第4話「花火」
夏祭りまでの間、しばらくは勉強に集中しようした。しかし、6月の期末テストでは、
数学、物理、歴史の3教科で、30点台を取ってしまった。そのおかげで、母親に酷く叱られた。
仕方ない。その頃はゆきのことばかり考えてしまっていて、テストに集中できなかったからだ。
晩御飯を食べているときも、また母は僕に言ってきた。
ひろこ「しゅんちゃんはねえ、勉強したらちゃんとできる子なの。
恋愛もいいけど、まずは勉強を優先するのよ、分かったわね!」
しゅん「そんなの分かってるよ、ん?でもなんで母さん、そんなこと知ってるわけ?」
ひろこ「かおりから聞いたのよ。姉ちゃんはすぐ話広めるから、どうでもいい情報まで入ってくるのよ」
くっそ、姉ってやつは、またもやりやがった。
かおり「知られたくなかったら、言わなければ済む話なの。」
しゅん「姉ちゃんがしつこく聞かなければ済む話じゃねえか」
かおり「私は聞く権利があってもいいじゃない。」
しゅん「僕にも黙る権利があってもいいじゃん」
ひろこ「もう兄弟喧嘩はやめなさい!ご飯食べるわよ」
一方、弟のけんと、70歳になる祖父のゆうぞうは、何も言わずにただ黙々と食べ続けていた。
父は、数年前に癌を患い、長い闘病の末、去年亡くなった。
だから今は、父方の祖父が住み、我が家のことを色々助けてくれている。
第2の父みたいなもので、みんな、『おじい』と呼んでいる。
7月に入り、いよいよ地元の夏祭りが近づいてきた。
彼女と一緒に、祭りに行こうと誘ったら、すぐにOKをもらえた。
自分は、祭りでのデートのことで頭がいっぱいになってしまい、授業に集中できなかった。
おかげで、先生、友達にたくさん注意された。
先生「おい、しゅん、またニヤニヤしているぞ。いい加減話聴けよ!」
しゅん「すみません」
先生「なんかいいことがあったか知らないけど、授業はしっかり受けろよ」
しゅん「あっ、はい、気をつけます」
ただ、親友のゆうきだけは、私の事情をわかってくれているので、黙ってくれていた。
なんとも良い奴である。
そして待ちに待った当日、僕は待ち合わせの公園のベンチに座っていた。
少し経つと、可憐な浴衣姿のゆきが向かってきた。
可愛い…可愛すぎる…。胸の鼓動がどんどん速くなっていった。
ゆき「しゅんくん、ごめん、ちょっと遅れちゃった…」
僕は、声かけに気づかず、ずっとニヤニヤしていた。
ゆき「あれ?しゅんくん…何か考え事してる?」
しゅん「あ、ごめんごめん!僕昔から考え事してると、笑っちゃう癖があってさ…」
ゆきにはもちろん、それが、自分のことだとは到底思ってもいないだろう。
しゅん「ゆきが欲しいものとかあったら、どんどん言って良いよ」
ゆき「それじゃあ…最初射的やりたい」
女子が最初にやりたいことにしては大分渋いと思ったが、早速射的の屋台に向かった。
ゆうきが言うには、女子は大体りんご飴を欲しがると聞いたが…
そんな彼は今日、他の友人に誘われたそうだ。ゆうきの友人、良い仕事をしてくれた。
僕はゆきと一緒に、射的、金魚すくいなどを楽しみ、かき氷を、互いに食べさせ合った。
夜の花火も一緒に見た。しかし、ゆきの見上げる横顔が、なんとも可愛くて、
花火どころではなかった。
ゆき「わあ〜すごく綺麗な花火だね、しゅんくん」
しゅん「うん。」
僕にとっては、ゆきが大きな花火になっていた。
花火も終わり、最初に待ち合わせた公園に行き、ベンチに座って、
キンキンに冷えたラムネをゴクゴク飲みながら休憩した。
しゅん「今日の夏祭り、楽しかった?」
ゆき「もちろん!誘ってくれてありがとう。この地域の祭りは初めてだったし、
しゅんくんとも良い思い出作れたし」
しゅん「こっちこそ、ゆきとたくさん遊べて嬉しかった」
僕は、この時、告白のチャンスが来たと思った。そう考えているところに、
「しゅん?やっぱ、しゅんだよね」
一瞬静かになった時に、いきなり声をかけられた。
そう、今明和高校に通っている中学時代の友達、ゆうとであった。
しゅん「久しぶり。声かけてくれたのに悪いけど、しばらく待っててくれる?
