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風佑と飛朗

 真っ(さお)な、秋晴れの空。





 真っ()紅葉(もみじ)が、高く高く舞い上がる。






べちゃ







 やがて。







べちゃ







 それは、水気を含んだ重い音を立て。







べちゃっ








 冷たくなった頬の上に、落ちた。







 紅葉と見紛(みまご)う、それは。







 人を斬った刀を、拭いた後の。







 血をたっぷり含んだ、懐紙だった。







「和尚様!」


「どうしよう!和尚様が!」


「えーんえーん!」


「追い掛けようよ!」


「おいら達だけじゃ無理だ!」


 子供達は、寺の境内で倒れている和尚の許へ駆け寄った。


 それを遠巻きに見る、風佑(ふうすけ)飛朗(とびろう)





 


べちゃり






 最後の真っ赤な懐紙が、音を立てて地面に張り付くように落ちた。


 和尚はまさに仏の様な存在で、風佑や飛朗のような身寄りの無い子供達を預かり育てていた。


 誰からも愛される、人徳者であった。





 その後、子供達は散り散りに引き取られた。


 番屋(ばんや)の前に、下手人(げしゅにん)の人相書きが掲示される。


「何とかって言う、忍びの男に似てるな」


「その筋じゃ、有名らしい」


「請け負った殺しは必ず成功させる、鬼みてぇな男だって話だ」


 通りすがりの武士達が、話し込む。


 風佑と飛朗は煮売(にうり)屋で料理の腕を、刀鍛冶で刀の知識を学びながら、仇討ちの機会を狙っていた。


 武士達が去った後、飛朗は背伸びをして人相書きを破り取った。


風兄(ふうにい)()ろう!」


(とび)…お前、覚悟は出来ているのか?」


「当たり前だ!俺は風兄を、本当の兄貴だと思ってる!兄貴の覚悟は、俺の覚悟だ!」


 飛朗の真剣な眼差しを見て、風佑は頷いた。


「よし…行こう!」





 噂では、鬼の鬼一(きいち)は優秀()つ有名な手練(てだ)れの忍びで、その筋では評判の腕前らしい。


 風佑と飛朗は必死に鬼一を捜し出し、人相書きの紙の裏に




『      果 た し じょ う


       おに の き いち


       仇うち 申し こ む


                     風佑、飛朗

                               』



 と、書いた。






 だが。






 残念ながら、下手人は鬼一ではなかった。






 人相書きは、他人の空似だった。





 しかし…。





「あたしは壽美(すみ)、この料理茶屋壽美屋で女将をやってる。そしてこの子はお三音(みね)、あんた達とおんなじ身寄りの無い子さ。しかも、うちの人に憧れて弟子入りしたいって言うんだ、面白い子だろ?」


 お壽美にそう言われて、(ふく)れっ(つら)を見せるお三音。


「もう、女将さんたら!言っとくけど、あんた達!歳はあたしが下でも、忍びとしてはあたしの方が上なんだからね!」


 風佑と飛朗は、顔を見合わせた。


 そして、あの日。


 紅葉と見紛う懐紙の舞う空を見て以来、初めて腹の底から…笑った。






 後日。





 鬼一は見事、和尚の仇を取った。





「請け負った、殺しは…必ず成功させ…っ、噂通り、だった…っ」


「あ…あ、りが…と、う…本当に、ありが…っ…」


 依頼主の二人は、生涯の恩人となる忍びの夫婦(めおと)の前で…泣いた。





「壽美屋へ、ようこそ!」





 姉貴分の様な妹は、細かく千切った果たし状を空に(はな)った。





 真っ青な、秋晴れの空。





 二人の新たな門出を祝すかの如く、真っ白な紙吹雪は高く高く舞い上がった。



                                   ー 完 ー

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