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白き龍の愛し子は猫に懐かれる  作者: もんどうぃま


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18/22

18 ニーナの答え


「お、シロが来る。想定より早かったな。シロと共に生きると決めたなら、龍の背に乗せてほしいと頼んでみると良い」


 結界が消えた。ニーナは顔が赤くなった。ゾーイの舞台で、シロは唯一無二の相手を背に乗せたいという台詞があったのを思い出した。


「ニーナ、迎えに来たよ。クロに意地悪されなかった?」

言い方は優しかったがシロは少し不機嫌だった。


「クロさまに浮島になった時の話を聞いていたの」

「シロさま!リリアンが来ます。すぐに転移を!」

ジャンの慌てた声に、シロは全員を亜空間のドニの家に転移させた。

 


 パルニア家の図書室の扉が勢いよく開いた。

「あら?誰もいないわ?お母さまが魔力の気配を読み違えたのかしら?まだ不安定なのかもしれないわ」

リリアンは扉を閉めた。



「では、二人で話をするといい」

クロは背中越しに片手を振ってドニの家から出て行った。


 ジャンはクロがあっという間にいなくなったのでどうするか迷った。

「あ!そうだった!ドニに頼まれてたんだ!シロさま、ニーナ、失礼しますね」

と言ってそそくさとジャンも家から出て行った。


 シロはニーナの方に寄ってきて、上目遣いで見た。

「心配した。気配が探れなくて焦った」

「ごめんなさい。何も言わずに」

「無事ならいい」

ニーナの肩にシロは頬を寄せた。

「僕、ニーナの事になると、余裕がないのかもしれない」


 ニーナの心は決まっていた。

「シロ、私、シロが好きよ」

「僕もだよ」

「じゃあ、龍型のシロの背に乗せてくれる?」

「いいよ」

「いいの?」

「ニーナならいいよ。僕からお願いしたいくらい」

「え?」


 シロはニーナの頬を両手で大事そうに包んだ。

「でも今はニーナの顔を見ていたいから、人型のままで飛ばせて。ニーナ、抱き上げるよ?」

ニーナはシロに抱き上げられた。顔が近くなった二人は見つめ合った。


「さあ、大地を見せてあげる。ちょっと高いけど、絶対に落とさないから安心して」

ニーナがふと下を見るとすでに地面は遠いところにあった。ニーナは急に怖くなって、シロに身を寄せて服を掴んだ。シロもニーナを抱く手に力を込めた。


 高い所まで来ると、大きな島が空に浮いているのがよく分かる。

「すごいわ。本当に浮いているのね。全然分からなかったわ。シロの魔力って凄いのね」


「この島はクロの魔力で固めているから、クロと僕で浮かせていると言うのが正しいかもしれない」


「あの白いふわふわ、綺麗。初めて見たわ。島の下に広がってる。大地ってかなり広いのね。」 


「あの白いのは雲だよ。空に浮かぶ雲を大地に寝転がって見るのも楽しいよ。ああ、島が雲の上に出ちゃったから、この国はずっと晴れてたね。大地には雲から水の粒が降ってくるんだよ」


「いつか見てみたいわ」

「うん。いつか見よう」

シロはもっと高く登った。世界にはシロとニーナの二人きり。地平線と水平線で孤を描く大きな存在にニーナは見惚れた。


「綺麗。すごい。これが大地……」

「そう。大地の周りに水があって、それは海って言うんだって」

「大地と海」

「ニーナ、綺麗だ」


 ニーナは驚いてシロを見た。初めて言われた。シロの瞳がニーナを慈しむように見る。

「感動しているニーナは美しい。それに、ニーナが嬉しいと僕も嬉しい」


 シロが嬉しそうに微笑んだ。花が綻ぶという表現がピッタリだとニーナは思った。シロは日が沈みかけている方を見ながら続けた。


「一人で街に遊びに行った時に、寂しそうって言われたんだ。僕、気がつくとニーナの事ばかり考えてる。これ食べさせたいな、一緒にやりたかったな、楽しんでるかな、困ってないかなって。相手を自分が満たしたいと思ったら、それは愛なんだって。知ってた?」

