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白き龍の愛し子は猫に懐かれる  作者: もんどうぃま


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12/22

12 猫族の秘密は猫族のみぞ知る


街が燃えている。

崩れた建物に足を取られて転んだ人。

我が子を探して泣き叫ぶ人。

燃えた家の前で立ち尽くす人。


逃げ惑う人々の悲鳴が聞こえる。

助けを呼ぶ声、断末魔、親を探す子どもの声。

魔法使いが炎の魔法を放つ。

四方から炎玉が飛ぶ。


崩れた石造りの家の下敷きになっている男がいた。

近くには男を見ているお世話猫が立っている。

通常のお世話猫の半分くらいの大きさか。

首輪を付けられた幼いお世話猫は、ただ眺めているだけで男を助けようとはしない。


痩せていて目が大きい。

栄養が足りていないのだろう。

首輪が重そうだった。


崩れた自分の家の下敷きになっている男は悔しそうに顔を歪めた。

「お前がちゃんとしたお世話猫なら俺を助けられたのにな!くそっ。あいつに騙されてさえいなければ……ふんっ!その首輪は取ってやらない。お前のアルジはずっとこの俺様だ!ふは!ははははは!うっ……」


高笑いの途中で、糸が切れた操り人形のように突然動かなくなった男。

幼いお世話猫は小さな手で男の手を持ち上げて自分の首輪に触れさせた。

何も起きない。


ゾーイは叫んだ。

「おまえなんか大っ嫌いだ!」


涙が溢れてくる。

近くで何かが爆発した。

音に驚いたゾーイは走り出した。


数多の魔法使いが街を焼いた。

隣国からわざわざ来て炎を放った。

これが戦争か……とゾーイは独りごちた。


その景色が似合わない美丈夫がいた。

コウだ。

「おい、そこの猫、『止まれ』」


声を聞いたゾーイの体が光った。

魔力の籠った声で指示をされたゾーイは、自分の意思とは関係なく立ち止まった。

ゾーイは動けなかった。


コウはゾーイの頭を撫でた。

「何やってんだ、危ないぞ?あー、これ違法な首輪。まだあるんだ。しつこいなぁ。ダメだって言ってんのにな。それ、従属の首輪って言ってな、命令を聞かないと苦しいやつ。外すから動くなよ?」


