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白き龍の愛し子は猫に懐かれる  作者: もんどうぃま


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17/22

17 黒龍、クロの問い

「ただいまー!」

ネオコルムのドニの家の扉から、亜空間のドニの家にニーナが帰ってきた。


「おかえりなさい。今年のお世話猫大会はどうでした?審査員長は大人気だったんじゃないですか?」


「凄かった。あっという間に囲まれたの。あたり一面もふもふで、世の中にはこんな幸せがあるんだって思ったわ。どっちを見てもふわふわしてて可愛くて。あー、楽しかった!でもちょっと疲れちゃったから、ドニ、お願いします!」


「はい、いつでもどうぞ」

ニーナはドニの胸に飛び込んだ。

「さすがドニ。今日も最高。幸せ。いい匂い。今でも一番はドニだと思う」

「まあ、ありがとうございます」


「あ、あとね、新しいお菓子の味見をしたの」

「甘味屋のですか?」

「そう。これからジャムを作るらしくって、一緒に食べたいからアンナが焼いたパンを取りに来たの」

「アンナさんのパン、美味しいですよね。籠に入れますね」


 ニーナは服を着替えて戻って来て、ドニからたくさんパンが入った籠を受け取った。

「ありがと。じゃあ、いってきます!」


 ニーナはシロが作った扉を通って、亜空間とネオコルムを行ったり来たりして過ごしていた。習い事をしたり、シロと遊んだり、お仕事をしたり。毎日が忙しくて楽しかった。そろそろ十五歳になるという頃、クロから話があると呼び出された。


 亜空間の家でもネオコルムの家でもシロに気づかれると言うので、パルニア公爵家の図書室に行くことにした。


「まさか本当にあの時作った扉が役に立つなんて!」

ジャンは興奮気味にクロを案内した。


 図書室は相変わらず閑散としていたが、念のためジャンに外から結界を張ってもらった。人型のクロと二人、机を挟んで向かい合った。


「ニーナ、急にすまない。ニーナもそろそろ十五歳だ。人はそろそろ誰と婚約するとか、結婚するとか考え出す頃だろう?まあ、ニーナは特殊な環境で育ったから、しっくりこないかもしれないし、時代も違うから今はそうではないのかもしれないが、ワシが見てきた中ではそういう者が多かった」

ニーナは頷いた。本で読んだことがある、とニーナは思った。


「誰にも言っていない事だから、黙っていてほしいんだが、実は、マリーにも同じ質問をした」

「マリーさんにですか?」


「そうだ。話を聞いた後、マリーは別々に生きる事を選んだ。共に生きるならニーナの答えをワシに伝える必要はない。シロから逃げたいなら、まあ、もう無理かもしれんが、最大限の協力は約束しよう」

「逃げる…?」


「では言う。龍は子が生まれない。子を持つ未来が欲しかったらシロは諦めろ。ニーナはどうしたい?」


 ニーナは言葉が出なかった。未来のことなど考えたことがない。


 シロがいない未来。シロと一緒にいる未来。子が欲しいか、欲しくないか。自分の子どもに会ってみたい気持ち。会わない未来。しかし母子の関係性はニーナにとっては想像でしかなく、実感がない。


「すぐに答えは出ないものらしいな。マリーも悩んでいたと思う。まずは昔話をしよう。この国のことだ。元々ユーエラニアとネオコルムはドルムエラルという一つの国で、大地にあった。我々は今浮島の上で魔素が満ちた結界に包まれて暮らしている」


 日記に書いてあった事とシロが言っていた話だ、とニーナは思った。それは伝えずに、最後まで話を聞くことにした。

 


 最初は白い龍、黒い龍、虹色の龍の三龍だけだった。三龍は白い龍が空中に作り出した特別な場所、亜空間を根城に自由気ままに暮らしていた。



「ニーナはあの魔法劇を観たんだったな?」

「はい。先日ゾーイさんにお会いして感激したばかりです」

「そうだった。あれはいい演出だった。ワシは舞台が好きで、ゾーイの魔法劇の演出にも口を出したことがあった」


「そうなんですか?あの劇、すごく感動しました。魔法の演出が素晴らしくて、客席にいるのに、まるで物語の中に入り込んだみたいでした。綺麗だけど怖くて、辛くて、でも最後は希望があって」


「実際の人々はあの後また別の苦労をすることになってな……舞台の上では夢が見たいだろう?」

「……はい。せめて舞台では、です」



 ある日クロとコウは大地で様々な生き物が暮らしていることに気づいた。クロはその中に紛れて暮らすのが気に入った。その頃から舞台に関わりがあるそうだ。


 コウは猫族に夢中になって、保護活動をするようになった。活動を続けるうち、猫族の辛い状況に怒り狂ったコウが国を二つに分けると決めた。それを聞いたシロは二つ返事で国を分けた。


 シロは二匹よりもだいぶ後になってから大地に関心を持ったし、人型になれると気付くのも遅かった。まさか知らなかったとはクロもコウも思っていなかったそうだ。


 シロは亜空間から人の暮らしを見るのがお気に入りだったが、しばらくすると人に混じって遊ぶようになった。


 面倒見が良く、シロが楽しめるように遊ぶのが上手だったマリーは、白い龍に「シロ」という名を与えた。面白がったシロの提案でクロとコウの名もできた。


 シロは毎日楽しそうで、マリーがシロの知らない男性と「結婚する」と言うまで大地に通っていた。


 友だちが結婚するならお祝いを渡すものだ、とコウに言われたシロは、何を渡せばいいか見当もつかなかった。何を渡すか考えながら手元にあった剥がれた鱗を捏ねるうち、龍玉ができた。


