第2話「再会」
あの学校説明会から、約半年。
僕は、無事第一志望の愛工大名電を推薦で合格。
友達のゆうとは、難門の明和高校を合格。もちろん一緒に合格を喜んであげたが、
これからも一緒に学生生活を送れないと思うと、すごく寂しかった。
ちなみに、もうあの女子生徒のことは、忘れてしまっ………てはいなかった。
受験こそは集中できたが、その間も、ひっそりと頭の片隅にいたのである。
しかし、もう一回顔を見れる機会は、ほぼないだろうと、半ば諦めていた。
4月、青空が広がる日に、僕は入学式に参加した。
多くの生徒がいたが、あまりにも多過ぎて、
あの女子生徒を探そうとしても面倒なくらいだった。
式典のあと、待望のクラス掲示を見ると、自分の名前があった。
Eクラスだ。あの女子生徒は…おっと、名前も知らないくせに探そうとしていた自分が、
すごく馬鹿馬鹿しく思えてきた。
式翌日、僕は放課後に、この前の見学で見て気にかけていた、ライブラリを訪れた。
入り口付近に掲示されてあった、図書委員によるおすすめの本紹介を、
何となく読んでいたら、急にハッとした。
『片思いに悩みながらも、全力で青春を謳歌していく物語』
今の自分にピッタリだった。
すぐさま小説のコーナーに向かい、その本を発見し、手を伸ばした。
その時、同じくその本を取ろうとしたであろう誰かの手に、触れてしまった。
「あっ、ごめんなさい、………あ!」
即座に謝った相手、顔を見ると、その生徒はまさかのあの女子生徒だった
自分も向こうも、あっと驚いたが、口が閉まらず、数秒間無音のままだった。
僕は、恐る恐る彼女に話しかけた。
しゅん「あの、この前学校説明会に来てたよね、ほら、国語の授業で」
ゆき「あっ、はい。こちらこそ、この前お見かけしていたので…
あの私、Aクラスでゆきといいます。あなたはどちらに…」
しゅん「僕はEクラスで、しゅんと言います。クラスは違うけど、これからよろしく。」
ゆき「あっ、こちらこそよろしくお願いします、あの、本どうぞ。私急いでないんで…」
しゅん「いえ、僕も急いでないからで譲るよ、それに小説、あまり慣れてないから。」
ゆき「ありがとう。じゃあ、私はこれで。また会う機会があれば良いですね。それじゃあ。」
しゅん「こちらこそ。」
そして、女子生徒にその本を譲った後、挨拶を交わして別れた。
僕は、興奮と緊張で、ずっとソワソワしていた。
ゆきっていう名前なんだ。けど、Aクラスだと、Eクラスとは随分離れてるなあ。
でも、あの時一目惚れした彼女に会えたとは……。夢なんじゃないかと思い、
頬を叩いたが、ちゃんと痛かった。
その日の帰り道は、いつもより足が弾んでいた。
帰宅後、自分では気づかなかったが、部屋の中で、喜びのあまりステップをしていた。
そこに、9歳離れた小2の弟、けんが入ってきた。
けん「にいちゃん、なんか楽しいことあったの?いつも笑ってるけど、今日はもっと笑ってるよ」
しゅん「ふふーん、お兄ちゃんねえ、とっても嬉しいことがあったんだ。
けんちゃんの好きな芸人って誰だっけ?」
けん「けん、錦鯉が好き」
しゅん「もし、けんちゃんがまさのりさんに会えたら、どう思う?」
けん「うれしくて、泣いちゃうかも」
しゅん「そうだよね。けんちゃんがまさのりさんに会うみたいに、
兄ちゃんはね、今日好きな人に会ったんだ」
けん「へえ、だからあんなに笑ってステップしてたんだ。いいな~、
けんも早くまさのりさんに会いたーい!」
しゅん「それはね、けんちゃんが芸人になって、テレビに出るようになったら、
会えるかもしれないよ。よ~し、じゃあ漫才ごっこやろうか!」
自分も弟もお笑い好きで、コント番組や芸人のコンテスト番組をいつも見ては、
一緒に漫才やコントの真似をしている。
いつも余計なことを吹きかける姉とは違い、楽しみや喜びを与えてくれる存在だ。
ちなみに姉は、今晩は夜遅くまでバイトで忙しいようだ。姉がいなくてよかった…。
しばらくは漫才ごっこに夢中で、忘れていたが
お風呂に入り始め時、また、あの彼女のことが頭に浮かび始めた。