最終話「もう一度」
体育祭が終わるや否や、すぐ文化祭が始まった。
僕は、クラス企画で、イントロクイズの司会担当を務めた。
音楽はよく聞く方だが、最近の曲は歌で始まるものが多いから、実質サビクイズになっていた。
午後には有志企画でゆうきと一緒にバンド演奏をする予定だ。
出番までの昼休憩に、ゆうきと一緒にお化け屋敷へ行くことにした。
企画の教室の前に着くと、そこにはゆきの姿が。
またもやあの時と同じく、呼び込みに負けて、渋々並んでいるみたいだ。
ラグーナの時と全く同じじゃないか…
気づいたら、親友そっちのけで走って行って、声をかけていた。
しゅん「やあ、ゆき。またお化け屋敷行くのか?」
ゆき「しゅんくん…あっ、この前は…ごめん、ライブラリの時。なんか悪い態度とっちゃって、
しゅんくん傷つけちゃったかなって思って、反省してる。あっ、この前の体育祭、
すごく良かったよ!しゅんくんの走り姿、かっこよかった!」
しゅん「いやいや、元々は僕に原因があるから全然気にしなくて良いよ。あっ、もうすぐ入れるよ」
ゆき「しゅんくん、また遠足みたいに笑わせてくれる?」
しゅん「僕に任せろ!」
扉を開けて暗闇の中に入った。あの時と同じように、ゆきを笑わせてあげた。
この前よりも、ゆきの笑い声が多く聞こえた気がした。
出口の扉を開けて廊下に出たところ、2人で大爆笑していた。
何も知らない人から見れば、かなり異様な光景であったが…
ゆき「ああ面白かった。あの時と同じだね」
しゅん「そうだね。今日の方がいっぱい笑ってたよ」
ゆき「うそ〜っ、なんか恥ずかしい…でも、
またしゅんくんと、お化け屋敷入るなんて思ってなかった。ありがとう」
しゅん「そう言ってくれて、僕も嬉しいよ。」
今度こそ告白するチャンスだ!と思ったが、
あれを聴かせてからにしようと思い、彼女を自分のステージに来るよう誘った。
しゅん「僕さ、1時間後ステージでバンド演奏するんだ。もしよかったら見てくれる?」
ゆき「しゅんくんがバンド!?絶対見に行きたい!」
しゅん「ありがとう。それじゃあ、時間まで、また2人で回ろっか」
その後、2人で射的をしたり、かき氷を食べさせ合った。
そして自分のバンド演奏の時間、僕の担当は…ボーカルだ。
そう、僕はゆきに、歌で気持ちを伝えたかった。
2ヶ月間、放課後カラオケに行ってたくさん練習した。
何度も間違え、挫けそうのなったが、その度にゆきのことを思い浮かべては、
たくさん歌ってきた。
ついに、イントロがかかり始め、ゆうきのドラムも演奏され始めた。
ゆきの姿はすぐ目の前にあった。
でも、顔を見るとニヤニヤしてしまうから、あえて遠くの二階席の方を見ていた。
歌い終わったあと、なんとも言えない、幸福感が体に渡った。
ゆきの顔を見ると、屈託のない笑顔があった。
ゆき「しゅんくん、めっちゃかっこよかった!それに、しゅんくんの歌声、
甘くて好きになっちゃった。また来年も聴きたいなあ」
しゅん「ありがとう。なんか照れるなあ。…ねえ、ゆき、ホームルーム終わったらさ、
ゆきのクラスに行くから、待ってて欲しい」
ゆき「分かった。なんかあるの?」
しゅん「それは、あとで伝えるよ」
文化祭も終了し、クラスの片付けも終わったあと、予定通りゆきのクラスに行った。
そこにはゆきの姿があった。気づくと、すぐさま全力で走って向かっていた。
ゆき「あっ、しゅんくん、お疲れ様。息上がってるけど大丈夫?」
しゅん「大丈夫。ちょっと走っただけだから…」
ゆき「そう。それで、伝えたいことって何?」
僕の鼓動の高まりは、もう止めることができなかった。そして…
「〇〇〇〇〇〇〇〇(告白したい、してほしい言葉をご自由に埋めてください!)」
やっと、自分の思いを伝えることができた。ゆきは数秒間おいて答えた。
「しゅんくん……」
ゆきはそう言いながら、僕の手を繋いできた。
「はいっ……て言って欲しい?」
ゆきは急に意味のわからないことを呟いた。
しゅん「…え?」
ゆき「だから、はい…って言って欲しいの?言われたくないの?」
しゅん「それは…ゆきが決めることでしょ」
ゆき「ふふっ、…はい、に決まってるじゃん、しゅんくん。ちょっと遊んでみちゃった」
しゅん「なんだよ、ゆきったら…」
僕とゆきは、また2人で大笑いをした。
2人で手を繋ぎながら見上げた空は、暖かな黄金色が広がっていた。