ゾーイは動きたくても動けない。

コウは首輪に触れずに魔力を流した。

首輪は光り、音と共に壊れた。


壊れた首輪を亜空間収納に放り込む。

「よし!回収っと。はい『動いてよし』お前、名前は?俺はコウ」

「ゾーイ」

「ゾーイ、お前お世話猫だな?よし、俺と契約しろ」

「はい?」

「はい、これ俺の血。今日からお前、俺のな」

「はぁ?」


呆れて開いた口に、何かを放り込まれた。

勢いでゾーイは放り込まれた血の塊をごくんと飲んだ。

液体を丸く加工できるなんて只者ではない。


「不味いー!」

ゾーイの叫び声が虚しく響いた。


―――――――――――


あれからかなりの時間が過ぎた。

街の復興は着々と進んでいる。

土魔法が得意な黒龍のクロは地面の凸凹を直していた。

白龍のシロは食べ物を運んできて人々に配った。

配り終えると疲れた様子でふらふらと飛んで帰って行った。

泉に辿り着くと滑り込むように泉に入り、丸まって眠り始めた。


少し大きくなったゾーイはコウに連れられてユーエラニアに来た。

あの後ゾーイは亜空間で暮らしている。


「ゾーイ、これルドルフ。俺の友だち。ルド、この可愛いのがゾーイ。俺のお世話猫」

「ゾーイ、よろしく!オレたち今猫族にユーエラニアからネオコルムに引っ越してもらう手伝いをしているんだ」

「引っ越し?」


「あぁ、ゾーイは亜空間にいたから知らなかっただろうけど、今、人と猫族が住む国を分けているんだ」

「コウさま、なぜですか?」

「人は猫族を虐げている。それはお互いにとっていい事じゃない。それに俺が分けると決めた」

コウは偉そうに胸を張った。


「確かにボクの前の所持者は嫌な人でしたが、中には良い人もいると聞きました」

「猫族が離れたがらない場合は、納得できるまでちゃんと待つよ」

「コウさま、お優しいんですね」

「気付くの遅いよ」

コウは拗ねたような顔をして、プイッと横を向いた。


―――――――――――


亜空間にはゾーイの家があった。

コウをアルジと決めたゾーイがあっという間に建てた家。

大切な家なのに、コウとルドルフはずっとふざけてばかりだった。


「コウさま!ルドルフさん!遊んでないで早く寝てください!片付けが終わっていませんよ?あー!家の中で水を撒かないでください!」


建てたばかりの家が水浸しで、服が脱ぎ散らかされていて、ゾーイは悲しかった。

片付けようとするとコウとルドルフが邪魔をしてくる。

戯れあっている二人を見るのは嫌いではなかった。


―――――――――――


ゾーイはまた背が伸びた。


「コウさま!ルドルフ!勝手に他所の家の花を抜いてきてはいけません!」


「オレじゃないって!コウの奴が勝手に……オレは止めたんだ!」

「俺じゃないし」


ゾーイはジッと二人を見つめた。

「わーかったよ。謝るよ」

「ホントはオレがやりました」

コウとルドルフは一応殊勝な態度に見える話し方を熟知していた。

ゾーイを騙すのは簡単だ。


ゾーイが反省した二人を許そうと思った時、二人は互いにちょっかいを出し始めた。


ゾーイは深いため息をついて諦めたように首を横に振った。


―――――――――――


ゾーイはルドルフより大きく立派な体格に育った。

ゾーイは怒っていた。

大切にしていた初めてコウにもらった毛布を勝手に洗われた。

下手な洗い方をされて傷んでしまった。


「コウ!ルド!何してるんだ!それはボロ切れに見えるかもしれないけど、ボクにとっては大事な布なんだ!」

「ゾーイ、すっかりオレたちのこと呼び捨てだな」

「ゾーイ、知ってるよ。捨てるわけないだろう?」


コウがシロに貰ったという魔力玉を使うと元通りになった。

龍が使う魔法は訳がわからない。


「またからかったのか!くそっ!コウが龍じゃなかったらガツンとやってやるのに」

「なんだよゾーイ、ルドはどうなんだよ」

「ルドは人だから守る対象だ」


―――――――――――


『お世話猫大会』

大きな看板が飾られている。

屋台や出店がたくさん並んで賑やかだ。

多くの猫族が列に並んでいる。


参加者登録の列、会場だけで買える帽子屋の列、

果物の砂糖がけ屋の列、串焼き屋の列。

全ての店を回るのは難しい。


コウとゾーイは串焼きを食べながら歩いていた。

「お世話猫大会も今年で何度目だ?毎回参加者が増えて嬉しいよ。お世話する対象を失ったお世話猫たちに元気になってもらおうと始めたけど、もはやお祭りみたいで楽しいよな」

