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8 魔力の爆発


 誰かが話している声がこちらに近づいて来る。今日は公爵家の面々しか聖堂にはいないはず。ジャンは二本足の猫型のまま、アンナより体を大きくした。戦闘に長けた体なんだそうだ。


 ニーナたちの姿は見えていないものの、不安が高まる。警戒を高めたジャンの状態では転移をする前に姿を現す必要があり、なんとかこのままやり過ごしたかった。


「俺の犬、かっこいいだろ?紅犬(べにいぬ)のシバだ。俺の手下なんだぜ」

「ガエタン様、すごいなぁ」


「パトリスは来年か?俺が検査した時はみんなまだ小さかったからな。まあでも、あっという間かな」

「ボクも黒狼(くろおおかみ)もらいたいです」


 見知らぬ子どもたちが中庭に入って来た。その中にリリアンがいる。四つの公爵家の子どもたちだ。


 この広い聖堂で出会ってしまうとはついていない。リリアンに見つかったりしたら面倒なことになるのは間違いない。それに、家の外に出ていることを知られたくない。


「ソフィー様は二年前でしたわね」

「ええ。リリアン様、ご覧になって。私が碧龍(へきりゅう)さまからいただいたルリですわ」


「うわあぁぁぁ!!」

頭を抱えて蹲ったパトリスにガエタンが寄り添う。

「どうした?パトリス?」

紅い犬はジャンを見つけて嬉しそうに走り出した。

「あ!シバ、待て!」


「ジャン!久しぶりー!会えて嬉しいよー!」

「ちょっ、シバ来るな!隠伏してるんだから察しろよ!」

「えぇ~、いいじゃん。ガエタンはいい奴だよ?ちょっと微妙にうまく繋がらなくて会話はできないけど」


「シバ!どうした?何かいるのか?なんでそんなに吠えるんだ!シバ!戻れ!」

混乱したガエタンは声を張り上げた。


「あそこに何かいる!」

震える指先をニーナの方に向けるパトリス。ニーナはハッとして魔力を制御しようとした。緊張と焦りで上手くできない。


「何も見えないわよ?」

ソフィーは木の方向を見ても何も見えず、不安気に肩に乗っているルリを見た。ルリは冷や汗が止まらなかったが、動かないことを選んだ。


「怖い!あの犬が吠えてる方に何かいる!」

パトリスは中庭の木から遠ざかろうと這って移動し始めた。もう立ち上がれないようだ。

「どういうことだ?」

ガエタンは状況が把握できず、その場から動けずにいた。


 リリアンは子どもたちを嘲るように笑って、木の方へ炎玉を撃った。

「何をしているんだ!」

ガエタンは驚いた。聖堂内で魔法を使うのは禁止されている。ましてや炎を放つなどありえない。


 立て続けに炎玉を撃つリリアン。最初の炎玉はシバの背中を掠めた。炎に気づいたシバはすぐさまリリアンの方に向き直り、次々と放たれた炎玉を消した。


「ガエタンやめさせてよ!危ないでしょ!ニーナが怪我したら大変なんだよ!」

「シバ、やめろ!あいつらにはワンワン吠えてるようにしか聞こえないんだ!今は逃げろ!」

ジャンは必死に叫んだ。


「大丈夫!ボクに炎は効かない!炎は炎で制す!」

シバは次々と襲いくる炎を消しながら言った。焦ったジャンはニーナとアンナを背中に隠した。


「絶対何かいるわ!その子、キオニアなんでしょう?ガエタン様は引っ込んでいて。パトリスみたいに震えて隠れていたらいいじゃない。弱い者は引っ込んでてって言ってるの。私一人で充分だわ」


「なんだと!お前のような者より俺の方が強い!シバ!そこをどけ!」

熱り立ったガエタンは炎玉を手元で大きくして、今できる精一杯の大きさの炎玉を撃った。


 リリアンのものより遥かに大きく温度も高い。興奮したガエタンは今までに使ったことのない量の魔力を放った。


「シバ、ダメ!逃げて!」

炎に込められた魔力量を感じ取ったニーナは叫んだ。シバを守りたい気持ちから、無意識にニーナは魔力を放出した。何の魔法にも変換されていない純粋な魔力。幸か不幸か、ニーナを守ろうとした龍玉の力も混ざっていた。


