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白き龍の愛し子は猫に懐かれる  作者: もんどうぃま


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10/22

10 虹猫、ジャン

 翌日からニーナの教育が始まった。ジャンの予想通り、まずは部屋を移動した。以前より広くなったが、相変わらずアマリリスの部屋からは遠かった。


 食事の提供も始まり、ニーナは公爵家料理人の料理を初めて味わった。食堂で家族と食べたわけではなく、ニーナの新しい部屋で。


「アンナの料理が恋しいわ。」

アンナは複雑な思いだった。アンナは料理人ではない。料理人より自分の料理が良いと思うのなら材料のせいではないか。ニーナの食欲は段々減っていった。


 正直な話、アンナもネオコラムの食材が恋しい。幸い亜空間の材料が傷む事はない。自室で食べているのをいいことに、公爵家の食事の量を減らしてもらった。そしてネオコラムの食材を使ったアンナの料理の割合を増やしていった。


 新しく始まった教育は、思いの外楽しかった。公爵家令嬢としての所作や話し方、ユーエラニア王国の歴史、人気の文学、衣服、宝飾品。様々な知識を吸収できて、ニーナの毎日は充実していた。


 教える方も、話をよく聞き、理解が早いニーナはとても良い生徒だった。教え甲斐があると喜ばれ、次から次へと教え込まれた。


 中でも、ニーナが一番興味を持ったのは地理だった。結界で閉じているものの、この王国は意外と自然が豊かだった。一年を通して楽しむのに十分な程の観光地があるんだそうだ。ニーナはいつか行ってみたいと思った。


 ある日、ニーナの部屋の扉が急に開かれた。またリリアンだ。いきなり炎玉を放つ。ジャンの願いは叶わず、封殺の腕輪がなくなっていた。


「リリアン様、ごきげんよう」

ニーナは放たれた炎玉を結界に包んで床に転がした。それからリリアンを見て、習いたての所作で挨拶をした。


 小さな炎を透明な殻で包んだような綺麗な魔力玉。幾つもいくつも床で煌めいている。ニーナの魔力制御はかなり上達していた。


「なんなのよ!私の名を口にしないで!」

きつい眼差しでニーナを睨んで、さらに炎玉を撃ち続けるリリアン。綺麗な魔力玉がどんどん増えていく。


 ニーナはたくさん足下に転がった魔力玉を一気に空間魔法で収納した。リリアンには急に消えたように見えた。

「気持ち悪い!化け物!」

リリアンは撃つのを止めた。


「サンドリアンが魔力量検査で最上級と評価されたわ。お父さまはサンドリアンを次期公爵にと指名したの。あなたがどんなに凄くても家は継げないのよ」


 冷たい眼差しでニーナを見下ろすリリアン。口元が意地悪く少し歪んだ。ニーナは考えたこともない事を言われて、困って黙ってしまった。


「あなたも私を無視するのね!いいわ。魔力量検査に私もついて行くわ。お母さまがいう通りサンドリアンよりも多かったら何かが変わるのかもしれないもの」

リリアンは言いたいだけ言って満足したのか、部屋から出て行った。


「ジャン、この魔力玉どうしよう」

「ドニに処理を頼んでみる?猫族は魔力玉好きだよ」

「そうね。こんなにあるんだもの。喜んで貰ってくれたら嬉しいわ」

キッチンへ行くとドニはいなかったので、メモを残しておいた。


 ドニから連絡があったので会いに行った。魔力玉は紅さまが確認したいとのことで、ドニに預けた。安全を確認してから猫族に配ってくれるらしい。今回紅のお墨付きを貰えたら、次からはドニが管理してくれる。


