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子供のようにシシに抱きつき、私はポロポロ泣いた。シシとチェルが心配すると思っても、いちど流れでた涙は止まらない。怖かった……シシが傷付くことがほんとうに怖かったし、チェルを怖い目に合わせたくなかった。
なにより――ぜったいありえないこと。
聖女の力を欲しいとも、思ってしまった。
(私には十分な魔力があるのに。ステキな旦那様と可愛い息子もいるのに聖女までだなんて……贅沢だわ)
「ケガ、痛くない? シシ……」
「アーシャ、大丈夫だよ。ボクのキズはアーシャの回復魔法で癒えた、ありがとう」
優しいシシに、私はプンプン首を振る。
「ううん……シシが頑張ったおかげで、ドワーフの住処を浄化ができたの、ケガ痛かったよね。ごめん、私に……」
の後の言葉をいう前に。シシにガブッと、頬を甘噛みされた。
「違う! アーシャの力はすごい。その偉大な魔力に自惚れず、他の人のために使うアーシャを、ボクは尊敬する」
「ママはすごいよ、がんばり屋さんだよ」
大好きな、大切な2人に褒められて、嬉しくって、しばらく私の涙は止まらなかった。
泣く体力を使うという意味がわかった。そしていま、大量の魔力を使った後で体が重く、眠気を感じた。アイテムボックスの中にある、魔力回復のポーションを飲めば回復するかも――そう思ったが、眠さが先にきてしまい、ポフッとチェルごとシシに埋もれて眠ってしまった。
ボクが戦い傷付く姿をみてアーシャが、こんなに泣くとは思わなかったが。アーシャが己の魔力を使い、瘴気を浄化しているんだ、守るに決まっている。
(ボクの力が役に立ってよかった)
モフッと、ボクの体にアーシャとチェルの重みがのった。
「アーシャ? ボクに埋もれて、眠ってしまったか……ん? チェルも寝てる」
――フフ、2人ともお疲れさま。洞窟内の瘴気は浄化されたのかな。疲れているだろうし、このままアーシャとチェルを眠らせてあげたいな。
それに、ボクも瘴気幻影のワーグと戦って疲れて、いま動くのはダルい。力を回復するために、少し休んだ後にするかとボクはまわりに結界を張り、アーシャとチェルを抱きしめるように目を瞑った。
ザッ、ザッザッ――どれぐらい眠ったのだろうか。近付く足音と、丸くなって眠るボクたちを起こす、声が聞こえてきた。
「な、なんだ、この空き瓶の数は? ――ん? お、いた、いた、シシ! シシ、大丈夫か?」
(……誰、ボクを起こすのは?)
この声に目を覚ますと。すぐ側、ボクが張った結界内にエルフのアギが手に枝を持ち、ボクたちを覗き込んでいた。