「ドーン!!!」


大きな炎と目に見えない魔力の衝突。炎は一瞬で消え、衝撃波で木が大きく揺れた。爆発の中心になったシバは血塗れだった。


「クソッ」

ジャンは隠伏魔法を解いた。シバを浮かせて引き寄せ、気絶したニーナを抱きかかえたアンナの手を掴む。そのまま魔方陣を発動して転移した。コウに「いざという時使え」と渡されていた魔法陣だった。


「きゃぁっ」

爆発の衝撃波でリリアンは後ろに飛ばされてそのまま気絶。ガエタンは使ったことのない量の魔力が一度に体から消え、昏倒した。


 誰よりも後ろで隠れていたパトリスは、魔力を感知できる体質が仇となり、高魔力を浴びて気を失った。


 ソフィだけは咄嗟に獣人型になったルリに守られて無傷だった。

「ルリ!」


 衝撃波を受けたルリは鳥の姿に戻って地面にポトリと落ちた。意識を失っているようだ。怪我をしているのか、羽が赤く染まっていた。


 騒ぎを聞きつけ、聖堂の職員と四家の公爵夫妻が集まった。すぐさまガエタン、リリアン、パトリスは診察室へ運ばれていった。


 ルリが心配で堪らないソフィーは、それどころではないのに、引き止められて何があったのか説明を求められた。ソフィーはハンカチでルリを包み、大事そうに持っていた。


「突然ガエタンの犬が走り出したの。木に向かって吠え始めて。パトリスがそこに何かいる!って怯えだしたの。キオニアは魔力に敏感だと聞いていたから、見えない何かがいるんだろうなとは思ったの。でも確かめる間もなくリリアンが炎玉を撃ち始めたの。リリアンに弱い者と煽られたガエタンが、見たこともないような大きな炎玉を放って、それが木の近くで爆発したの。大きくなったルリが私の前に立ちはだかって守ってくれて……ルリがいなかったら私、どうなっていたか……」

ソフィーは泣き出してしまった。


「この鳥が?」

「それしか考えられないの。お父様、ルリを助けて!私を守ってくれたの!」

ソフィーの必死な様子に、やっとルリも診察室に運ばれた。


 ジャンが転移先に選んだのはゾーイの家のキッチンだった。アンナに抱きかかえられたニーナは意識を失ったままだった。


「シバ!しっかりしろ!」

シバは切り傷と火傷が全身にあった。血が止まらない。シバは声を絞り出した。

「ジャ……ン……」

「シバ、もう何も言うな。アンナ、ここでニーナと待っていてくれ。絶対に部屋から出るな!」


 ジャンがシバを浮かせてキッチンから出ると、買い物袋を持ったドニがいた。

「ドニ!良いところに!」

「あら、ジャン様?珍しいで」

「ドニ!シバをシロさまの泉へ!怪我がひどいんだ」


「シバ様!分かりました。最速で参ります」

買い物袋を床に置いたドニは、シバを抱えてあっという間に走り去った。

「シバ……」


 シバを見送ったジャンはふうっと息を吐いた。これで一安心だ。あのくらいの傷だったら、早いうちに泉に浸ければなんとかなる。ジャンはドニが置いて行った買い物袋を持って、アンナのところへ戻ってきた。


「ドニがいてくれて助かった。ニーナも大丈夫。眠っているだけだ。初めての外出だった上に、大きな魔力を一気に放出したんだ。疲れが出たんだろう」


 ジャンは買い物袋の中身を保管庫に入れた。手を洗うと、眠っているニーナの側に来て頭を撫でた。目元の涙をそっと拭った。


「部屋に帰ってニーナを寝かそう。またリリアンが苛ついてひと暴れするかもしれないから、隠さないとな。この家で休ませたいけど、シバのことがあってドニは忙しいだろうし、部屋で受け流す方が良いと思う。」


 ジャンたちはニーナの部屋に戻った。ベッドにニーナを寝かせて隠伏魔法をかけて見えないようにした。ニーナの中の龍玉が守るだろうが、一応結界魔法で覆った。


 念のため、アンナのベッドにニーナが寝ているような細工をした。万が一リリアンが暴れた場合、こちらに攻撃をしてもらう。騙されてくれるだろうか……


「ジャン、ルリさんは大丈夫なの?転移する前、人型になったルリさんが鳥に変化して地面に落ちたように見えたの。眷族の方々は人の治療法で治るの?」

ジャンは顔色を変えた。そしてそのままルリのところへ転移した。




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