ニーナは首を振った。


「マリーといると楽しくて面白くて、ずっと一緒に遊んでいたかった。マリーに恋人ができた時、もう一緒に遊べなくなるのかって残念だったけど、幸せになってほしいとも思った」


 シロはニーナを見た。

「ニーナといると何もしていなくても、そんな事今までになかったけど、たとえ楽しくなかったとしても、その全部が愛しい。ニーナに僕以外の恋人ができるなんて考えたくない。例え話でも胸が張り裂けそう。祝うなんてできない。そうだった。ドニに怒られたんだった……マリーと比べてごめん」


 ニーナの目から涙が溢れる。

「私ずっとマリーさんの事が羨ましかった。シロに名前をくれた特別な人。私みたいに気づいたら龍玉を持っていたんじゃなくて、直接贈られた人。あの人がシロの特別なんだって。これって嫉妬だったと思う。シロさまに失礼な事考えてるってずっと思ってた」


 シロはニーナを抱きしめた。ニーナはシロの腕の中で丸くなって服をギュッと握った。

「僕の特別はニーナだよ。マリーの龍玉を返してもらって、ニーナの龍玉と合わせてこね直して、今度はちゃんと贈らせて」

龍玉がニーナの中から飛び出してきた。横に揺れている。


「ふふ。龍玉さんはこね直されたくないみたい」

龍玉は縦に揺れた。

「どうしたらいいんだろ」

シロは困ってしまった。


 シロは何かを思い出したようにハッとした。

「そういえば、マリーにも直接渡してはいないよ?」

「龍玉のこと?」


「そう。会いに行った時、お母さんにお願いしたんだ。渡しておいてほしいって。ニーナへの気持ちを知った今となっては、友だちに渡していい贈り物じゃなかったなって思ってる」


 ニーナは何も言えなかった。マリーさんはどう思っていたんだろう。シロと同じように友だちの一人だったのなら良いけど。


「どちらにしても龍玉は返してもらう。代わりに魔力玉をあげてもいい。ユーエラニアの王宮に飾り箱の気配があるってコウが言ってた」


「王宮へ行くの?」

「そうだね。ついでに結界を解いて、大地に国を戻そうとも思ってることも伝えようかな。もう浮かべている理由もないし。前は大地では争いが多くて、危ないところに戻すのが嫌だったんだ。でも、最近は平和になったみたいだから」


「今現在大地で暮らしている人たちが困らない場所に戻さないと」

「元々国があった場所には港があって、もう戻せないんだ。前、降ろす場所を見つけたって言ったの覚えてる?この前クロに確認してもらったら、ちょうどいいって言ってた。あ!そういえば、愛し子って何?ニーナは僕の愛し子ってみんな言うけど、なんのことかな?」


「街で聞いたの?」

「そう。ニーナが僕の愛しい人なのは間違いないんだけど」

シロがあまりにも優しく笑うので、ニーナの顔は真っ赤になった。


「絵本があるのよ。龍の愛し子っていう絵本」

「そう言えばルリが何か言ってたな……」


「私が小さな頃、アンナが読んでくれた絵本と、飾り箱の絵がある絵本の二種類があるの。飾り箱の絵本の方を国王が持っているんじゃないかってアンナと話した事があるわ。どちらの絵も、とても素敵なのよ?」

「見てみたいな」


 抱き上げていたニーナをシロは自分の隣に立たせた。空中に見えない足場のような物があって、ニーナはその上に立ったように感じた。見えない足場に驚いて思わず足下を見ると遥か遠くに大地がある。


