13 四龍とニーナ
~四龍~
ゾーイが消えた後、コウとルドルフは今まで以上に熱心に保護活動を続けていた。アルジを亡くしたお世話猫や、所持者に死なれた猫族がたくさんいて、忙しかったのももちろんある。
ふとした活動の合間に、二人は亜空間にあるゾーイの家を見に来た。変わらず家はそこにある。ゾーイの果樹園の果実はたわわに実ったまま。つまみ食いでもしたら今にもゾーイが怒って出てきそうなのに、明かりがつかない家。
二人でゾーイが消えた場所の近くに座って、泉をボーッと眺める時間が増えていった。どちらも話しかけないし、以前のようにちょっかいを掛け合うこともない。
クロはゾーイが消えた辺りの土に自身の魔力を込めて龍を二匹作った。意外と良い出来で今にも動き出しそうだった。
「クロ、上手いな」
コウは久しぶりに嬉しそうな顔をした。
「クロさま、今にも動き出しそうです!」
ルドルフはコウ以外には丁寧だった。
「俺、魂七つあるから入れてやろうか?」
「え。そんなことできるのか?そりゃあ、動くとこを見てみたいけど、コウは魂が減っても大丈夫なのか?」
「やった事ないから分からないけど、大丈夫な気がする。ま、やってみよう」
コウは両手を合わせると集中し始めた。
「何色がいいかな。赤と青ならまだ紫があるから良いか」
赤い玉と青い玉がコウの手のひらから出てきた。一つずつ土の龍に入れる。
土の龍は赤と青がそれぞれ混じって、紅色の龍と碧色の龍に変わった。
「紅龍と碧龍。紅と碧でいいか。おーい、聞こえるか?『紅!碧!成れ』」
魔力が籠った言葉を聞いた二つの土の龍はそれぞれ紅色と碧色に光った。体がシュルシュルと伸びて、空に向かって舞い上がった。
「おまえ!すごいな、コウ!」
ルドルフは興奮してコウをバシバシと叩いた。
クロはニヤリと笑った。
「少しは元気が出たか?お前たちが静かだとゾーイが驚くぞ」
コウとルドルフはお互いを見て、困ったように笑った。二龍が戻ってきた。
「紅、碧、言葉は分かるか?ワシとコウの知識を少し受け継いだと思うが、どうだ?」
「何を言っているか分かるよ」
「ええ。私も分かりますわ」
「よし。ではこっちへ来い。お前たちには仕事がある」
「もしかしてクロ、ユーエラニアの監視業務大変だった?ごめん。俺監視してなかった」
申し訳なさそうにコウが言った。現実逃避をするように保護活動ばかりしていた。
クロはニヤリと笑った。
「お前は王都を監視してろ。猫族の保護活動のついでで構わん。魔暴走する者がまた出たら堪らんからな。最近はシロは寝る時間がさらに伸びて…まあ、愚痴はよそう。さあ、紅、碧、色々と説明するから場所を変えよう」
「紅、碧、俺のことはコウと呼んでくれ。よろしくな」
紅龍と碧龍は嬉しそうに頷いて、クロの後を追った。
ある時、クロの案内で紅と碧は結界の外に出た。
「あれが魔獣だ。元は動物だったが、シロの濃度の高い魔力を浴びて魔獣になった。少し数を減らしたい」
「どれでも良いのですか?」
「好きなのを選んで良い」
三匹はそれぞれ狩りに行った。
「あの綺麗な鳥も魔獣なの?」
碧が鳥に近づいた時、鳥に突かれた。碧は驚いて声も出なかった。
鳥は碧の血を舐めてしまったようで。動かなくなった。慌てた碧はクロを呼んだ。
「血を舐めてしまってから様子がおかしいの」
「眷族になってしまったな。言ってなかった」
「眷族?」
「龍の血を与えると契約が成立する。碧の命に従う頑強で長寿な生き物になったという事だ。碧、名を与えてやれ」
「ルリ」
呼ばれた鳥は碧色に光った。
「碧さま。名をくださってありがとうございます」
「俺も眷族欲しい!この狼はクロの眷族?かっこいいな。良さげなのに血を与えるんだったな?行ってくる」
しばらくすると紅は紅い犬を連れて戻ってきた。シバと名付けた、とご機嫌だった。
「ロウ、ルリとシバの面倒をみてやってくれ。」
「かしこまりました。」
~ニーナ~
魔法劇を初めて観たニーナは泣き腫らした顔をしていた。事前にドニに渡されていたタオルはびっしょりだった。ドニはタオルを取り換えた。
「ドニ、ありがと。涙止まらないかと思ったよ。シロさまとクロさまかっこよかった。コウさまとルドルフさんは辛かったね。ゾーイ、ゾーイのこと考えるとまた涙が」
「ゾーイは果報者です」
「コウさま、意外と強引にゾーイをお世話猫にしてたね」
「実はゾーイはかなり危険な状態だったようで、コウさまの魔力を戴いたから助かったんだそうです。本来、お世話猫は頑強で長寿なんですけど、従属の首輪は本当に厄介な物なんです」
ドニの案内で移動した先には綺麗な金色の石が置いてあった。
「さあ、ニーナ様、こちらゾーイの癒し石です。願い事をしながら魔力を込めるといい事があるんですって。ニーナ様も是非どうぞ」
「綺麗な石ね。ゾーイを包んだ光の色みたい。ここに魔力を込めるのね?」
ニーナはジャンやアンナへの感謝。ドニへの感謝。舞台の登場人物の姿を思い浮かべた。そして、助からなかった者たちが心安らかであるように、助かった者たちが幸せであるようにと願いながら魔力を込めた。
「魔暴走は実際に起きたことなんだよね?」
「そうなんです。ゾーイは有名で尊敬もされていましたから、当時の猫族が徹底的に調べたんだそうです。現場に居た人やクロさまにもお聞きしたそうですよ。上演するにあたってクロさまの許可を取って、お三方のお姿も忠実に魔法で再現しているんです。まあ、まだシロさまとコウさまにはお伝えしていませんけど」
「舞台の演出もすごかったよ。四方から飛んでくる炎とか目の前で建物が壊れたりとか、迫力が凄くて怖かった。コウさまたちが龍になったり人になったりも魔法なの?凄かった。ふふっ、お世話猫大会は皆一生懸命でなんだか可愛らしかった。戦いはかっこよかったけど。あ、もしかして、今年もある?」
「ええ。今年はもふもふ度の部門です。そろそろお伝えしようとは思っていたんですが、ニーナ様は特別審査員なんです。悔いなく審査できるようにもふもふ道を極めましょうね」
「もふもふ道を極める?」
ニーナを迎えに来たジャンは、そこだけ聞こえたようだった。
「ジャン様、ワタシは、殿堂入りしたもふもふ度最高のお世話猫なんですよ。ワタシの知る全てをお伝えします。知識が無ければ審査などできません」
「ジャンも一緒にもふもふを極めようね!」
「分かった。ボクもやる。ニーナが楽しいならもうなんでもいい」
ジャンはニーナが幸せならそれで良かった。
翌月、ドニのきめ細やかな指導で、猫族のもふもふについて熱く語れるようになったニーナは、立派に審査員を務め上げた。ついでにジャンももふもふになった。