あそこの図書館ででも待ってて」
ゆうと「分かったけど、あの女の子誰なんだよ、恋人か?」
しゅん「まあ詳しいことは、後で話すから…」
ゆうとを強引に遠くへ行かせた後、ゆきの元へ戻った。
ゆき「さっきの子、誰?」
しゅん「中学の友達。んと…今日はどうもありがとう。もう夜も遅いし、今日はここら辺で…」
結局告白のチャンスを逃し、そのまま挨拶して別れてしまった。
その後、ゆうとの元へ行った。思いっきり叱ってやろうじゃないか。
しゅん「なんでこんなタイミングで声かけたんだよ!」
ゆうと「帰りに公園寄ったら、ベンチに座ってるの見えてさあ。そりゃ声かけるだろ。」
しゅん「状況考えろよ。あの時、すごく大事な時間だったんだよ!邪魔するなよ。」
ゆうと「それはおまえの都合じゃないか。外から見たら、わかんないだろ?」
彼を理解させるために、1からゆきのことを説明した。かなり時間がかかった。
帰宅後、僕は、部屋の椅子に座り、スマホを取り出して、ゆきにお礼のスタンプを送ろうとした。
しかし、告白したいという気持ちが先走ったからか、無意識に「好きです」と打ってしまい、
そのまま投稿してしまった。
その瞬間、自分の過ちに気付き、すぐに削除しようとしたが、すでにその下には、
「ごめんなさい」とだけ送られていた。
頭が真っ白になり、机に頭が倒れた。数分間その状態が続いたが、なんだか喉が渇いてきた。
近くに置いてあったラムネを飲んだが、ぬるくなってまずくなっていた。
後日、親友にあの夜のことを打ち明けると、優しいことに慰めてくれた。
繰り返しになるが、彼はなんて人柄がいいんだろう。
ゆっくり気持ちの整理することを優先させたかったのか、彼は慰めてからは、何も言わなかった。
気持ちを切り替えて、その日の昼休憩の放送に入った。
しかし、その日の放送はあまり声が出なくて、先生からも心配された。
その日、豪雨がいきなり降ってきた関係で、14時に授業が終了。
雨が弱まるまで、時間を潰しにライブラリへ行った。
奥の自習室に、あのゆきの姿があった。
ゆきは、1人で自習していたが、自分に気づくや否や、下を向いてしばらく固まった。
数秒後、いきなり席を離れ、ロッカーの元へ。
しゅん「どこに行くんだよ」
ゆき「私……帰る」
静かなライブラリだったが、それでも聞こえなくらいの小声で呟いた。
しゅん「何言ってんだよ、こんなひどい雨の中帰れるわけないだろ」
僕は止めようと、出口を出て走ってく彼女の腕を掴もうとしたが、
「離してよ!」
と言い放ち、走っていってしまった。
僕は学校の外まで出て追いかけたが、もう姿は無かった。
その夜、帰宅後すぐに、ベッドに寝込んでしまった。元気になりたいと、
スマホで好きなお笑いのラジオ番組をかけたが、
コーナーのリクエスト音楽で、あいみょんの「裸の心」が流れていた。
気づいたら、枕の布が濡れて湿っていた。