今日のコウは機嫌が良い。


「お世話猫だけじゃなくて他の猫族も得意なやつだけ参加するからな。この日に向けて準備するのも楽しいし、皆で盛り上がれて最高だよ」

珍しくゾーイがそんなことを言うので、嬉しくなったコウは意地悪な気持ちになった。


「去年は掃除だったからゾーイは三位だったよな?今年は得意な護衛術だろ?優勝するんだろうな?」

ニヤリとしてゾーイを見るコウ。


「昔のことは覚えてないなぁ。ま、来年はもふもふ度だし今年は楽しませてもらうよ」


「ゾーイのもふもふ度は十位が最高位だったか?日々の鍛錬は大事だけど、ちょっとはもふもふさせろよ。手入れが苦手なんだっけ?きめ細やかさ足りないのか?」


「毎日丁寧に、とか苦手なんだよなぁ。コウのお世話をするのは楽しいけど自分を手入れするのはなんだかなぁ」


「今年の副賞は龍になった俺の背に乗って飛べるってやつだから、おまえにはありがたみがないかもな」


「確かになぁ。しょっちゅう乗せてもらってるし。準優勝のやつに譲ってやったら喜ぶかな」

「それもありだな。それにしても龍の背なんてそんなに乗りたいもんかなぁ」


「憧れてるやつは多いんだぜ?それもあって今回はいつも以上の参加者が集まってるんだよ」


「そんなもんかねぇ。そう言えば、シロは唯一無二の人しか乗せないって甘美なこと言ってたな」

「シロさまは懐に入ると急に甘くなる方だしな。逆に背に乗せたいと思う人が現れると良いな」

「それもそうだな。甘々なシロを見てみたい。お!ルド!こっちだ!じゃあ、ゾーイ、頑張ってこいよ」


―――――――――――


花火が上がった。

昼間でも綺麗な色の花火だ。

大きな目立つ帽子を被った獣人型の男が舞台に立った。

帽子はワザと耳が目立つようにできている。

長くて立派な尻尾がゆらゆらと揺れていた。


「皆さまお待たせいたしました!鍛錬の総決算!お世話猫大会、始まります!」

一際大きな花火が上がった。

大輪の花が咲いた後、キラキラとした光が残って綺麗だ。


「さあ!今年は防御部門です。早速防御体勢の美しさを競っていただきましょう!」

五人のお世話猫が並び、お手本としてそれぞれ異なる防御体勢を披露した。


「左から順に危険度が上がっていきます。一番右の防御体勢で護衛する時は命懸けの状態ですから、大会でのみ披露したいものです。不思議なもので、美しさが違うと守られている方の安全度が変わってしまうのです」


男が説明をしている間に準備が整い、参加者が並んだ。


「さあ!まいりましょう!防御体勢部門、はじめ!」


合図に合わせて体勢を変える。

体勢の美しさで目を引くのはゾーイだ。

審査猫が厳しく採点していく。


「優勝者が決まりました!ゾーイ!」

順位発表が続いた。


「続いては勝ち抜き対戦部門です!まずは総当たり戦です。二組に分かれて一斉に戦っていただきます。勝ち残った二人が一対一で決勝戦を行い、勝った方が優勝者の栄冠を手にするのです!」


参加者はクジで二組に分かれた。

隣のお世話猫よりも胸毛が立派に見えるように張り合った。


「はじめ!」

激しく戦い始めるお世話猫たち。

背中が地面に着いたら負けだ。


あっという間に周囲を投げ飛ばして勝ったゾーイ。

もう一組の勝者は因縁の相手だ。

睨み合う二人。


「両者とも円の中に入って!」

厳しい目で二人を見る審査猫。

緊張感が高まる。


「……よーい、はじめ!」

一瞬の隙をついてゾーイの両足を腕で抱える因縁の相手。

ふらつくゾーイ。


「ゾーイ!負けるな!勝て!」

コウの声が聞こえた。

足に力を込めて踏ん張るゾーイ。

因縁の相手はゾーイを浮かせられなかった。


突然の猛然とした突っ張りでどんどん押すゾーイ。

因縁の相手はゾーイの腕が取れない。

そのまま円の外まで押し出されてしまった。


悔しがり、地面を拳で叩く因縁の相手。

「すごい気迫でした!優勝は、またもやゾーイ!」

ゾーイは両手を挙げて声援に応えた。


「いよいよ最後は警護実践部門です!悪者役、警護対象者、警護者に分かれて、指定の場所まで辿り着くのにかかった時間を競います」


審査猫が厳しく採点する中、ゾーイのキビキビとした動き、あっという間に悪役を倒す姿、指定場所への移動時間の短さが際立っていた。


と言うのも、悪者役のゾーイが強すぎて、なかなか実力が発揮できない警護者が続出したのだ。


「優勝者はゾーイ!完全優勝です!完璧な警護を披露していただきました。全方位からの攻めも上手く捌いていましたね。感服です。さあ、このままの勢いで表彰式に参りましょう!」


