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6 功労者、ルドルフ


 ルドルフの日記は、難しいところもあったが、知らない事ばかりで読んでいてとても興味深かった。


 ルドルフが生まれる前、隣国が攻めてきて国が燃えた。その混乱がまだ残る中ルドルフは生まれ、生き残った両親の元で育った。魔力量は市井の者としては平均的で、魔力を増やそうと苦労していたようだった。


 ニーナは逆に魔力が多いのだが、ルドルフが実践していた方法は応用できそうだった。それは魔力玉を作ることだ。制御と増幅の両方の効果がある。


 ニーナに必要なのは制御力だ。魔力量が多いと制御がとても難しい。ルドルフは制御は上手いが、量が欲しいので増幅を狙う。


 魔力を限界まで減らして眠り、睡眠中の魔力回復力を鍛える。それを繰り返すことで魔力の器を大きくしていき、段々と魔力を増やすという涙ぐましい方法で。


 劇的には増えなかったが、確実に増えていった。しかもその魔力玉を猫族に渡すと大変喜ばれ、猫族の保護活動に役立ったと書いてあった。


 自分にはない質の魔力を使うという目的が主だが、そもそも猫族は魔力玉が好きらしい。丸くてキラキラしているから?


 ルドルフは他にも魔力の使い方や猫族とのやり取りを多く書き残していた。人から見た猫族についての本として、大変興味深い内容だった。


 ニーナが試しに魔力玉を作ってみると綺麗な丸にはならなかった。歪で少し濁っている。初めての繊細な作業で初めてかなり深く集中した。ニーナから漏れ出た凝縮された魔力にジャンは総毛立った。


 ジャンは「家が壊れるかもしれない」とパルニアの屋敷ではなくゾーイの家で作る事を提案した。コウの魔力でも壊れない家だとドニが保証したらしい。魔力玉作りは後日改めて試すことになった。


「ルドルフさんはコウさまと仲が良かったんだね。ジャンは知っている人?」

ニーナはジャンに聞いた。アンナはお茶の用意をしている。


「ボクは会ったことないなぁ。ドニは知ってるみたいだったけどね。あ、そういえば、シバとルリが今ユーエラニアに居るよ。ボクの眷族仲間なんだ。ガネリア公爵家には紅犬(べにいぬ)のシバ、とララニア公爵家には碧鳥(へきちょう)のルリが行ったんだ。公爵家の子どもが聖堂で魔力量検査をする時は四家が集まるらしいから、その時会えるかも」


「そうなの?魔力量検査、私も連れて行ってもらえるのかな?」

「ニーナは生まれた時のお披露目をしていないから、合同の検査には連れて行かないかもしれないな」


「お披露目かぁ。私、まだお父様とお母様にお会いしたことがないの。お母様は私が怖いんですって。誰かが言ってたわ。魔力の制御が上手くできたら会えるかしら?」


「ニーナ、ごめんね。人の気持ちはボクには難しいけど、魔力制御ができる方がニーナにとって良いということは分かるよ。ニーナの魔法適性、空間魔法と転移魔法、あとは癒しの魔法だから、繊細な制御が必要なものばかりだよ」

「そうよね。分かったわ。制御できるように頑張るね」


「ニーナ様、お待たせしました。温かいうちにどうぞ」

アンナがお菓子と紅茶を持ってきた。


 ジャンのお菓子は少し小さかった。ジャンは黙って食べた。こういう時のアンナはジャンの言動に何か怒っているのだという事をジャンは知っていた。何に怒っているかまでは分からないけれど。


「へー!ユーエラニアとネオコルムは元はドルムエラル王国だったんだって。コウが頼んで、シロさまが分けたって書いてある。シロさまって?」

休憩後、また日記を読み始めたニーナはジャンに聞いた。


「白龍のシロさまのことだよ。シロさまはとにかく凄いんだよ」

「白龍のシロさま。なんだかかわいい名前だね。いつか会える?」

「シロさまは眠っていることが多いから、起きていたら、かな」

「会ってみたいな」

「いつか必ず会えるよ」


「ルドルフさんとコウさまはいつ知り合ったの?」

「コウさまはドルムエラルで猫族の保護活動をしていたんだけど、コウさまとは別にルドルフも保護活動をしていたんだって。ルドルフと出会って意気投合して友人になったって聞いたよ」


「猫族はなぜ保護活動が必要だったの?」

「人に虐げられていたって聞いたよ。乱暴な扱いをされていたり、尊厳が守られていなかったり。自分の所有物だから何をしても良いって考える人がいたんだって。今では考えられないけどね。ニーナがもう少し大きくなったら話せるような事しかボクは知らないから、今は聞かないでほしいな。ボクも死にそうになってたところをコウさまとシロさまに助けてもらったんだよ」