 ちょうどその時、コウが龍型から人型に変わりながら降りてきた。

「お、龍玉作ったの?マリーの贈り物にちょうどいいんじゃない?……シロ、まさかそのまま贈るんじゃないだろうな」


「え。このまま渡そうと思ったんだけど」

「おいおい、だめだよ。分かった。俺に任せろ。ちょうど街で良い細工師と知り合ったんだ。綺麗な飾り箱を作ってもらうから。まだ渡すなよ?」


「ここから先はシロとコウ、ルリから聞いたことだ。龍の力がどれ程大きいか、なんとなく理解してもらえるんじゃないかと思う」

クロはそう前置きした上で静かに話し始めた。



 コウは自分の魔力を込めた材料を用意して飾り箱を作ってもらった。シロの魔力をコウの魔力が相殺して、魔力が漏れない箱になる。その箱の受け取りの日、コウは街にいた。


 街の異変を知ったコウは慌てた様子でシロとクロを呼んだ。シロは急いで街に向かったが、クロは用事があったので遅れて街に向かった。


 街から戻ってきたコウと亜空間から降りてきたシロは上空で合流した。

「シロ!来たか。マリーの街まで炎が迫っている!行こう!」

「炎が?」

「まずは移動だ!」

「分かった」


 二匹は龍の姿で急いだ。大地へ降りるのと同時に人型になる。慌てていたので転移のことは忘れていたそうだ。


 炎の魔法で破壊を繰り返す人が複数いる。

「炎の魔法使いか!」

「俺はあいつらを眠らせるから、シロはマリーを探せ!」

「分かった。マリーの気配……いた!良かった。範囲内にいた」

シロはマリーを見つけた。よかった、無事だ。

「マリー!」


「シロ!ここは危ないわ。でもどこに逃げたらいいかも分からないの。家族は仕事で国中に散らばっているし、どう助けたら良いか分からない。いっそ国ごと安全なところへ逃げたいくらいよ」

「そうだな……じゃあ、国ごと逃げようか」


 シロは結界魔法を使い可能な限り広く、ドルムエラルが全部収まるように大地を切り取った。

「浮かぶよ」

大地が揺れて、あちらこちらで悲鳴があがった。大地が持ち上がる。人々は浮かび上がる大地に縫い付けられた。


 クロも来た。シロが何をしようとしているのか察したクロは、すぐさま大地を土魔法で固定した。大地は崩壊を免れた。そのままゆっくりと空を飛び、雲を越えてドルムエラル王国は浮島になった。


 コウは眠らせた魔法使いを調べた。彼らには従属の首輪が付いていた。

「人に?」

ニーナは思わず聞いた。


「そうだ。浅ましいことだ」

「ゾーイの劇の、最初の方の戦争、ですよね?」

「そうだ。魔法使いも操られていた」

「恐ろしいことです」


「魔法使いの首輪は外れたが、衰弱していて助からなかった。彼らの墓もネオコルムの共同墓地にある」

「そうだったんですか……」

「大地を浮かせ終わったシロは、マリーを家に送り届けた」



「マリー、マリーの家はどっち?」

大地を浮かせ終わったシロは火の周りの空気を消して、火を消していく。コウは次々と人々を眠らせた。


 マリーが指をさす方へ進んで行くと、マリーによく似た母親がマリーのことを探していた。

「マリー!無事だったのね!」

母親に抱きしめられて、マリーはやっと安心したように見えた。

「じゃあマリー、またね」


 シロとコウは龍の姿になって飛んで行った。その姿を見たマリーの母親は大興奮だった。マリーの家は元々画家の一族で、稀にある龍の目撃談を追って国中に散らばっていた。マリーの母親は龍の絵をたくさん描いた。絵本の絵の一部はこの時のものの模写だと思われる。


 コウはシロに飾り箱を渡した。中にはシロに無断で持ち出した龍玉が入っていた。この時のコウの店での言動を、職人が記していた。素材の素晴らしさに職人魂が刺激されたのか、細密な書画を残していた。後にセルジュの側近が手に入れたのはこの時のものだと思われる。


 マリーと別れた後、三匹の龍は国を見て廻った。大きな問題は起きていないようだった。道すがら、コウは人々の記憶に干渉して、生まれた時から浮島に居るとほとんどの者に思わせた。


 一部の者はなぜか魔法が効かず、今いる地面は浮いている、龍の仕業だ、龍を操った女がいる、などと騒いで周囲から敬遠されていた。


 その頃、一度に魔力をかなり使ったシロは疲れ果てて泉で眠っていた。人の時間で言うと恐らく二十年。ドルムエラルの人々はひとまず炎からは救われた。隣国が仕掛けてきた戦争からも。


 シロがいつマリーに龍玉を渡したのかは分からなかった。目覚めた時に渡しに行ったようだ。この頃はまだ、コウの保護猫活動の流れで国を二分する事になるとは誰も思っていなかった。


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