた彼女に、伝えにくいながらも最後まで伝えた。
「……無事でよかったわ。あなたは本当に、何があるかわからないから、ライゼス様と一緒にいるのが一番いいと思うわ。心から」
無事を喜ばれたのは嬉しいが、オブディティもやっぱりわたしがライゼスと一緒に居る方が安全だって思うんだね。
あれは、違法な魔道具があったからあんな目にあっただけで、あれがなければわたしだけでも十分に対応できたと思うんだけど……。
解せぬ気分でこぼれた呟きを、オブディティが拾った。
「たまたま違法な魔道具が、これからもまた使われる可能性がないと思いますの? あなた、変にヒキが強いんですから、その自覚を持って生きなければなりませんよ」
「ヒキといえば。オブディティさん、冒険者登録は――」
話を変える為にも、休み前からの懸案事項である、オブディティのヒキの弱さキインの、冒険者登録の問題に話をすり替える。
「そちらはご安心なさって。わたくし、休みの間に、兄に特訓していただいて、なんとか一撃を与える目処が立ちましたから」
胸を張って断言するオブディティに、本気で驚く。
「えええええ!」
ヒキの弱さではなく、攻撃の弱さを克服してきたのか!
「――一撃?」
一撃だけ? 確認するように言ったわたしの言葉に、彼女は静かに頷く。
「ええ、一撃だけですわ。弱い魔物でしたら、それで十分ですし。とにかく冒険者登録ができればいいのでしょう?」
当たり前のように言うオブディティに、思わず納得する。
「確かに」
ライゼスと二人で守ると約束したし、守れないような場所には絶対に行かない。
「ですから、ご安心を。休み明けの試験が終わったら、冒険者登録に参りますわよ」
グッと拳を握ってファイティングポーズをした彼女の言葉に、不穏なワードが入っていたのに気がついてしまった。
「休み明け、試験?」
聞き返したわたしに、不穏さを感じた彼女が真顔になる。
「今週、試験があるわよ。まさか、宿題もしていないとか……」
「しゅ、宿題はしてきたから、大丈夫っ」
疑惑の視線を慌てて否定する。
宿題自体多くなかったし、ちゃんと早い内に終わらせたから大丈夫。
だが、問題は試験だ。
「試験範囲を、教えていただけますでしょうか」
「仕方ないわね。教科書を持ってきなさい」
ソファから立ち上がってわたしに指示して自室に入っていくオブディティに、教科書一式を持ってから彼女の部屋をノックする。
「お邪魔します」
初めて入るオブディティの部屋は、なんだか爽やかなイイ香りがした。
わたしと同じ間取りの部屋なんだけど、床には高級そうな絨毯が敷かれ、カーテンもお洒落だし本棚には小物が並んでいる。ベッドカバーもお洒落な編み物が掛けられている。
全体的に温かみのある、素敵な部屋だ。
クールなオブディティとはちょっと雰囲気が違うけれど、居心地がいい。
「基本的には前期の復習になるから、自信のある教科は流し読みするだけでいいと思うわ」
「了解です」
選択教科については今回の試験がないとのことなので、命拾いした。
「こんな言い方はしたくないけれど。あなたは庶民ですから、余計な弱味を作らないに越したことはないのよ。ましてや、ライゼス様との結婚が視野に入っているのですから、尚更、留年なんて以ての外よ」
それは、確かにそうだよね。
「なるべく、いい点を取るように頑張ります」
「程々でいいのよ。……まあ、トップはライゼス様でしょうから、あまり気にすることもないかもしれませんが」
入学当初からトップを独走してるのは、ライゼスだ。
本当に、わたしにステータスを見せる気が微塵もないんだよね。
「そういえば、オブディティさんの一撃って、どういうものなの? まさか魔法じゃないよね」
ずっと気になってることを、恐る恐る聞いた。
彼女の魔法は一撃必殺……というか、制御も何もない、一気に魔力を放出する恐ろしいものなので、狭いダンジョンではとてもじゃないが使うことはできない。
「魔法ではありませんわ。身体強化で一度だけ、全力で攻撃できますのよ」
ドヤァと効果音が聞こえた気がする。
「もしかして、身体強化も魔法と一緒で?」
「ええ、魔力が一気に巡ってしまうから、ほんの僅かな間しか使えないのよ。でも、兄たちのお陰で、なんとか一撃を出すことができるようになったのですわ」
誇らしそうに言うオブディティに、お兄さんたちと仲が良いんだろうなとほっこりしながら、彼女の隣で教科書を広げ、彼女が帰郷していた時の話を聞いた。
次話、オブさん家のお話です!
幕間にしようかと思ったのですが、本編の延長だったのでオブディティ視点で本編として進めます
(≧∀≦)ノシお楽しみに!