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3

「ルル様?」

「すまない、いまは黙っていてくれ」


 ロローナの手を払わず握り返すルールリア。


 ――2人は愛し合っている。


 私はこんな人の為に幼い頃から辛い王妃教育を受け、結婚をしてからも、彼の執務を手伝ってきたのか。


「すまない、アーシャ」


 眉をひそめながら謝るのだけど、ロローナと手を重ねながら言われても、誰が心を揺るがすのだろう。


「謝らなくても結構です……ルールリア王太子殿下、貴方という方は側室を迎えたいのなら。来年、契約等の手続きが済んでからと……昨夜、二人で話したじゃありませんか?」


「側室? いや、これは――」


 言葉を濁すルールリア、これは小説にも出てきたアレ。


「真実の愛ですか? ……そうですか。幸いにも私達はまだ子供もいませんし。貴方に本命の方が出来たのなら、それはそれで構いません。私達、離縁いたしましょう」


 私は素直な、今の気持ちを伝えた。

 その言葉にルールリアは顔を青くする。


「な、何を言うんだアーシャ? 王族はそんな簡単に離縁などは出来ない! 頼む、今回は許してくれ……二度と、こんなことはしない……」


「二度としないですか?」

「しない、絶対にしない!」


 嘘。いまだけ取り繕う嘘を言って、ほとぼりが冷めからまたするつもり――前世の旦那もそうだっだ。


「好きになさって。でも、あなたの言葉が信じられません」

 

 私は青い宝玉の付いた白銀の杖を取り出し、身に付けていた華やかなドレスから、質素な黒いローブ姿に着替え。寝室へと繋がる自分の部屋に無限収納箱を開き、魔法で必要なものを中へとしまう。


 これは要らない。あと、あなたからの贈り物も、見事な刺繍と宝石が付いたドレス、宝飾品類は持っていけば高く売れそうだけど要らない……お金が必要になったら、魔物を狩って魔石を集めればいい。


「アーシャ、僕の話を聞け!」


「あなたから何を聞けと言うのですか。私、いま気付きましたわ。――今年に入って、あなたは殆どの執務を私に押し付け、自分は国の為の視察だと何日も城を開けた……そうね、そのあたりからでしたわね、2人の噂が貴族の間で出始めたのって」


「…………!」


(なんて、わかりやすいルールリアの表情だこと。……やはり視察と言って、2人はひそかに密会していた)


「フフフ、あなたは私に知られず、その子と来年まで密会していればよかったのです。私に気付かれないまま、その子を側妃にすればよかった。まさか、夫婦の寝室に浮気相手を連れ込んで、ことを起こそうとするなんて……信じられません」


 そして、魔法を使うルールリアが――ヒロイン、ロローナの魅了の魔法に囚われたのか。それとも、ふくよかなあの子の胸に負けたのかはわからない。


 さてと、必要な物はすべてアイテムボックスにしまった……ここを、去る前にルールリアに向けてニッコリ笑い伝える。


「城を出て行く準備が終わりました。ルールリア・アウスター王太子殿下、ロローナ・アンゴラ伯爵令嬢、末長くお幸せに。あと、王太子殿下お手数ですが、婚姻の契約書と離縁の書類だけを父宛で、シシリア公爵家に送ってください。今、見てしまった事をすべて両親に伝えましたら、お父様が離縁に向けて動いてくれるそうなので――」


「なに、シシリア公爵に伝えたのか? ま、待て、アーシャ!」


「待ちません。……アウスター王太子殿下、移り気などで離縁したいと告げる、心の狭い女でごめんなさいね」


 ルールリアがベッドを降りてこちらに来るより早く、私は杖を振り転移魔法を発動させた。私の足元にまばゆい転移魔法の魔法陣が現れて、私の体は霧の様に消えていく。


「待て、行くなぁ――!」


 ルールリアがこちらに手を伸ばしても、霧となった私には届かなかった。


 

  

 王城――夫婦の寝室で放った転移魔法は一瞬で私を、何処かの森の中にある屋敷まで送った。その、部屋の中で私はしばらく立ち尽す。


「終わった……もう泣いても、いいかしら? うっ、うう……うっ……わぁああぁぁ…………っ」

 

 誰もいない部屋の中で、私は声を上げて泣いた。

 ルールリアのことは愛していた。

 私との間に子供ができなくても。

 彼に側室ができ、子供ができても王妃として支える気でいた。


 だけど、夫婦の寝室に浮気相手を入れるのは酷すぎる。

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