【前編】Episode 0
これを読んでいるあなたが誰かは分からない。
だけど、これを読む前に知っておいて欲しい。
私は、中村 美咲。
福岡生まれ福岡育ちの日本人で、
"2024年当時"はシステムエンジニアとして働いていた。
幼いころに両親は離婚して以降、
母親と二人暮らしで大学にも行かせてもらった。
大学卒業と一緒に福岡市の方でひとり暮らしも始めるようになったけど、毎月実家に帰ってたくらいに母親との関係は良好で、お母さんのことが大好きだった。
お母さんにはホントに感謝しかないし、
一人暮らしに慣れてきてお金もそれなりに貯まってきたらなにか美味しいレストランに連れて行ってあげたり、なにか買ってあげたりしたかったんだけど、
お母さんは育ててくれた恩返しをする前に
交通事故でトラックと衝突して亡くなってしまった。
ショックだった。
人生最悪の出来事だった。
私の人生は不幸寄りだけれど、母親の存在があったから乗り越えられてきた。
昔付き合っていた彼氏に浮気された挙句、
浮気相手の子に事実とは違うデマを流されて
一時期、クラスでの立場が悪くなったことがあった。
お母さんにいっぱい愚痴を聞いてもらったし、
どうしたらいいかも教えてもらった。
おかげで私は"浮気された側なのに浮気女にデマを流されたかわいそうな子"とみんなに知ってもらえたことで、クラスでの立場がなんとか安定した。
それも全て母親のおかげだった。
私は、大好きな母ともう二度と会えないと思うとショックで塞ぎ込んでしまって、数ヶ月間、休職を取っていた。
職場の同僚の男の子も心配してくれたし、
"飯でも奢るよ"と優しく言ってくれていたけど、
塞ぎ込んでいて誰とも関わりたくなかった私は
その誘いを受け入れることはなかった。
それからしばらくしてのこと。
休職明けの数日前、私は散歩をしていた。
元々、在宅ワークをしている関係で運動不足になりがちだったから、散歩は趣味だったんだけど、
休職してからは周りの目が気になるようになっちゃって、散歩する時間帯を夕方から夜に変えた。
夜間に女性が一人で散歩、というのは
不用心にもほどがあるし、馬鹿だったと思う。
夜遅く、人気のないところを散歩してたから
"あんなこと"が起きてしまったんだから…
その日もいつものようにヘッドホンで大好きなロックバンドの音楽を聴きながら散歩をしていた。
でも、違うことが一つだけ。
"誰かにつけられている感覚"があった。
家の近くからその気配があることに気づいていたけど、人気が全く無いわけではないし、偶然ルートが被っているだけだろうと思っていた。
でも、ずっとつけられている感覚があったし、近くにマンションやコンビニがない場所も意図的に歩いてみたんだけど、ずっとついてきてた。
これは確定だ、私はつけられている。
定期的にバレないように振り返ってチェックしてたのに。
怪しい男はいなかったはず…
立ち止まってどうやって撒くかを考えていたら、
背中にチクッとした痛みが走った。
注射をされたような感覚だった。
でも、ジクジクと痛みが続いたので
不審に思ったので背中に触れてみると、
私の右手は真っ赤に塗られていた。
それを見た瞬間、私は叫び出したくなった。
でも、声が出ない。
おかしい、助けを呼ぶことができない。
パニクって、怖くなって声が出なくなっていた。
「ふふ」
誰かの声がした。
女の子の笑い声?のようなものだった。
もしかして、私を刺した犯人は女の人なの?
偏見で完全に男だと思っていた。
時折背後を見ていたけど、怪しい男の人はいなかったからチェックはOKとしちゃってた。
血が止まらないし、立っていられない。
私はついに倒れて、視界が暗くなってきた。
感覚がおかしくなってきたのか、
痛みを途中で感じなくなり、冷静になった。
夜間に女性が一人で散歩しては行けない、
そしてストーカーが男とは限らない。
そんな教訓を胸に私の人生はここで終わった。
…はずだったんだけど、そのあと目が覚めた。
死んだはずなのに、どうして?と思ったけど
そんなことどうでも良くなることが起きた。
目を覚ましたら、そこは福岡どころか
日本ですら、いや外国でもなかった。
RPGゲームっぽい世界に私はいた。
しかも私の格好は散歩してた時の服のまま。
パーカーにジャージという完全オフスタイル。
浮いているし、人がいっぱいいる!嫌すぎ!
ちなみに、後で確認して分かったけど、
パーカーには血はついてなかった。
どういうことかわからないけどラッキー…かな?
アニメでよく見る、"異世界"に来ちゃったっぽい。
「待って、無理
どうしたらいいのまじで」
その時の私は想像もしてなかった。
異世界が"とんでもない場所である"ことを、
異世界の真実が"とんでもない"ことを。
前編を読んでくださり、ありがとうございました。
後編に続きます。
主人公の中村 美咲という名前の由来は、凛として時雨の345氏(の本名の中村 美代子)+そこに鳴るの藤原 美咲です。
連載版に登場する日本人キャラクターも基本的にはバンドマンAの姓+バンドマンBの名です。
理由はキャラ名が普通に思い付かないからです。
いろんな名前を思いついてる方、本当にすごい。
いずれ公開予定の連載版もよろしくお願いします!