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『ここが、アーシャの家か?』

『そうだけど……』

『そうか。しばらく森で会わなくなったと思っていたら、前に住んでいたニンゲンはもういないか……』

『え? シシはこの家の持ち主のことを知っているの?』


 コクっと頷き。素性は詳しくは知らないが、1人の年老いた男が住んでいたと言った。その男の魔力は強く、この森の凶暴な魔物も近寄らない。それを目の当たりにしたシシは興味を持ち。ニンゲンに会いに行き、意気投合して、酒飲み友になったのだとか。


『そういや。なにかの研究の為に旅へ出ると言っていたな? ……まぁ強いニンゲンだったから、何処かで楽しくやっているか』


 シシは当時を思い出して、微笑んだ。

 

 

 その日から、シシとは朝昼晩とご飯を食べる友達になった。彼が暇なときには採取の護衛、話し相手、お昼寝にモフモフ枕にもなってくれた。彼、シシと出会ってひと月が経つころ、私の体調が悪くなる。会いに来たシシにしばらく会えないと告げ、両親にも手紙で相談した。


『アーシャ、主治医を呼ぶから一度帰りなさい』


 両親と手紙のやり取りをして、一度屋敷に帰ろうと決めた夜。家で休む私に、シシは深刻そうな表情をしながら「君は妊娠している」と告げた。


『え? 私が妊娠?』

 

『君のお腹から新しい鼓動が聞こえる。大丈夫だ、子供は元気に育っているよ』

 

 突然の報告。両親が屋敷に呼んだ、主治医にも同じことを言われた。正直、子供は嬉しいけど……このお腹の子は前の夫、ルールリア王太子殿下との子供だ。それから両親と何度も話をした。


 私に産まないなんて、選択はない。

 この子は私の子供、絶対に産む。


 両親との会話を伝えたとき、シシは何も聞かなかったけど、やはり気にはしているみたい。


『シシ、私ね……』


 彼に、この森に来る前のことを話した。

 話が終わると、机を叩き。


『はぁ? 君という番がいるのに他の女だと? し、信じられない!』

 

 前の夫を怒り、シシなら「僕なら君だけを愛する」私に番になりたいと言ってくれた。……いつも一緒にいてくれて、優しいシシのことを私も好きになっていた。


『シシ、私は一度離縁しているわよ。それでもいいの?』


『僕は気にしない、アーシャは美味い飯を作ってくれるからな』


『ご飯だけ?』

『クク、アーシャすべてが可愛い、僕だけのアーシャ』


 その夜、私とシシは恋人になった。両親にも紹介した――森の怪物、フェンリルの彼を見てはじめは反対していたが、彼の私への愛情の深さに最後は認めてくれた。出産は難産だったけど。


 大切な我が子、チェルを産んだ。


 はじめての子育ては大変だけどシシは協力してくれるし、可愛いチェルに両親はデレデレで毎月たくさんの子供のおもちゃと洋服を送ってくれる。


 みんなに大切にされ、チェルは風邪も引かずすくすくと育ち、3歳の誕生日を迎えた。チェルは生まれるとき、シシの力で助かったからか、真っ白な髪に水色の瞳をしている。


 今日、庭で洗濯物中の私の足元に、小さな真っ白なモフモフがくっ付いた。


『あら、可愛い子犬ちゃん? あなたはどこから来たの? シシのお友達?』


『違うよ、ボクだよ? あれ、ママは気付かないの? パパと同じなの』


『え、ええ! チェルなの?』

『そうだよ、ママ。ボク、チェルだよ』


『まぁ、可愛いフェンリルね。そうだ、シシ、シシ、コッチに来てぇ~!』


 庭でチェル用の椅子を作る、シシを呼んだ。

 なんだ? どうした? と来たシシは子フェンリルのチェルを見て目を細める。


『おお、これは可愛い子フェルリルだな。あの日か? アーシャの出産を助けたときに僕の力が移ったのか』


『そうみたい。あのとき、あなたの温かな力を感じたもの』


 私たちの足元ではしゃぐ、子フェルリルチェルを抱きしめた。

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