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ハロウィン


「まさか学院でハロウィンをやる事になるなんて思ってもみなかったよな!」


「貴方の場合、催しがあるからというよりも、授業がなくなったのが一番嬉しい理由ですよね?」


「そんなの当たり前だろう!」


僕達を含めた生徒達は楽しげに騒ぎながら浮き足立っているけれど、その中で一番機嫌良さげにしているバルドへとコンラットが若干の呆れが混じったような問いかければ、楽しくてしょうがないといった様子で返す。


学院の催しは、普段であれば生徒会が企画するんだけど、今回の企画は学院長が提案した内容だった。そのせいもあってか、授業も1日休みになってハロウィンの催しをすることになった。生徒は基本自由参加だったから、ネアは当然のように不参加を表明して、僕達がいくら誘っても駄目だったけど、教職員は強制参加の催しだったからか、担任のリータス先生は朝から不満げでブツブツ文句を言っていた。


「でも、お菓子を入れるカゴも準備してくれるなんて、本当に準備が良いよね」


今回の催しをするにあたって、お菓子を配る先生達が各地の持ち場で待機していてくれる。だけど、生徒同士で送り合う事も出来るから、お菓子の持ち運びが楽になるようにとカゴが用意され、自由に使えるように各所に置かれていた。


「カゴだけでなく配るお菓子の費用も学院長が出して下さったようですからね。資金が潤沢にあったのかもしれません」


「でも、その学院長は誰も見たことないんだよな?」


「今いる人も代理なんだけ?」


「確かそうらしいな。まぁ、こんな催しを企画してくれるんだから悪い奴じゃないんじゃないか!親切な奴に悪い人はいないって言うしな!」


「何とも貴方らしい基準ですね…」


全く人を疑おうとする事もない姿勢に、コンラットは半ば感心している様子を見せていた。だけど、姿を見せない学院長を不思議に思いはしても、僕達とは縁がない人だからか、感謝はしていても興味もすぐに薄れたようで前を向いて歩き出す。すると、ちょうど角を曲がってきた人のスカートのポケットから、一枚の紙がヒラリと落ちた。


「おい、何か落としたぞ?」


駆け寄って落とし物を拾い、それを手渡そうと顔を上げると、振り返ったのは見知った顔だった。


「なに?また人の後でも付けてたの?」


「そんなわけないだろ!人聞きの悪いこと言うなよな!?」


「そんなに声を荒げなくても、背後にうるさそうな気配もなかったから分かってるわよ」


気味の悪いものでも見るような視線をアリアに向けながら言って来た言葉に、バルドは過剰なまでに反論を返せば、向こうとしては冗談のつもりだったのか、浮かべていた顔を直ぐに崩し、ケロッとした様子を見せた。


「わざわざ拾ってくれたのに悪いんだけど、もう必要ないのよね。それ」


「そうなのか?そもそも、なんだコレ?」


「ん?お菓子と一緒に配っていたものなんだけど、気になるなら見ても良いわよ?」


「見て良いって…何が書いてあるんだ…?」


「それは見てからのお楽しみ」


折りたたまれているものの、淡い色でやたら綺麗な紙だったのにもう使わないと言われて、何気ない様子でバルドが尋ねてみれば、やたら楽しげな様子で中を開いて見て良いと言ってくる。その様子に何かしら嫌な予感はしたけれど、興味本位でその紙をみんなと覗いてみれば、やたら丸く可愛らしい文字で「甘いお菓子と一緒に、甘いイタズラはいかが♡」という文字が書かれていた。


「なんでこんな変なもん配ってんだよ!!?」


普段はもっと綺麗で真面目な文字を書いているのを知っているだけに、本当にアリアが書いていたのかと疑いそうになる僕の横で、一瞬、ビシッと固まったような反応をした後、まるで見た事を後悔するように声を荒げていた。でも、向こうはそんな反応を予期していたようで、少し煩わしそうな顔はするけれど平然とした様子で答える。


