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クリスマス(アルノルド視点)


私は執務室で1人、屋敷全体が寝静まるのを待っていた。


どうやらリュカは、最近流行り出した童話に出てくるサンタクロースという者を信じているようだ。正直、絵空事しか書かれていないような本の何処を信じたのか、私には全く分からない。だが、童話を持ちながら私に、楽しそうにしながら話している様は微笑ましいと思った。


父親としてどうすれば良いかと、部下達に相談すれば、子供が信じている夢を叶えるべきだと言っていた。そのためには、何をすれば良いかと問えば、サンタという存在がいるか定かではないため、街の者達は自分達でプレゼントを用意し、サンタの変わりをしているから、同じ事をすれば良いと教えられた。街の者達に出来ると言うのなら、私にも出来るはずだ。


さすがの私も、煙突から入るなどいくつかの無理がある事は出来ないが、それ以外はなるべく同じにしてやりたい。


私は、机に置いていた本を手に取り、間違いが無いかを再度確認する。だが、何度読んでも荒唐無稽過ぎる。そもそも、何故この体型で煙突を通れるのだ?お世辞にも痩せているとは、とても言えない。


本を閉じ、時計に視線を向ければ、日付が変わりそうになっていた。再度机に目を向ければ、プレゼントが入った白い袋が目に入る。


プレゼントはエレナと一緒に選んだ。リュカの誕生日に選んだプレゼントは、何故だか私だけが受け取って貰えなかったからだ。いったい何が問題だったんだろうか?いや、今はそんな事を考えている時ではない。プレゼントの事を思い出した事で、少し思考がそれてしまったが、今は過ぎてしまった事よりも、解決すべき問題に目を向けるべきだ。私は、1番の問題となったオルフェへと思考を向ける。


リュカならば、部屋に入ったとしても気付かれる事もなくプレゼントを置いて来れるだろうが、オルフェは私の気配や魔力で起きる可能性がある。魔法も、使えば魔力の波長で間違いなく気付かれる。


暫し考えた私は、そっと椅子から立ち上がり本棚へと向かうと、隠してあった仕掛けを動かした。本棚は音もなく横へと動き出し、後ろに隠された金庫が姿を現した。私は鍵を開けると、中から一対の腕輪をまず取り出した。


これを両手に付ければ、その人間の魔力を封印する事が出来る。本来ならば、魔力を持った罪人に使う物ではあるが、それ以外にも意外と役に立つものだ。


私はそれを身に着け終わると、今度は奥の方から古びた箱を取り出した。何かに使えるかもしれないと思い取って置いたが、あれが使っていたと思うだけで、やはり使う気が薄れてくる。だが、背に腹は変えられないと箱を開け、指輪型の魔道具の効果を確認しながら、それぞれの指に嵌めていく。


普段こういった物を身に着けなためか、指先に僅かな違和感を覚える。それは些細ではあるが、些細であるが故に返って違和感が増していた。あのゴミは、よくこれを身につけて日常生活しようなどと思ったものだ。私には全く理解できない。私は問題なく作動するか、確認の意味をかねて魔道具に込められた魔力量を確認すれば、対した量は入っていなかった。


魔道具は、込められた魔力量に応じて効果を発揮する。だから、多くの魔力を込められる素材で作れば、魔道具の効果も上がるようになっている。これは魔石を使っている物だったが、小さくとも良い物を使っているようで、何とかこれでも事が足りそうだ。


魔石が耐えられる限界まで私の魔力を注ぎ終えると、私は机の袋と普段なら絶対身に付けない赤いコートを持ってバルコニーに続く扉を開けた。外は冬ということもあり、呼吸をするだけで辺りには白い息が舞い、夜空へと消えていく。しばしその光景を眺めた私は、コートを羽織ながら静かに歩を進める。手すりまで来ると、それを足場にして屋根の上へと飛び上がった。屋根から行く必要はさほどなかったが、雰囲気というものも大事だろう。


音を立てないよう気を配りながら、真っ直ぐにリュカの部屋を目指した。空には星が輝いており、やはり雪が降る気配はなさそうだ。童話通りにいかない現実に、少し嫌気がさしそうになる。



降らせても良かったのだが、確実にオルフェに気付かれるうえ、流石に王都では無茶は出来ない。そんな事を考えていれば、もう目的の場所へと到着していた。私は念の為、下のバルコニーに降りる前に魔道具を起動していく。


認識阻害、気配遮断、防音、潜伏。


それぞれが、正しく起動しているのを確認した私は、下のバルコニーへと着地した。音を立てたつもりはなかったが、念のため気付かれてはいなかったかと、窓の陰から部屋の様子を伺う。


どうやら気付かれてはいないが、オルフェは起きているようで、ベッドの上に人影が見える。私は、左手にはめた魔道具を順番に起動していく。


隠蔽、困惑、幻惑、催眠、睡眠。


起動しながら私は、コレを使ってアレは何をしていたのだろうかと考えていた。まあ、込められていた魔力量を考えても、たいした事は出来ていなかっただろうが、アレが起こした不始末の後始末の記憶も蘇ってきて、頭が痛くなってきた…。


私が何とか思考を切り替えている間にも、魔道具はしっかりと仕事をしていたようだ。さっきまで見えていた人影はなくなり、ベッドで眠る姿だけになっていた。


魔石が耐えられる限界まで魔力を込めたおかげで、何とかオルフェにも効果を発揮したようだ。気配などを探ろうと神経を研ぎ澄ませていた事も、返って魔道具の効果を受ける要因になったのかもしれない。


