クリスマスイヴ
今日は特別な日という事もあって、普段の夜とは少し違っていた。
兄様と一緒の布団に横になって、一冊の本を読んでいる。そうなったのも、今読んでいる童話が理由だ。
「クリスマスになると、鈴の音の音とともにトナカイが引くソリに乗って、赤い服のサンタクロースが子供達にプレゼントを配りにやって来ます」
「何故、鈴を付けているんだ?寝ている間に来るのなら、静かな方が起きないだろう?そもそも、どうやってそのソリは飛んでいるんだ?それに、赤い服など暗闇でも目立つではないか。そのサンタクロースという人物は、本当に忍ぶつもりがあるのか?」
「兄様!まだ話の途中だから!それに、童話にそんなの事を求めちゃ駄目だよ」
話しを遮るように、物語の途中で質問攻めをしてくる兄様に注意した僕は、童話の続きを読み上げる。
「良い子の家にプレゼントを配るために、屋根にある煙突からサンタは家の中へと入りました」
「家宅侵入だな」
「兄様!それは、言っちゃ駄目なやつ!!」
「そうなのか?」
「もう!続き!続き読むから!」
触れてはいけない事に平然と触れてくる兄様に釘を指しながら、僕は押し切るように続きを読む。
「暖炉から出てきたサンタクロースは、寝ている子の枕元に下がった靴下の中に、そっとプレゼントを入れました」
「いや、もはやそれは煤まみ…」
また何か言おうとしていたので、キッと睨むように見ると、兄様は気まずそうに口を閉じた。
「翌朝、起きて靴下の中を見てみると、その子が欲しかったプレゼントが入っていました」
「……」
「兄様。どうだった?」
話しを聞きながら、何か言いたそうな顔をしていた兄様に、最後、僕は本の感想を聞いてみた。
「童話とは、改めて聞いても、謎が多いのだな…」
「読んだ事ないんじゃなかったの?」
童話を今まで読んだ事がないと言っていたから、最近流行り出した童話を読んだのに、兄様はすでに童話を知っているようだった。
「私自身は読んだ事はないが、昔、両親に読んで貰った事がある。まあ、その頃の父上は、まるで報告書を読んでいるようではあったがな…」
「へー。そうだったんだ」
昔を思い出すように言う兄様と一緒に、僕も父様から童話を読んで貰った時の事を思い出した。
たしかに棒読みの部分はあったけれど、悪役のセリフなどは臨場感があって、僕は聞いていて楽しかったと記憶がある。
「それと、私は気付かなかったが、物語の結末が本来の物と違っていたようなのだ」
「そうなの?」
「ああ、その様子を見るに見かねた母上が途中から読むようになったが…今みたいにあまり指摘したい所が多すぎてな…私から断ったんだ…」
困ったような表情を浮かべながら話す兄様を見て、そういう所は今も昔も変わってないんだなと思うと、何だか少し笑えくる。
「何か、おかしな事を言ったか?」
1人笑う僕の姿を、兄様は不思議そうに眺めながら首を傾げていた。
「フフッ、何でもない。それより兄様。サンタは僕の所にも来てくれると思う?」
「私のような者の所には来ないが、リュカの所には間違いなく来るだろう」
「そんな事ないです!兄様の所にもきっと来ますよ!そのために、兄様の分の靴下も用意していたんですよ!?」
僕のベットの枕元には、メイド達お手製の靴下が両足セットでぶら下げられていた。しかも、大きめのプレゼントでもちゃんと入るように大きめサイズに作って貰っている。
「いや…私の所には来ないと思うが…。それと、片方は私の分、だったのか…?」
「当たり前じゃないですか!!兄様の所に来ないはずが絶対ないんですから!!」
何時も僕達に平等に接しようとしてくれているのに、僕にだけプレゼントを贈るなんて事をするはずがない!
「そ、そうか…。そうだな…。そんな事よりも、今日はもう遅い、続きはまた明日にしよう。サンタクロースは、寝ている子の所にしかやってこないのだろう?」
無理やり自分を納得させるように言った後、兄様は興奮した僕に布団を掛けながら、僕を寝かせようとしてきた。素直に納得は出来なかったけど、夜も遅いのは事実なので、大人しく布団を掛けられながら1つだけ兄様に質問をした。
「今日は、本当に此処で寝るの?」
この童話の話しを知った兄様は、不審な輩が忍び込んで来たら僕だけじゃ対処出来ないと言って、今日は一緒に寝ると言い出したのだ。
「ああ、不審人物が来ないように私が見張っているから、リュカは安心して寝れ」
サンタは決して不審人物じゃないんだけどな…。まあ、鉢合わせしたとしても、対して問題は起こらないだろうと思い、兄様に後を任せて僕は眠りへと落ちていった。
~ジャックと豆の木~ <アルノルド>
ジャックと言う少年は、母と貧しい暮らしを過ごしていました。
ある日、乳がでなくなった牛を金に変えるため、ジャックが牛を連れて街に向かう道を歩いていると、不思議な老人から、牛と豆の種を交換しないかと持ちかけられました。
シャックは、ご飯を買う金に変えるため、最初は老人の提案を断りました。しかし、老人から『天まで伸びる豆の種』と言われ、好奇心に負けてたジャックは牛と豆を交換してしまいます。
ジャックは屋敷に帰ると、すぐに事情を母に話しました。その話しを聞いた母親は怒って、ジャックが買って来た豆を庭へと捨ててしまいました。
翌朝、ジャックが目を覚ますと、庭には天にも届く大きな豆の木が生えていました。これは凄いとジャックが豆の木を登って行くと、雲の上に辿り着きました。そこには、人食い大男が住んでいました。
大男が朝食を食べ終わって寝ている隙に、ジャックは金の卵を生む雌鶏を盗んで逃げました。
雌鶏を盗んだ事により、家は金には困らなくなりましたが、ジャックはもっと何かお宝が欲しいと思い、今度はハーブを大男から盗もうとしました。しかし、目を覚ました大男にそれが見つかり、ジャックを捕まえようと追いかけて来ました。
追いかけられているジャックを下から見ていた母親は、ジャックが地面に降り立つと、斧で豆の木を切り倒しました。その結果、大男は地面へと落下して死んでしまいました。
大男が死んだ事により、街の人間達にも事件が明るみとなった。
人食い大男は、残虐非道の行為を行っていたものの、既に死亡していて罪に問えないため私財没収のみとし、ジャックの母親は殺人と言う罪を犯してはいるが、息子を守ろうとしての行為だった事もあり、情状酌量の余地があるとみなし、減刑処分で無益労働。ジャックは、自らの欲を満たすための窃盗であり、二度目も行っている事から、常習性があるとみなされ重い罰に処された。聞いた事もない豆を持ち込んだ老人は、密輸犯の可能性があるため指名手配された。その後、街の人は変わらずに平和に暮らしました。おしまい。
「オルフェ。不審な人間からは何も貰ってはいけない。それと、過ぎたる欲は一歩間違えば破滅への道に繋がる事を忘れるな」
「はい。父上」
「そんな、結末だったかしら…?」