「一緒にいる時にドキドキするような事をしていると恋と錯覚する事があるって聞いたから、試しにお菓子と一緒にそれを配ってみたのよ。だけど、思ったよりも効果があり過ぎて。吊り橋効果って意外と効くのね?」


「試しで使うなよ!?」


「あら?恐怖心じゃないんだから良いでしょう?」


「そうだったとしても!ちゃんと管理して持って帰れよ!」


悪びれる様子もなく、あざと可愛く言う様子には呆れてものも言えないけれど、なんともアリアらしい。だけど、まるで不吉な物でも触っているかのようにそれを持っていたバルドは、危険物には責任を持てと言う。でも、その自覚がないアリアは気軽な様子で言う。


「もういらない物だし、アンタの方で捨てといて」


「人に押し付けてないで自分で捨てろよ!」


捨てる手間が省けたとでもいうようにアリアが処分を頼めば、バルドの方はもっといらないとばかりに押し返そうとする。だけど、それを身軽にヒラリと交わして踵を返す。


「じゃあ、よろしくね!」


「おい!」


バルドが強めに叫べば、周囲からの視線は向くものの、当人だけは振り向く事もなく軽やかに去って行った。


「どうするんです?それ?」


「……」


コンラットから問われ、無言で自分の手に残った紙を見下ろしていた。今すぐコレを捨てたいけれど、捨てるにしても周囲にゴミ箱はない。そもそも、貴族が多くいる教室ではゴミ箱が置かれておらず、学院で働いている者達に捨てておくように頼んでいた。だけど、今日は催しとあって、その人達は別の業務に回されていて最低限しかいないうえに、空気を壊さないように人目を避けた場所に配置されていた。だから、今すぐゴミを捨てるとなると、ゴミ箱が置いてある町の子達がいる別棟まで行くか、待機している場所に行かなければならない。だけど、どっちも少しだけ遠いだけに、予定していた場所を回る時間がなくなってしまうかもしれない。


「途中で捨てることにしますか…?」


「じゃあ…コンラットが持ってて…」


「嫌ですよ!貴方が拾ったんですから、自分で持ってて下さいよ!」


「……持っていたくない」


近くに捨てる場所がないのを知っているうえに、誰かに頼んで捨てるにしても、中を見られたら変な目で見られる可能性があるからか、コンラットも嫌がっていた。だけど、まるで捨てられた子犬のような目をしながら心底嫌そうにしているのを見捨てられず、僕が思い切って声を掛ける。


「今だけで良いなら…僕が持っていようか…?」


「……頼む」


「う、うん…」


物凄く真剣味を帯びたような目で、取扱注意な危険物でもあるかのような態度で渡してくる。それもあって、後には引けないからと受け取り、帰る時にでも捨てようと思って僕のカゴにとりあえずしまっていたけど、催しを楽しんでいる間にその事をすっかり忘れてしまい、そのまま屋敷へと帰ってしまった。


「おかえり。その様子だと十分楽しめたようだね」


屋敷に着くと、父様もちょうど帰って来た所のようで、僕へと楽しげな笑みを浮かべて迎えてくれた。なので、僕も同じような笑みを浮かべながら返す。


「父様、ただいま!でも、今日は早いんだね…?」


夕食までには帰って来るけれど、最近は忙しくていつもギリギリの時間に帰っていた父様に尋ねれば、僕が少しだけ疑いを持っているのに気づいたのか、父様はその疑念を晴らすかのように言う。


「いつもより急いで仕事を片付けて来たというのもあるが、前倒しで進めていたから速く終わったんだよ。まぁ、そのせいで部下達には多少苦労を掛けてしまって別途に手当を出して労うつもりだが。それで、急な催しだったが、学院の方はどうだった?しっかりと企画は回っていたか?」


「うん。生徒会の人達がしっかりと対応してくれたから、問題なく回ってたよ。でも、何で学院長は急に催しなんて開いてくれたんだろうね?」


こういった催しは何かしらの問題が起きる事が多いのに、綿密に計画が練られていたのか、何も起こる事がなくて生徒会の手腕が凄いと噂になっていたけど、父様がそこまで気にかける理由が分からない。それに、バルド達と話していたように学院長の糸も読めてこなくて小首を傾げながら独り言ちていたら、それを聞いていた父様が僕の疑問に答えるかのように口を開く。