オルフェに対して少なからずの罪悪感を感じながらも、解錠の魔道具で鍵を外すと中へと入った。部屋に入れば、2人はぐっすりと眠っていた。私は寝ているオルフェに布団を掛けると、最後の仕事を開始した。


「プレゼントが入ってたー!!」


翌日、エレナと共に2人が下りてくるのを待っていると、元気な声と共に靴下を片手に持ったリュカが、部屋に飛び込んで来た。だが、その後ろに立つオルフェは、嬉しそうなリュカとは違って、何処か不機嫌そうな顔をしていた。


「良かったわね。プレゼントはもう開けたのかしら?」


「まだ!危険だから、父様がいる所で開けようって兄様が…」


「危険?」


オルフェに不満そうな視線を向けて言うリュカ。私はエレナと視線を合わせ、共に困惑の表情を浮かべる。危険な物など入れた覚えなどはないが?私のそんな疑問の声が聞こえたのか、オルフェが口を開いた。


「不審な気配などはありませんでしたが、何せ侵入者が置いて行った物です。注意し過ぎる事はないかと思いまして」


「オルフェ…。少し気にし過ぎではないかしら…?」


「いえ。何事も、気にし過ぎるという事はありませんので」


「兄様!もう開けようよ!!」


待てなくなったリュカが、じれたそうにオルフェの服を引っ張る。


「分かった。だが、念の為ために、私の方から開ける」


「えー!!」


「いいな?」


「……うん」


最初、不満そうな声を上げたが、オルフェの真剣な顔に負け、最後は素直に頷いていた。それを確認したオルフェが慎重に靴下の中に手を入れると、ゆっくりと中の物を取り出し、まるで検分するかのように調べだした。


「煤などで汚れている形跡はないな…」


「兄様。まず気になる所はそこなの?」


「侵入経路を割り出したりするのには重要だ」


「そ、そうだけど…。もう!そんな事よらり、速く開けて見せてよ!!」


リュカからの催促で、ようやく包装紙の包みを解き始めたオルフェは、出て来た物を見て動きを止めた。


「本、だね?」


動きを止めたオルフェを不思議に思ったのか、手元を覗き見たリュカが、さらに不思議そうな顔を浮かべながら言った。


「ただの本ではない…。既に絶版になっているうえに、初版本とは…。サンタという者を、私は侮っていた…」


「え…?でも…父様から、たまに似たような物を貰ってなかった…?」


「?父上からは確かに貰った事があるが、その件とは何の関係もないだろう?」


「うん…。そうだね…」


先程から、何故か歯切れが悪いリュカの事は心配にはなるが、まさか、オルフェはサンタなる者を信じたのか?


「リュカは、何を貰ったんだ?」


私の不安をよそに、オルフェは不可解そうな顔をしながら、リュカの片手でも収まる程の大きさの包装紙を見ていた。


「う~ん?何だろう?今開けてみるね」


リュカが開けている様子を見ながら、本当にこれを喜んでくれるのかと、今度は別の不安にかられる。


「これ!今話題になっているカードゲームのレアカードだ!!」


「何だそれは?」


「兄様知らないの!?人気過ぎて直ぐに品切れになるから、普通のでも買うのが難しいんだよ!!」


リュカが楽しげに説明しているのを見て、エレナの助言通りコレにして良かったと思った。


リュカがコレを欲しがっていると、エレナから最初に聞かされた時は、いったい何の冗談かと思った。だが、私は玩具と言うものを甘く見ていたようだ。まさか、子供向けの玩具を大人も買う時代になっていたとは…。それに、この紙一枚で金貨数枚の価値があるとは、思もってもみなかった…。


私が幼い頃も、こういった玩具には見向きもしていなかったが、紙やインク、絵師代しか費用が掛かっていない事を考えると、これは旨味のある商売なのかもしれない。


後日談だが、この話しを部下達にすれば、彼らもコレをやっていた。なので、リュカとやるためにやり方を教えて貰ったのだが、玩具にしては意外と奥が深かった。使っていないカードを借り受けて実際にやってみれば、連戦連勝だった。そのせいか、その事で部下を含めてリュカからも文句を言われた。何故だ…。


「しかし、これほどまで接近されても気配すら気付かせないとは、サンタという者はなかなかの手だれのようだ。もっと、鍛錬の時間を増やすべきだろうか?」


「鍛錬は、しなくて良いんじゃないかな…」


リュカの言葉に同意したいが、オルフェの意見を否定する理由がない。


「そんな悠長な事を言っている場合ではない。もしこれがサンタではなく、暗殺者だったらどうする」


「それは…そうだけど…」


オルフェの意見は全て正論なのだが、何とも困った。アレが持っていた魔道具では、どうにも限界がある。来年のために、今からでも国庫から何か借りてくるべきだろうか?


「アルノルド様。もう少し謹んで下さい」


何かの気配を察したように、後ろに控えていたドミニクから先に釘を刺されてしまった。だが、許可証さえあれば、ドミニクも何も言わないだろうと思い直し、私は合法的に許可証を貰う算段を付ける。


「はぁ…」


背後で、誰かのため息が聞こえて来たが、私は聞こえなかった事にした。

お読み下さりありがとうございます

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