海の日
夏の長期休みを利用して、僕達は海に遊びに来ていた。
「プファ!」
「リュカ!!だ、大丈夫か!?」
「ゴホッゴホッ!!う、うん…。大丈夫…」
兄様に、泳ぎ方を教えて貰っていたけれど、息継ぎが上手く出来なくて、溺れかけていた所を兄様に助けて貰った。
「息継ぎが難しくて、上手く出来ない…」
息をしようと海面に顔を出しても、波があるせいなのか、空気と一緒に海水まで飲み込んでしまう。
「なら、アクアを呼ぶか?アクアの背に乗れば、息継ぎも楽に出来るだろう?」
兄様は、心配そうに僕に言って来たけど、乗るって言っている時点で、それはもう泳いでないです…。もはや、別の遊びになっています…。
その後、海で泳ぐ事を起きらめた僕は、兄様と一緒に岩場の方へと行ってみる事にした。岩場には、潮溜まりが出来ており、そこには様々な生き物がいた。
「兄様!綺麗な魚がいますよ!」
「そうだな。熱帯にいる魚には、綺麗な物が多いな」
見つけた魚を指差せば、兄様も僕と一緒になって見てくれた。
「兄様!カニやエビもいますよ!」
「そ、そうだな…」
「兄様!虫!」
「!!?」
あ、あれ?さっきまで、僕の隣にいたはずの兄様の姿が忽然と消えた。周りを見渡せば、15メートルくらいの距離が出来ていた。あの一瞬で、そんなに移動できるの兄様にも驚くけど、ある疑惑が湧く。
「兄様…。虫、苦手なの?」
「苦手ではない…。近寄れないだけだ…」
それを、苦手っていうんじゃないかな?
兄様に駆け寄りながら聞いた僕から、視線を逸らすように言う兄様は、普段の様子と違っていて新鮮だ。
「兄様にも苦手な物があるんだね?」
「だから、苦手ではないと…。そもそも、昔は、別に近くにいる事だって問題はなかった。近付けなくなったのは、レオンのせいだ…」
あれは、リュカが生まれる少し前の夏の事だ。
私達は、学院が管理する森で野外演習の授業をしていた。野外演習と言っても、ただ一晩、森の中で夜を明かすだけであって、魔物も間引いてある上に、見回りの教師や護衛が付いているので、危険な事などほぼない。1組、4~5名で構成されていて、私が入っているメンバーには、レオンも当然入っていた。
その時も、レオンの余計な一言で、事態が起こった。
「夏になってと言っても、やっぱり夜はまだ冷えるな。なぁ?オルフェが前の冬に使ってた、周りの空気を暖かく魔法使ってくれねぇ?」
「火なんか使ったら、魔物に居場所がばれて寄ってくるだろう」
演習前にある程度、魔物を間引いているとはいえ、まったくいないわけでもない。
「魔物が寄って来ても、俺が全部倒すから!な?良いだろう?」
「はぁ…。責任持って、倒すならいい…」
その当時、私はまだレオンを王族として扱っていた時期だった事もあって、協力する事を承諾してしまった。それに、まだ魔力制御も、今ほど上手く出来ていなかった事もあり、その魔法を使うには手に火種を作る必要があった。
「お!やっぱ、方がいいよな!それに、明るいと周りも見渡せて歩きやすい!」
ガサッ
「ん?魔物か?」
ガサササッ
「うわっ!!」
「ぎゃーー!!」
「!!!」
夏の夜の森に、複数の悲鳴が木霊した。
「その後は、大変だった…。その年は、虫の魔物が大量に発生していたらしく、私の出した火に寄って来てな…」
兄様の顔色は悪く、何処か遠くを見つめているように話していた。僕もさすがに、大量の虫に襲われたくはない…。
「それに、レオンが切り捨てた虫の体液やら、鱗粉なんかが飛んで来て、体中がベタベタになるし…。咄嗟に火魔法を使ってしまって、燃えた虫がもがいて森の木に火が引火しては、さらに大量の虫が寄って来てな…あんな体験は、もう2度と経験したくない…」
段々と青ざめたような顔をしながら話していた兄様は、真剣な表情で僕に言った。
「良いか、リュカ。夜の森で火を使うのは危険だ。絶対にやってはいけない…」
「は、はい…」
僕も、森では火を使わないようにしよう…。それと、兄様には、虫を近付けないように気を付けよう…。
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