「ワタシのアルジ、ニーナ様からです」と言いながら配る、というドニ。ニーナは嬉しいような恥ずかしいような気持ちで何も言えなくなってドニに抱きついた。


 その夜、初めてドニも一緒にアンナの料理を食べた。ドニの絶賛はアンナを大いに照れさせた。嬉しそうなアンナを見て、ニーナは幸せだった。


 昼間は教育、夜は皆と食事。ニーナは当初懸念していたよりも充実した日々を過ごせていた。勉強は楽しかった。博識なドニのおかげで、効率よく習得できた。


 ジャンはニーナの魔力量検査に備えて、聖堂を調べていた。検査は二種類。魔力量の検査の他に何か特殊な魔力の検出をしようとしていることが分かった。


 ルリが王宮で聞いた話だと、王太后の持つ特殊な魔力と同じ魔力の持ち主を探しているらしい。検査員の諦め具合からすると、随分前から行われている検査のようだった。


「ニーナ、魔力量検査のことなんだけど」

ジャンが切り出すとニーナは姿勢を正した。

「ニーナはこの家を出てネオコルムへ行きたい、で合ってる?」


「ええ。合っているわ。受け入れてもらえるのかは不安だけど、この家にずっと居るよりはいいと思うの」

「分かった」


 ジャンは検査機をテーブルに置いた。

「これが聖堂からちょっと借りてきた検査機だ。古いけれど精度は変わらない。試しにアンナ、触ってみて。やった事あるでしょ?」


「ええ、十歳の時に。では、手を置きます」

 うっすらと水色に光った。

「光りました。私は水魔法が使えますから、水色です」


「適性魔法の色に光るから人によって色が違って面白いよね。あと、光の強さは魔力量の多さだよね?アンナは水魔法に適性があって、魔力量は平均より少し高いくらい、かな。じゃあ、ニーナ、置いてみて」


 ニーナが手を乗せると、機械は光らなかった。

「「え」」

ニーナとアンナの声が揃った。


「魔力がない?」

「違うよ。ニーナの魔力量はすごく多いよ。もう一度置いてみて。ちょっと触れるくらいね。光が漏れちゃうから」

ニーナは指を伸ばして少しだけ触れて、すぐに放した。


 白くて強い光が輝いてすぐ消えた。あまりの眩しさにニーナとアンナは目を閉じた。

「ね?特上って感じでしょ?じゃあ、もう一度。今度は手を置いてみて」

ニーナはそっと機械に手を置いた。


 機械は光らなかった。ジャンはニヤニヤしている。

「実は、ボクの魔力を検査をしてる人に流すと、魔力量はなし、って機械が判断することが分かったんだ」

「ジャンすごい!なんで分かったの?」

「秘密」


「聖堂で色んな人に試したに違いありません」

アンナは腕を組んで言った。

「大丈夫だって。必ず「あれ?もう一回やってみましょう」ってなって全員魔力量検査はできてるから」


「問題は、持ち出せなかったもう一つの機械の方なんだ。何か特殊な魔力の持ち主を探しているみたいだった。誰もいない時に試しに触ってみたら反応したから、もしかしたら龍の魔力を探しているのかもしれない。夜中にアンナと調査に行きたいんだけど、良い?」


「私?」

アンナは驚いて自分を指差した。


「何に反応してるか確認したいんだ。特殊な魔力だけなのか、なんなのか。念のため、ニーナの魔力玉を持って行って、アンナと試してみたくて」


「分かったわ。行きましょう」

「隠伏魔法で姿は隠すから危なくはないはず。今夜早速行こう」


 夜ニーナが一人になるのは危ない、と言う事で、ドニの手配でまたゾーイの家に泊まった。ジャンとアンナの聖堂での機械の調査も無事終わり、当日どう動くのかが決まった。聖堂での機械の管理はだいぶ杜撰だったようだ。


 ついにニーナは十歳になった。誕生日のお祝いは前日にすることにした。当日は魔力量検査で落ち着かないだろう。四人で集まってゾーイのキッチンでご馳走を食べた。


 ニーナは生まれて初めてアマリリスから贈り物を貰った。サイズを測ってニーナのためだけに作られたドレス。


 リリアンのものより格は落ちるが装飾品もあり、初めて貴族然とした自身の姿を鏡で見たニーナは不思議な感覚だった。


「誰?自分じゃないみたい」

最初で最後だからと思って割り切って楽しもうと、くるくると回ってみたりもした。


 家を出る前に、ニーナとアンナの荷物は全てゾーイの家に移した。もう二度と戻らない部屋。ニーナはグルッと部屋を眺めてから扉を閉めた。


「何も感じないと思っていたけど、意外と寂しいものね」

ニーナは小声で呟いた。


 事前にアンナが知らされていた通りの時間に馬車は出発した。馬車は二台。ニーナとアンナが先頭。姿を消したジャンは転移魔法で先に聖堂へ行った。


 続く馬車にはアマリリスとリリアンが乗った。こんなに距離があっても通れたなんて、と以前ジャンたちとドキドキしながら門を通った時のことを思い出した。


 父、アレッサンドロは来なかった。ニーナは父に会えなくて辛いか自問したが、答えは否。自分の世界には最初からいない人だ。まあでも、顔くらいは見てみたかったかな、とニーナは屋敷を少しだけ振り返って、また前を向いた。