「ジャンが助かってよかった。コウさまとシロさまにお礼を言いたい気分よ。ジャンがいなかったら私、今日を迎えられていないわ」

ニーナはジャンを撫でた。ジャンは困ったように笑った。


 しばらくジャンを撫でて満足したのか、ニーナはまた日記を読み出した。

「猫族は四種類……」

「そうなんだよ。猫族は、猫型・獣人型・人型・お世話猫の四つの種があるよ」

「ねえ!切ってある!ほら、ここ!」

ニーナはジャンの話より日記の不自然な切り口の方が気になってしまった。


「何かあったのかな。」

ニーナは色々な角度から切られた部分を見ている。

「ルドルフの事はボクには分からないな。コウさまやクロさまなら分かるかも。会えたら聞いてみる?」

「そうだね。聞いてみたいな。えーっと、クロさまって黒龍さまよね?」


「そうだよ。白龍(はくりゅう)のシロさま、黒龍(こくりゅう)のクロさま、虹龍(こうりゅう)のコウさま、紅龍(べにりゅう)の紅さま、碧龍(へきりゅう)の碧さま」


「五人もいるの?」

「そう。五龍。」

「揃ったところを見てみたいわ。」

「ボクもまだ見たことがないなぁ。シロさまは眠っていることが多いし。」


 ジャンはニーナから日記を受け取ってパラパラとめくる。

「あはは。ゾーイに怒られたっていう話が書いてある。オレは悪くない、コウのヤツが先に花を摘んだんだ。俺は止めていたのに!って。ん?コウさまとルドルフはゾーイに怒られたかったのかな。」


「ゾーイって使わせてもらってるキッチンがあるお家の持ち主の?」

「そう。ゾーイもドニも同じお世話猫だよ」

「歴代最高得点のドニ?」

「そう。癒しの猫とも呼ばれてるよ?」

「癒しの猫?」


「胸毛がふわふわなんだよ。僕のもちょっとそうだけど、ドニは大きいからもっとふわふわだよ。」

「体が大きいの?」

「アンナくらいかな。ドニは掃除、護衛、癒す事が得意なんだ。アルジを決めたお世話猫は家も建てるよ」


「そっか。ゾーイはコウさまがアルジってこと?家があるんだもんね」

「多分そうなんじゃないかな。ボクが眷族になる前のことだから詳しくは知らなんだよ」


「そういえば、お世話猫大会って何をするの?」

「詳しくは知らないんだけど、コウさまが始めたって言ってた。お世話猫のお世話したい気持ちを発散させるのに良いらしいよ。保護した後、お世話したいのにお世話ができない猫たちの元気がなくなっちゃったんだって。今では他の猫族も参加して、年に一度のお祭りみたいになってるらしいよ」

ジャンは残りのお菓子を口に頬張った。


 アンナが食器を持ってキッチンへ行った。もう怒ってはいなさそうだ。

「お世話猫大会は、掃除力、護衛力、もふもふ度を競う大会だよ。ドニはもふもふ度で歴代最高得点を獲得したんだ」


「もふもふ度って?」

「誰かを癒すのに重要な役割があるんだって。主に触り心地って言ってたかな。日々のお手入れで全然違うから、丁寧さとか気配り力とかの証明にもなるんだって。ちなみに、ドニの胸に(いだ)かれると幸せになると云われているんだよ」


「会ってみたいな」

「僕だけならニーナのキッチンから移動できるんだけどね。あ、ドニに来てもらえば会えるな」

「いいかも!」

「じゃあ今度コウさまに聞いとくね」


 ジャンはルドルフの日記をどこかにしまった。

「ボクさ、思いついちゃったんだけどさ、今度リリアンが聖堂で魔力検査を受けるよね。その時なら紛れて門から出られるんじゃない?そのピアスが門で反応する魔道具でしょ?アマリリスが馬車で出る時なら一緒に出られるんじゃない?」


「やってみたい!私も屋敷の外に出てみたい!」

「行ってみよっか。失敗しても忙しい日だし、誤魔化せそうな気がする。上手くいって門を抜けられたら聖堂を観ようよ。綺麗だよ。屋台で何か食べるのも良いなぁ。聖堂は愛し子の絵本に絵があったよね」

「転移魔法は使えないの?」


「今回はピアスがどう反応するか分からないから、転移するのはやめた方が良いと思う。それに、ボクの力だけだと複数での転移が難しいんだ。シロさまなら誰とでもどこへでも行けるんだけどね。ニーナの中にいる龍玉が上手く使えるようになれば転移もできるんじゃないかな。分かんないけど」


「龍玉って何だっけ。私の中にあるの?」

「え。言ってなかったっけ?」

「うーん。初めて聞いたような?」

「ニーナは、龍玉が選んだ白龍さまの愛し子だとボクたちは考えているよ」




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