第3話「オレンジ」
部活に関しては、特にスポーツができるわけではなかったが、
声だけは周りからよく褒められるのもあって、
メディアコミュニケーション部に入った。入った束の間、
部活で放送の模擬練習があった。
緊張はしたが、良い出来だと先生に褒められた。
部活仲間には、同じクラスの男子、ゆうきがいる。入学後、すぐに仲良くなった友達だ。
彼のいいところは、思いやりと行動力があるところだ。それもあって、Eクラスでは
学級委員長として重宝されている。
自分からしても、これほど人格の良い生徒に出会ったのは、彼が初めてである。
ある日の部活終わり、ゆうきなら信頼できると思い、自分の片想いについて相談することにした。
ゆうき「青春してるねえ、しゅん。俺も、中学生の時あったなあ…。
でも結局振られてさ、苦い思い出になっちゃった。」
しゅん「へえ〜、ゆうきもそういう経験あるんだ。で、その子とは、どう近づいて行ったんだよ。」
ゆうき「同じクラスの子でさあ、それに生徒会でも仲良くなったんだよ。」
しゅん「でも、しゅんは違うクラスだから難しいかもな。とりあえず、
そのゆきって子と、連絡先を交換するところからだね。
そういえば、来週ラグーナの遠足があるから、そこで声かけてみたらどう?」
彼だからこんな行動力のあることを言っているが、自分はそんなのはでっきこないと思った。
しゅん「そんな、いきなり声かけるなんて、恥ずかしいよ」
ゆうき「おまえの片想いの子だろ?声かけなかったら、
苦い思い出だけになっちゃうぞ。俺も助けてやるから。」
しゅん「そっかあ…ありがとう。頑張ってみるよ。」
あまりにも協力的だったから、僕は、意を決して彼女に声をかけてみることに決めた。
しかし遠足当日、親友は、まさかの体調不良で欠席し、自分1人に。
最初は諦めかけていたが、後になってゆうきに何を言われるか分からないのと、
これはゆうきからの挑戦状なのかな、と感じ始めたことで、再び力が湧いてきた。
親友のゆうきの言っていた通り、まずはAクラスの生徒の集団を見つけ、ゆきを探してみた。
前を歩く集団に流されて、1人でお化け屋敷に並んでいるのを発見。
急いで近づき、並んでいる彼女に、ついに声をかけてみた。
しゅん「おはよう、ゆき。久しぶり。なんとなく歩いてる時に、
ゆきの姿が見えたから、声かけちゃった。ここ、お化け屋敷だけど大丈夫?」
ゆき「しゅんくん、だったよね。良かった、また会えて。実はお化け屋敷苦手なんだけど…
ほら、ついみんなについていっちゃう癖があるから。」
しゅん「大丈夫!ゆきには怖がらないようにしてあげるから、安心して。」
ゆき「ありがとう、でも絶対怖さの方が勝っちゃうと思うけど…」
女子生徒は笑顔で挨拶してくれた。どうやら自分が来たことが、嬉しかったようだ
お化け屋敷の中に入った後、怖いのが苦手という彼女に、
自分は全力で面白がるようなことを喋って、怖がらせないようにしてあげた。
途中で、ゆきは恐怖のあまり、僕の腕を掴んできた。不意の嬉しさに、
僕はお化けどころではなかった。
あっという間にお化け屋敷の出口を出た。
ゆき「さっきは、ありがとう。しゅんくんのおかげで、いつもより怖くなかった気がした。」
しゅん「それは良かった。まだ、時間たっぷりあるから、一緒に回りたいんだけどどう?」
ゆき「私も、さっき同じこと思ってた。私1人だと寂しいから…
観覧車でも乗りたいな。天気も良いし。」
しゅん「良いね。早速行こっか。」
片想いの人と観覧車で2人っきり。彼女はただ寂しがりなだけかもしれないが、
僕にとっては、最高のひとときだった。
景色を見ると、窓から見える海が、日光に照らされてキラキラ輝いていた。
その後も、回転ブランコやメリーゴーランドなども一緒に楽しみ、
気づいたらあっという間に時間が来てしまった。
僕は、すっかり忘れていたことを急に思い出した。連絡先の交換である。
思い出さずにいたら結局ゆうきに怒られる展開になるところだった。ひぃ〜危ない危ない…。
しゅん「ねえ、ゆき、お願いがあるんだけどさ、LINEの交換したいんだけど、大丈夫?」
思い切ってLINEの交換を頼んでみた。
ゆき「ああ、良いよ。クラス違うからなかなか喋れないもんね。はい、これ。」
快く交換してくれた。
しゅん「今日はありがとう、一緒に回ってくれて。ゆきのおかげで、今日の遠足も楽しかった。」
ゆき「こっちこそ、声かけてくれて、すごく嬉しかった。またなんかあったら声かけてもらっていい?」
しゅん「うん、それじゃあもう僕バス乗らなきゃいけないから…じゃあまたね。」
別れの挨拶をして、僕は学校のバスに乗り込んだ。
スマホを取り出し、ゆきにお礼のスタンプを送った。
返信が来て、可愛いうさぎのスタンプをもらった。そして、親友のゆうきには、
無事に成功したことを報告した。
ふと、窓から覗いた景色は、オレンジ色の空が広がっていた。
後日、風邪で休んでいたゆうきが戻ってきた。
ゆうき「しゅん、本当にごめん、その日に限って熱を出しちゃってよ…でも良かったじゃないか!」
しゅん「最初は諦めかけてたんだけどさ、ゆうきが何言ってくるかわからなかったから」
ゆうき「予想が当たって良かったね。もし声かけてなかったら、
体育教師ばりに叱って、1時間バケツを持たせようと考えてたからね」
しゅん「なんなんだよ、その昭和の罰ゲーム。のび太以外やってるの見たことがないぞ」
ゆうき「それぐらいやんなきゃ反省できないってことだよ。まあ冗談は置いといて、
ゆきって子と何したの?」
しゅん「そっ…そんなの言えるわけないじゃん、いくら親友だってさすがに言えないよ」
ゆうき「さて早速手を繋いじゃったとか!?顔にそう書いてあるよ」
しゅん「いやあ、柔らかい手だったなあって、バカ!繋いでなんかないよ!」
ゆきとの思い出は自分のものだけにしておきたかったから、その時は否定しておいた。
ゆうき「んでさ、今度いつ会おうと考えてるの?」
しゅん「いや~、遠足終わったばっかだし、そんなん考えてもいないよ。」
ゆうき「自分から会っていかないと、向こうからは来てくれないんだぞ、しゅん。
そうだ、まだ先だけど、7月に夏祭りがあるだろ。そこでまた、誘ってみたらどうだ」
しゅん「またそんな漫画っぽいこと言う」
ゆうき「漫画っぽいことしなきゃ何が恋なんだよ。夏祭りと恋ってのは、刺身と醤油みたいなもんさ。
またさ、そこで自分の想いを伝えたらいいんじゃないか。またとないチャンスだよ!
今度こそ、しゅんのガールフレンド見てみたいな」
しゅん「そんなゆうきは、夏祭りに好き子を誘ったこと、あるのか?」
ゆうき「いやそれは無いけど…」
しゅん「じゃあゆうき言っても説得力ないじゃん。ゆうきには、また風邪を引いてもらおうか、
ゆきって子の顔、見せてあげなーい」
ゆうき「俺はねえ、誘わなくて後悔したからこそ、アドバイスしてあげてるんだよ」