 聖堂に着くと、機械が二つ置いてあった。先に魔力量検査が行われた。ジャンがニーナに触れて自身の魔力を流した。ニーナは機械にそっと手を置く。緊張で手に汗が滲んだ。


 機械は光らなかった。魔力無し。ニーナは目立たないように詰めた息を吐き出した。その結果を離れた席から見ていたアマリリスは膝から崩れ落ちた。


「嘘よ!その女は魔法を使っていたわ!魔力なしなんておかしいわ!」

「そう、ですね。もう一度こちらの機械でも試してみましょう。あ、同じ……ですね」


「お母様、私見たの。私があの女に炎玉を」

 リリアンはハッとして口を閉じた。人に向かって炎玉を撃ったと知られるのはまずい。リリアンはすぐ黙って母の背中を撫でた。


 アマリリスは何も言わずに立ち上がった。リリアンのこともニーナのこともチラリと見ることもなく聖堂を出て行った。


 自分を無視して立ち去った母を呆然と見送ったリリアンは慌てて母を追った。アマリリスはリリアンも置いて、先に一人で馬車に乗って行ってしまった。リリアンはもう一つの馬車でアマリリスを追った。


「あー、養育放棄ですね。書類にお名前をご記入いただきたいので、こちらへどうぞ。養育放棄と言うのは、親の権利なんです。親が子の魔力量に満足できなかった場合、養育を放棄する事ができます。一応放棄される側が了承する必要もあるんですが、どうなさいますか?」

二人を無言で見送った聖堂の職員は、ニーナに書類を見せながら淡々と説明した。


「了承します」

「そうですか。まあ、あの様子では抗議したところで難しそうですしね。賢明な判断だと思います。では、こちらに署名をお願いします」


『養育を放棄されることに同意します。ニーナ・パルニア』


 最初で最後の記名。ニーナ・パルニアはただのニーナになった。


「では、こちらの機械にも手を乗せてください」

別の機械の前へ案内された。ニーナは静かに深く息を吸った。そっと機械に触れる。


「光りませんでしたので、対象外です」

職員は書類に何かを書き込んだ。

「忘れていました。ピアスを外しますね」

魔道具で耳を挟むとピアスは簡単に壊れた。粉々になった石を見て「呆気ないものだな」とニーナは思った。


「これからどうなさいますか?あ、こちら、聖堂が養育放棄された方々にお渡ししている物です。どうぞご確認ください」

「そうですか。ありがとうございます」

袋を開くとお金が入っていた。


「助かります。橋で仕事を探したいのですが、可能ですか?」

「可能ですよ。国内では暮らしにくいですよね。優先して許可をお出ししているのでご安心ください。養育放棄をされた方のほとんどが橋へ行くんです。では、こちらの許可証をお求めいただきたいのですが」


「はい。二人分お願いします」

アンナもニーナと共にネオコルムに行く事を選んでいた。お金は早速貰った袋から出して払った。


 聖堂の部屋を借りてドレスを脱いだ。ニーナはドニが編んでくれた手袋を外した。ジャンの企みを聞いたコウが魔力を紡いでくれたのだ。その糸で編まれた手袋は、全ての魔力を相殺して魔道具に検知させない。


 聖堂に忍び込んで試した時に、

「コウさま、すごい!天才!」

とジャンが何度も機械に触れてはしゃいでいたと付き添ったアンナが言っていた。


「コウさまの手袋の効き目スゴいね」

「さすがコウさまだよな。すごいよ」

ニーナは初めての企みが上手く行ったことが嬉しくて仕方なかった。手袋をジャンに返し、新しくドニが作ってくれた服に着替えた。


「あの、このドレスと装飾品なんですけど……」

ニーナが職員に声をかけた。こういう交渉ごとも初めての体験だ。


「このまま持って行くわけにもいかないので、買い取って貰えたら助かるんですけど……」

「買い取り、ですか?」


「はい。あの、ドレスは寄付するので、装飾品の方を。これから入り用ですし」

「そうですよね。今業者を呼ぶので少し待っていてもらえますか?」

 

 職員が部屋を出てしばらくすると男性を伴って戻ってきた。ドレスと装飾品を両方とも買い取ってくれた。


「こんなに可愛い子をねぇ……貴族ってのはどうにもなぁ……元気で強く生きるんだよ?」

と、橋で使える割引券をくれた。


 お礼を言って聖堂から出た。ニーナはアンナと手を繋いで橋に向かった。最後の街歩きを楽しむ余裕はなく、不自然にならない速さで橋を目指す。ジャンは姿を消したままで橋の入り口に着いた。


 橋の入り口でニーナは振り返った。何も言わずに景色を眺めるニーナに誰も話しかけなかった。無言で頷いたニーナは橋の方を向いた。


 許可証を見せて結界を出る。結界を通る時の不思議な感覚はそう長くは続かず、あっさりと結界から出ることができた。他の通行人の邪魔にならないように端に避けてアンナと喜びあった。


 橋の交易所のネオコルムの方の入り口を見ると、ドニが立っていた。

「ようこそいらっしゃいました。アルジ」

ニーナは両腕を広げたもふもふなドニの胸に飛び込んだ。




 

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