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閑話1 とある護衛の関心事

 自分はエルムフォレスト領主であるブラックウッド伯爵家に仕えている騎士だ。


 魔法に秀でていたために魔力暴走をしてしまう三男のライゼス様の護衛として、ブラックウッド伯爵の親戚が治めているルヴェデュという町での静養に、もう一人の護衛と共にライゼス様に同行している。


 ライゼス様は幼い頃から魔力が多く、しかし魔力を魔法として使う術を知らない為に、魔力が勝手に意図しない魔法として放出されてしまうという体質だった。

 魔法を使うには知識が必要で、だから彼はまだ幼いうちから、外に遊びに出る事もできないまま、ひたすら知識を得るために勉強を強いられていた。


 魔力暴走を起こす子どもに対する対応は、それくらいしかないのが実情だから仕方がないともいえるが……上の二人の兄が外で遊んでいるのを、寂しげに窓から見ているのを見るのは、可哀想に思えていた。

 だから、療養という名目だとしても領都よりも田舎であるこのルヴェデュの町で、ひととき勉強を忘れて伸び伸びと子どもらしく過ごせたらいいと思っていたのだ。


 伯爵からも、多少の我が儘は聞いてやって欲しい、伸び伸びと過ごさせてやってくれと言われている。




 最初は親戚宅である町長の家から出ずに本を読んでおとなしく過ごしていたが、それでは領都にいたときと変わらない。だから、多少強引ではあったが、散歩という名目で、彼を外に連れて歩いた。


 万が一町中で魔力を暴走させてはいけないから、町から離れた場所がいいと言われた。たった九歳なのに物分かりのいい彼が悲しかった。


 だが、彼のこの配慮が、後の彼の人生を大きく変える出会いとなる。





「ライゼス様が外に、ですか。友達ができるといいですね。この近くの牧場に、子沢山の家があるらしいですから、行ってみてはいかがですか」


 打ち合わせの際に、共にライゼス様の護衛をしているロウエンに散歩のことを伝えると、彼はその牧場の場所を教えてくれた。


「あくまで子ども主体で仲良くなるように見守るのです。大人が口を出すのは無粋ですからね。君は世話焼きですから、離れて見守るくらいがいいのではないかな」


 なるほど、確かに自分が口を出すよりも、子どもだけのほうがいいのかもしれない。


「多少離れていても、君ならいかようにも対処できるでしょうから、できるだけ離れてくださいね。もし、ライゼス様が手助けを求めているようなら、その時は助けを出してあげるといいでしょう」


 彼の助言を受けて、翌日、指示された家の付近まで散歩に歩いた。

 すると、家の敷地の前にある、大きな木に登るオレンジ色の髪の女の子を見つける。


 その子どもこそ、ライゼス様の運命を変える、小さな竜巻の異名を持つ『ソレイユ』だった。






「トリスタン、魔法のことを教えてもらってもいい?」


 今日は珍しく、なにごともなく木陰でぐっすり昼寝をしていた彼らを起こしてからの帰路にて、隣を歩くライゼス様が聞いてきた。


「はい、どんなことですか?」

「うん。実はソレイユがね――」


 おずおずと彼が話してくれる内容に、やっぱり『なにごともなく』なんてなかったのだと知る。


「そんな方法で、魔力の循環を知るなんて……いや、一度やってみなければなんともいえませんが、明確な流れの道筋を思い描いて流す、確かにそれができれば、魔法を行使する感覚を掴むのは容易くなるでしょう」


 普通は、流すのではなく、流れを感じ取るもので、それを感じ取るのに苦心をするものだが。

 なるほど、魔法は意識から発現するのだから、その素になる魔力を操作しようとするのはなんらおかしいことではないのか。

 最初からそうやって魔力を操ろうとしたほうが、子どもにはわかりやすいのかもしれない。


 それを、当たり前にやろうとする、ソレイユ嬢の天性の感覚に、ブルッと身が震えた。


「ソレイユは……時々、本当にとんでもないから」


 時々、ではない気もするが。

 本当に危ないことはライゼス様がしっかりと止めているので、ソレイユ嬢のご両親からは大変感謝されていて、定期的に無償でミルクを運んでいただいている。それ程、ソレイユ嬢の暴走が目に見えて減ったということのようだ。

 ミルクを配達してくれている長男が、ライゼス様のことを『獣使い』と呼んだのは聞かなかったことにしている。


「じゃあ、この方法は、間違いないんだね」

「はい。魔力の操作を覚えるには、適した方法かと」

「そうか」


 子どもらしくない、重い声で答えた彼の横顔を見れば、力強い目でしっかりと前を向いていた。

 領都にいたころは、いつも怯えの混じった目をしていたのに。

 だけどその気持ちはわかる、どうにもならない自分の魔力に翻弄されるのは恐ろしいだろう。

 彼の力強い目に、ここに来てからの成長を感じて口元が緩んでしまう。


「なんとか今日中に覚えないと……」


 決意を込めた声に、急がなくてもいいのではと進言をするが、首を横に振られてしまう。


「ソレイユは一日でできるようになったんだ。明日までにできるようにならないと、絶対――がっかりされる」


 それがなにより悔しいのだと、表情が物語っていた。

 まだ幼いし、ライバルみたいなものか。まさか、惚れた腫れたではない……よな?

 ともかく、魔力の動きを把握しようとしているなら、程なく魔法にも手を出すのは間違いないだろう。

 挨拶もしたことだし、今後はもっと注意深く用心していこうと思う。

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