台の一番上からコウとルドに手を振るゾーイ。

コウとルドも嬉しそうに手を振り返した。


隣にいた準優勝者の耳元でゾーイは囁いた。

準優勝者が驚き顔から満面の笑みに変わったのを見て、ゾーイはニヤリとした。


「優勝者から準優勝者への贈り物です!」

大声援に送り出されたコウは、準優勝のお世話猫を乗せて、龍型で空を優雅に飛んだ。


―――――――――――


コウ、ルドルフ、ゾーイの三人組は、いつものように保護活動をしていた。


コウは額を右手で抑えて立ち止まった。

「あー!忘れてた!」

「どうした?」

「今日、受け取りの日だ。ずっと楽しみにしてたのに、今日だけ忘れるなんてどういうことだよ、全く」


「なんだよ。さっさと行ってこいよ」

「ゾーイ、ルドのこと頼むな」

「はいよ」

「んじゃ行ってくる」

コウは龍型になりながら勢いよく空へ舞い上がった。


コウを見送ったルドルフはゾーイに言った。

「じゃあ、次はあの猫族に人に声をかけてみようか」


「そうだな。ちなみにあの帽子を被った人も猫族だぞ」

「嘘だろ?」

「獣人型は難しいよな」

「いや、ほんとそう」


「獣人型は弱みを握られて虐待される可能性が一番高いから、積極的に保護したい。見ろ、首に厚めの布を巻いているだろ?」

「ああ、ただお洒落なだけじゃないのか?」


「従属の首輪だ。上手く外さないと命を落とす」

「え!」

「厄介な首輪だ。ルド、彼女に声をかけるぞ」

「すみません!ちょっとお話良いですか?」


突然街の奥から老若男女問わず走ってきた。

「逃げろ!」

「魔暴走だ!」

叫び声と人々の波があっという間にルドとゾーイを飲み込んだ。


「ゾーイ、見に行くぞ!逃げ遅れた猫族がいるかもしれない」

「ルド、危険だ!戻ろう。コウを呼ぶから待て!」

「待てるか!行くぞ!」


ルドルフは人々の波に逆らって、人々を掻き分けて、火の手が上がった方へ進んだ。

ゾーイは慌ててルドルフを追った。


王冠を頭に載せた男が無表情で炎玉と衝撃波を次々と撃っていた。

建物が崩れ、大きな炎が上がる。


三人でよく食べに行った店が壊れた。

逃げ遅れた人が炎に包まれた。

体を切り裂かれた猫族が蹲っている。

泣いている人、叫んでいる人。

ゾーイは仔猫の時を思い出した。


ルドルフは泣いている子どもを助けに行こうとした。

ゾーイがルドルフを背後から抱きしめた。

お世話猫大会で見た、一番右側の、命をかけて警護対象者を守る時の防御体勢。

ルドルフが全て隠れるように抱え込んだ。


ルドルフはゾーイの考えに気付いた。

「ゾーイ!離せ!」


爆音と共に直前までルドルフが居た場所が弾け飛んだ。

ゾーイの体が揺れる。

無数の炎玉と衝撃波がゾーイの周囲に降り注いだ。


ゾーイの体に当たる度に体が揺れる。

防御体勢が崩れることはなかった。


ルドルフは涙混じりに言った。

「ゾーイ!逃げよう!」

ルドルフは状況が見えなかった。

自分たちがどれ程危険な場所にいるのか分かっていなかった。


何かが焼け焦げたような匂いがする。

ルドルフはゾーイに包まれたまま。

涙が止まらなかった。


大きな爆発音が鳴り響いてゾーイが小さく呻いた。

「うっ」


「ゾーイ!」

ルドルフは半狂乱で叫んだ。

「コウ!助けて!コウ!」


上空に龍型のシロとコウが見えた。

下降しながら人型に変わる。

「ルド!」

「ゾーイ!」


シロは結界を張ってゾーイとルドルフを包んだ。

そして王冠の男を別の結界で包む。

王冠の男は動きを止めた。


ゾーイは傷だらけだった。

炎に晒された場所は焦げている。

そして、ゾーイは動かなかった。


コウの目には涙が浮かんでいた。

何も言わないでゾーイを見る。


シロはコウの腕を掴んだ。

「亜空間へ運ぼう、コウ!行くぞ?」

コウは頷いた。

「すまない。転移か?」

「そうだ。ルドから離れないからそのまま運ぶぞ」

シロの転移魔法で瞬間的に四人は消えた。


四人が消えた後、周囲にいて助かった人々はなんとか逃げ出した。

痛む足を引きずり、子どもを抱きかかえ、少しでも遠くへ行こうと必死だった。


王冠の男の結界が揺らいだ。

男は無表情のまま。

揺れが激しくなって、壊れた。

