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調査6 ■■■大学登山サークル

 酷い頭痛と冷たさで私は目が覚めた。

 顔が冷たいと感じているのは、顔が冷たいフローリングの床についているからだ。

 そこまで認識したとき、はっと記憶が戻った。先ほど、窪に殴られたはずだ。体を起こそうとするが、後ろ手に縛られており、満足に動く事は出来そうにない。そして、急に動いたからか、より頭痛が酷くなった。ちょうど目線の先に、五条アシスタントが同じように後ろ手に電源コードで縛られている。


「あ、起きたっすよ、窪さん」


 声がした。

 見れば、キッチンの椅子に座ってこちらを見ているあおい雲の会のメンバーの大谷がいた。

 手には、鍬が握られている。

 それの歯は赤黒く濡れており、それが血であるのは直感的に認識できた。


「カメラ。カメラはどこに?」

「おいおい、このオッサン、カメラの心配してますよ。窪さん」


 大谷は、机の上をバンバンと平手でたたいた。見れば、そこにはカメラがこちらを向きに置いてある。

 赤くLEDが光っている所を見るに、録画はされているようだ。

 再び、自らの周りを見ると、私の隣には五条が縛られており、二人してリビングに転がされていた。そして、ちょうど、私と五条の頭の先にはキッチンがあって、そこに大谷らがいるようだ。もっと言うと、私と大谷との間には、何かがあった。その何かをよく見ようとした時、それが大隅雅代であると認識した途端に、息が詰まった。

 大隅雅代の頭からは尋常でない量の血が噴き出ており、血がリビングの壁や大きなガラス戸を汚していた。

 死。

 間違いなく、彼女は死んでいた。この血液量で生きていると言われたとしても信じる事は出来ない。

 その事実を認識させられて気分が悪くなる。


「カメラは僕たちで回収させてもらいます」


 窪がゆっくりと余裕を持った声で言いながら現れた。手にはスコップを持っている。

 そのスコップを勢いよく、大隅雅代の身体に突き刺すと、その持ち手に両手をのせた。


「SOC企画の五条さんと、堀江さんでしたね。この家の存在がバレると困るんですよ」

「窪くん、君たちは一体何を目的にしてるんだ」


 いつしか目を覚ましていた五条が訪ねた。

 彼も額から血を流しており、その血が目に入って片目を瞑っている。

 窪は五条からの質問に対して、無表情でじっと見つめた。


「僕達は大学の登山サークルに入っていたんですよ。この辺りの大学なんですけどね」


 椅子を引っ張ってきながら、窪は話を始めた。


「僕とこの大谷、他の篠田、島田、細川、落合、そして、水口の七人でした」

「水口さんというのは、今日、一緒に居ませんでしたね」

「そうです。その水口というのが問題でしてね。ところで私たちがどうして、このあおい雲の会に入ったか。先ほどは、そこの大隅、いや、くそ婆の迷い家探しに惹かれたとか適当に言っていましたけども、実はそうじゃないんです。私たちはね」


 窪は、椅子に座ったままに、大隅雅代の死体を足蹴にした。


「この婆とは別に、迷い家を見つけていたんだよ」


 大隅雅代の首がごろりと、こちらを向いた。

 血の気のない顔にこびりついた生気のない目と、目線があった気がする。


「正確に言うなら、このくそ婆がせっせこ、一人で迷い家を探している間に、僕達登山サークルも遭難してね。簡単な登山のはずが、登山道を見失って、下山の途中、夜になって、それで、ここに着いた。もっと言うならば、この家とはちょっと違う」


 ぐるりと、窪はリビングを見回す。


「だけど、似ている。意味の分からない家電、内装、間取り、どことなく似ているんだ。そこで、僕たちは一晩を過ごすことになった。なんてことはない、屋根と壁があるなら余裕で一晩過ごせる。はずだった。だけども、そうはならなかった」


 水口、水口、水口、と窪が足でぐりぐりと大隅雅代の身体を弄びながら呟く。


「水口はね。安心感と予定が狂ったという状態からか、少しヒステリックになってね。仲間に当たり散らしたり、この大谷をレイプしようとしたり、揉め始めたんだ。だから、殺した。もっと言うと、事故だったんだ。僕達でちょっと距離を置いていたのに、それで」


 スコップをちょんっと優しく爪先でつつき、窪は真顔のままに続けた。


「死体をここに埋めた」


 庭のフクロソウが思い浮かぶ。


「埋めた後はビクビクだった。マジで。バレるかも、バレるかも。家の持ち主が気づいて、バレる。警察はすぐに来る。すぐに捕まる。終わりだ。ってね。実際、それなら自首した方がいいって思いもサークルの中ではあったんだ。だけど、ま、人生を棒に振りたくないからさ。でも、捕まる事はなかった。見つかりもしない。そこで色々と調べたんだ、そしたら、迷い家の話を見つけた。ラッキーだと思ったね。ほとんど伝説みたいな存在に助けられた、これで、もしかすると、ずっと水口の死体は見つからないかもしれない」

「しかし、大隅雅代が迷い家を探している」

「そうですよ。そうなって見つかったら、終わりだ。だから、毎晩毎晩、このババアを見張る目的で、見つかったら殺すつもりで一緒に居たんだ。ようやっと、明日からは夜を気にせずに過ごせる。ま、あんたらには悪いけど、死んでもらうけどね」


 窪は立ちあがり、大隅雅代の身体に突き刺さっているスコップを勢い良く、引き抜いた。

 スコップの刃先からはボタポタと血が垂れ落ちる。

 それを受け、座っていた大谷も立ちあがり、鍬を杖の代わりに近寄ってくる。

 二人がそれぞれに私と五条の前に立った。さながら、その姿は処刑人であると感じた自分は暢気なものだ。


「あの女性、高橋さん? でしたっけ、も、すぐに殺しますから。他に牧とか言っていたのも」


 二人してスコップであったり、鍬を振り上げる。

 そして、振り下ろそうとしたその時だった。


「あ」


 窪と大谷が声を出して、動きを止めた。

 驚きの顔のままに硬直している。

 私と五条は体をよじらせて、彼らの向いている方向を、見ているものを見ようとした。

 リビングの大きなガラス戸の向こう、フクロソウが咲いている庭に。

 高橋ディレクターが立っていた。

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