 シロはニーナの両手を自分の両手で包み込んだ。真剣な顔でニーナを見た。

「いつか僕の背中にニーナを乗せて、この空を飛びたい。僕は全身全霊でニーナの傍で生きるよ」

「私もシロの傍にいたい。でも、いいのかな。私何者でもない……」


 二人の視線が絡む。シロは頷いた。

「僕はニーナが良いんだ。ずっとそばにいて」

大地が茜色に染まった。ニーナの目に涙が浮かぶ。シロの瞳が色を反射して煌めく。ニーナは頷いた。


 シロはニーナの両手に口付けをした。シロが視線を逸らした方向をニーナも見た。大きな存在に夕陽が沈んでいく瞬間だった。


 その後、見た事がないほどの数の星が瞬きだした。ふと、お互いの視線に気付いてまた見つめ合うと、胸に何かの感情が湧き上がってきたニーナはシロに抱きついた。


 シロは片手でニーナを抱きしめ、もう片方の手でニーナの頭を撫でた。

「家に帰ろうか。こんなに遅くなって心配かけちゃうね」

「ううん。シロと一緒だって知ってるから大丈夫。でもそろそろ帰ろ」


 シロはもう一度ニーナをギュッと抱きしめた。ニーナの頭を支えるとシロの方を向かせた。ニーナを見つめるシロ。シロはニーナの唇に口付けをして、嬉しそうに笑った。ニーナは真っ赤な顔で固まった。

 

 シロは指を鳴らした。二人はネオコルムのドニの家の前に立っていた。

 

 シロは早速ドニに伝えて、絵本を見せてもらった。絵本は二冊ともネオコルムのドニの家にあった。

「これってマリーを助けた時のことかな?内容がちょっと違うかな…わあ、このコウの絵、そっくり。もう一冊は僕が飾り箱を持っていった時の事かな?うーん。」


「シロさま、私の一族がすみません。一冊は飾り箱の宣伝用に描かれたそうなんです」

アンナは必死に詫びた。


「気にするな。アンナがしたことじゃない。ニーナも素敵だと言っていたしこれはこのままでいい。そもそも他の誰かを背に乗せたことはないし、ニーナを背に乗せればこの絵本はニーナのことになる。うん。ニーナ、空の散歩をしよう。そうだな……いきなり暗いと危ないから朝になってからの方がいいな。じゃあ、帰るね。おやすみ」

いつもより早口で言い終わると、あっという間に帰っていった。


「シロさま動揺してらした?」

「なんでしょうね?」

アンナとドニは帰って来た時からずっと真っ赤な顔で黙っているニーナを見て、なんとなく分かったような気がした。


「龍の背に乗る、というのはとても名誉な事なのです。コウさまの背に乗せていただくのが猫族の憧れなんですよ。シロさまの場合は違う意味がありましたね」

ドニは意味深に微笑んだ。ニーナは何と言っていいか分からなかった。


「もう、寝るね。おやすみ!」

そう言って急いで自分の部屋へ行った。


 翌日、まだ早い時間に迎えにきたシロは、ドニに早過ぎると怒られながら朝食を食べていた。そこへ防寒着を持ったニーナが来て、一緒に朝食を食べた。恥ずかしそうに視線を合わせあう二人の姿が可愛らしくて、ドニは嬉しくてたまらなかった。


 街の外れで龍型のシロの背に乗ったニーナは、龍に変わる前のシロに「僕は愛する人を龍の背に乗せて飛ぶと決めていたんだ」と耳元でこっそりと言われてまた顔が真っ赤になった。あの劇、本当に忠実だった、とニーナは思った。


 シロはまずは低いところから飛んで、段々と高い所を飛んだ。とにかく過保護だった。ジャンからの情報でシロを見に来ていたコウとゾーイは、ニヤニヤしながらその様子を見守った。


 シロはそんな周りの騒音など、どうでも良かった。ニーナが空からの景色や疾走感をとても喜んだのでとても満足そうだった。ネオコルムの人々は龍が愛し子を乗せて飛んでいると、大興奮だった。




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