結界から解放された男は街の破壊を再開した。


四人は亜空間の泉の横にいた。

防御体勢のままのゾーイを置いた。

ゾーイはルドルフを離さない。


コウはゾーイを撫でて、優しい声で話しかけた。

「ゾーイ、ありがと。ルドルフは無事だ。もう離しても大丈夫だよ」

ゾーイの力が抜けたのが分かった。

ルドルフを横から引っ張り出した。


ボロボロなゾーイの姿を見たルドルフの慟哭がコウの心を抉った。

辛そうな表情のシロ。


動きださないゾーイを仰向けに寝かせた。

体はまだ柔らかい。

シロには、ゾーイの口角が少し上がったように見えた。


どこからか小さな金色の光がたくさん飛んできた。

小さな光はあっという間に増えた。

きらきらと光りながらゾーイの周りに集まっていく。


「ピカッ」


一際明るく大きく光った。

光が消えるとゾーイの身体も消えていた。


呆然とする面々。


そこへクロが戻って来た。

空から降りながら人型に変わる。

「街の様子を見てきたが、あの男、まだ暴れているぞ。シロの結界が壊れた。魔暴走だ。人の手には負えん」


シロは思案顔で言った。

「人向けの結界じゃダメだったか……よし、行こう」


シロとクロは龍型に変化して泉から飛び去った。

コウはルドルフの側から離れることができず、二人を見送った。


ルドルフは泣き続けていた。

「ゾーイはオレのこと止めたんだ。コウを待てって……オレが、間違ってた……ごめん、ゾーイ。オレ……オレが!うぅぅ……」

涙を目にいっぱい溜めたコウは上を向いたままルドルフの背中を撫でた。


龍型のシロとクロはすごい速さで街に向かった。

大地に降り立ちながら人型に変化する。

王冠の男はまだ破壊を続けていた。

無数の炎玉と衝撃波で、街は無惨な姿だった。


「ん?人にしては魔力が高すぎるな。」

クロは崩れた大地を直しながら王冠の男を観察していた。


シロは炎玉を結界魔法で次々と魔力玉に変えながら不思議そうに言った。

「そうか?僕には分からない」


「今は考えても仕方ない。止めるぞ」

「じゃあ、もっと強力なので包むか」

シロは結界魔法で男を包んだ。

どのくらいの厚さの結界で包めばいいか試している。


クロは土魔法で崩れた建物をどかして地面の穴を塞ぎ、広い場所を作った。

広場に繋がる道も直していく。


人々は直った道を通って逃げた。

動けない人々は取り残されて助けを求めて叫んだ。


結界魔法の膜の中の男は自分を燃やし始めた。


クロが何かに気づいた。

「シロ、見ろ。首の辺りに無理矢理魔力を入れられたような傷がある。誰かに魔暴走させられたのかもしれないな」


シロも膜の外から傷を見た。

「これか。酷い事をするな……」


膜の中の男は魔力を使い果たして萎びてきた。

長かった。

全ての魔力が尽きるまで三日かかった。

シロとクロはずっと付き添っていた。


萎びた男が動かなくなったのを確認した後、ユーエラニアの聖堂に運んだ。

王冠がコロンっとシロの足下に転がった。

シロは王冠を拾って亜空間収納に放り込んだ。


静かになった街を月明かりが照らした。

人々はそれぞれ生き延びた喜びを噛み締めた。

だんだんと空に色が増えた。

新しい始まりを期待させる、綺麗な夜明けだった。


朝日が壊れた街を照らした。

泣いている人、誰かの名前を呼んでいる人。

街に多くの人々が戻ってきた。

探す相手を見つけて喜び合った。


シロとクロは龍に変わって飛んだ。

上空から街を確認するためだ。

手を振って見送る人々の奥で、聖堂の中庭に萎びた男が埋葬された。

墓標のように小さな木が植えられた。


身元が判明しなかった人も猫族もネオコルムの共同墓地に弔われた。

季節ごとに花を楽しめるように多種多様な花木や花の苗が植えられた。


花が盛りを越すと、風の魔法使いが一気に舞い上げて花を降らせる。

酒を撒く者、音楽を奏でる者。

そこに眠る者たちが寂しくないように。


―――――――――――


ゾーイの絵姿と題名が宙に浮かび上がった。


『猫族の秘密は猫族のみぞ知る』


文字は次第に(ほど)けて空気に馴染んで消えた。





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