七夕?
ある国に、アルノルドと言う優秀で真面目な宰相がいた。
王の親友でもあり、側近を務めている彼には、心惹かれている女性にいた。彼は、その女性を妻として迎え入れるために、様々仕事をこなしながら準備を進めていた。
王も、学院にいた時からその女性を知っており、2人の仲が進展するようにも協力もしていた。だから、2人が結婚決まった時には、我が事のように喜んでいた。しかし、その喜びは長く続かなかった。
「はぁ…。終わらせようと思えば、終わらせる事が出来るというのに…」
王は、執務室で1人、頭を抱えていた。
結婚をして、最初の2~3年は何も問題はなかった。だが、子供が産まれてからと言うもの、男は何かに付けて仕事を休むようになり、働かなくなって行った。
初めての寝返りを打ったのを見逃した。捕まり立ちをした瞬間に立ち会えなかった。そんな理由で休む事が続たある日、勝手に後釜を任命し、本人は辞表だけを机の上に置いていなくなっていた。辞職理由は、初めての独り歩きに立ち会えなかったからだった。
この城で男に任せていた仕事は、膨大で多岐に渡る。そうした仕事を、代わりにこなせる人物はそう簡単にいない。ましてや、その日、誰が何処で働いているか全て把握し、人員の割り振りをしながら揉め事を防ぎ。報告書だけで不足物の予想を立て、先手を打って発注出来る人間がそういるわけがない。
その時は、何とか連れ戻したが、男は真面目に仕事をする様子はなく、態度も変わる事はなかった。
「何か、手を打った方がいいか…」
王は、どうすれば男が働くようになるかと、静かに思案した。
後日、不機嫌そうな顔しながら男が、王の執務室へとやって来た。
「レクス…。エレナに、余計な事を言ったな…」
「余計な事は、言っていないよ?ただ、仕事を休みがちで、周りが困っている事を正直に話しただけだよ?」
「それが、余計な事だろう…。そのせいで、私がエレナに叱られたではないか…」
「叱られるような事をしたアルに、責任があるんじゃないかな?」
少しとぼけるような口調で王が言えば、男は口の端だけを上げると、意地が悪そうに笑った。
「いいだろう…。お前の言う通り仕事をしてやる…。だが、後悔するなよ…」
王は、男の言葉に嫌な予感はしつつも、仕事をしてくれるのならば、文句はないとそのままにしていた。だが、それがいけなかった。
「何だ!この書類の山は!?片付けるよりも、増える量が多いとはどういう事だ!!」
「そ、それが…アルノルド様が…」
苛立ちげに問う王に、部下がおずおずと理由を説明した。
孤児院の設立やスラム街における就労のサポート、街の治安維持を目的とした店の設立など、多方面からの仕事を男が増やしているらしい。部下からの報告を聞いた王は、その内容に激怒した。
「孤児院やスラム街はいいとして、店は自分で経営しろ!何で国の管理にしているんだ!!」
そのせいで、その店ごとの収益の報告書まで王の所に上がって来ており、今も仕事が増え続けていた。
「陛下…何とか、アルノルド様を止めて下さい…」
部下は、すがるような目で王に懇願した。王も今の現状を打破するため、男の執務室へと向かった。
「陛下から、私に仕事せよとのご命令だったと思いますが?」
男は、王の事を当て付けのように陛下と呼び、敬語で返答して来た。王は、その事に何処か苛立ちを感じながらも、冷静に男へと言葉を掛ける。
「私は、仕事をしろと言ったが、仕事を増やせとは言っていない」
「そうでしたか?仕事をせよとの御命令だったので、私に増やして欲しいのかと、陛下の意図を勝手に誤解しておりました。陛下の意図を理解出来ないような無能は、首にした方がよろしいかと思いますが?」
顎の下で手を組みながら不敵に笑う姿は、裏社会を支配する帝王のようだった。
「はぁ…分かった…。お前がやるべき仕事をこなしているのなら、何時、休みを取ってもかまわない。だか、辞める事だけは認めない」
「まあ、今回はそれで手を打とう。さて、私がやるべき仕事は終わったから、今日はもう帰らせて貰う。エレナには、お前からもちゃんと説明しておけよ」
男は、机の書類を片付けると、王の横をすり抜け、振り返る事なく帰って行った。後には、王が目を通さなければならない、大量の仕事が残されていた。
だが、王もこのまま黙ってやられているような性格ではなかった。
「陛下…。この書類に書かれている貴族は、陛下が取り潰したくても、なかなか実現出来なかった貴族では無いですか…?」
「それがどうかしたのか?」
「それを…アルノルド様にやらせるんですか…?」
「何を言っているんだ?私は、息子にちょっかいを出そうとしている者がいると、アルに情報を教えてあげるだけだよ?それが、たまたまその貴族だっただけだ。それに、その貴族をどうするかは、私ではなくアルが決める事だろう?」
王は、部下に笑顔で返しながらも、男が立案した仕事は抜け目なく、男の名義に書き換えていた。
数日後、今まで中々出てこなかった証拠が、面白いくらいに王の元へと届い来くようになった。ここ最近、仕事が停滞していたため、優秀な部下の仕事ぶりにほくそ笑んでいた。
男は、王からの情報に感謝しつつも、面倒な仕事を押し付けられた事を苦々しく思っていた。だから、腹いせに外交関係の仕事を増やしてやれば、王も負けじと男に仕事を振った。それが、お互いの仕事を増やすだけだと気付くまで、その子供地味た応酬は続いた。
そうして男は、家族との時間がこれ以上減らないように、今日も仕事を真面目にこなすのだった。
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