「基本的には生徒の自主性に任せてはいるけれど、学院側に発言権がないわけじゃないからね。少しだけ学院生活でも思い出したかったのか、自身の子供からやってみたいとせがまれたのかもしれないね」


本当に実現するとは思っていなかったけど、食事の席などで学院でハロウィンをやってくれたら楽しそうだから企画してくれないかなとは僕も言っていた。でも、その時の事を引き合いに出しながら言う父様は、まるで知っているようにして話していて、もしかしたらと思いながら問いかける。


「父様は学院長にあった事あるの?」


「あるよ」


「本当!?どんな人なの!?」


「私がいた頃は、今の代理を務めている方が学院長だったんだよ。まぁ、私が卒業して暫くしたら変わってしまったけどね」


「なんだぁ…」


期待外れの答えでがっかりした様子を見せれば、少しイタズラが成功したみたいに笑う父様。そんな父様の反応に僕は少しムッとして、馬車から降りた時に荷物を持っていてくれたメイドからカゴを一つ預かる。


「リタ達に貰ったお菓子を配ってくるから、こっちは預かってて!」


「ふふっ、分かったよ」


傍で仕えていたメイドさんが持っていた2つのうちの1つを預かり父様に持たせれば、そんな僕の仕返しも可愛いとでもいった様子で笑っていた。そんな様子がちょっと悔しいとは思いながらも、他に案があるわけではなかった僕は、不満を残しながらその場を後にしたけれど、僕の仕返しの効果はその後に出たようだった。


「アル。おかえりなさい。今日もお疲れ様」


「ただいま」


エレナが待つ部屋へと帰れば労いの言葉を掛けてくる。だから、私も返事を返しながら手に持っていた物を机へと置いた。


「あら?それは城で貰ってきたの?」


「あぁ、これは私の…」


「何か落ちてるわよ?」


カゴに入っている菓子に押し出されながらも、かろうじて引っかかっていた物だろうか。置いた衝撃で隙間からスルリと滑り落ちたようで、足元に折りたたまれた1枚の紙が落ちていた。だが、私が拾うよりも先に、こちらへと歩みを進めていたエレナがその紙を拾い、中身を確かめるようにその紙を開いた。その瞬間、なぜか背筋に冷たいものが走り、本能が警報を鳴らす。それは、対処を間違えれば命がないと思える程の危機感だった。


「随分と…若い子に貰ったのね…」


「なに…?」


極めて低い声と共に身に覚えもない文字で書かれた紙を見せられるが、その文面の内容に戦慄が走る。


「これは私が貰った物ではない!リュカが貰った物だ!!」


「あら?リュカがこんな物を貰って来たというの?」


こんな手紙をリュカが貰うわけがないと私も思うが、身の潔白を証明するためにも正直に言うしかない。しかし、責任をなすりつけるなとばかりに、静かな声が返ってくる。


「貴方達はリュカの発言を疑っていたようだったけれど、本当か嘘かなんて見たら分かるのよ?」


「いや…本当に私が貰った物ではないのだ…。おそらく、どこかしらで紛れ込んだのではないか…?」


先日、リュカに想い人ができたのかという話になった際の話題を出してくるが、その時の対応が尾を引いているようだ。


「そうね…。どこで紛れ込んだのか、後で詳しく聞かせてくれる…?」


私に対しての信用がないのか、疑いが晴れぬままに夕食を迎える事になり、そこでリュカから経緯を聞く事になった。またしても、奴に関することで割を食らうはめになったため八つ当たりに似た嫌がらせを多少させてもらったが、自身に心当たりがないからか、公然と抗議をしにやって来た。私が適当に相手をしていれば、相手の怒りをさらに煽ったようで、それを見ていた周囲によって仲が悪い噂が経った。だが、それに関しては政敵を騙すにちょうど良く、その点だけは結果的に良かったということなのだろう。

お読み下さりありがとうございます

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