学園オリエンテーション
図書室、食堂、音楽室、室内プールに、訓練室。
中庭、裏庭、運動場、闘技場(闘技場?)、植物園に、休憩用のサロン。
広い広い学園内をゆっくり歩きながら、私たちは学園の中を確認して回った。
迷子になりそうなほどに学園内は広くて、リリムさんは途中で「つ、疲れました……」と、くすんくすん泣いて、シドニーさんに「それなら私が抱き上げてあげよう」と言われて、お姫様抱っこされていた。
「リリムちゃん、人のものに手を出さない女なんじゃなかったの?」
長い廊下を歩きながら、エミリーさんがシドニーさんの腕の中にいるリリムさんに話しかける。
「エミリーさん、シドニーさんはお友達……女性です……。私は……同性のお友達に、存分に甘える女……」
「リリムは軽いね、まるで背中に羽が生えているように軽い。もしかしたら天使の生まれ変わりなのかもしれないね」
「シドニーさん……いい……自然に溢れ出る口説き文句……合格です……」
「何かに合格した。よくわからないけど、ありがとう」
「ええ……私が出す合格点……すなわち、とても、貴重です……」
あぁ、さっき出会ったばかりなのに、シドニーさんとエミリーさんとリリムさんが、すごく仲良しになってる。
私も、リオス様と仲良しになりたい。
足が疲れたと言って、私もリオス様に抱き上げてもらいたい。
私が、足が痛くてもう歩けないと言ったら、どうなるかしら。
『リオス様、もう、歩けません……』
『大丈夫か、ティファナ。私が抱き上げて運ぼう』
『そ、そんな、そんなこと、だめです……っ』
『君は私の大切な婚約者だ。遠慮をする必要はない』
などと言われて、颯爽と私を抱き上げるリオス様。
触ったことないけど、絶対胸板とか、腕とか、手とか、硬いはずなの……!
ガチガチに硬いリオス様のお体に触れる私……!
あぁ、考えただけで目眩と動悸が止まらない。想像の中でもリオス様は光り輝いている。
「……あ……っ」
そういえば私、国の滅亡の夢を見たせいで寝不足だったのだわ。
寝不足の上に緊張していて、さらに興奮が加わったせいで、比喩表現ではなくて実際に眩暈がした。
「ティファナ……!」
お兄様の焦った声がする。
シドニーさんやエミリーさん、リリムさんも私を呼んでいる気がする。
くらりと傾いた世界が、白く濁っていく。目を開いているはずなのに、白くぼやけてしまって何も見えない。
私は──廊下の真ん中で、それはもう、転びました! というぐらいに、見事に転んだ。
べしゃりと、私が廊下に倒れて体を打ちつける前に、私を抱き上げるようにして助けてくれる大きな手が、硬い体の感触が、そして清涼感のある花のような良い香りが私を包む。
「ティファナ。無事か」
私を覗き込んでいるのは、リオス様だった。
リオス様の腕の中に、私はすっぽりと抱かれていて、お顔が、綺麗なお顔が、とても、とても近い。
「ひ、あ……っ」
きゅう……っと、音を上げながら、私は意識を失った。
致死量のリオス様を摂取した結果、私は無事に召されたのだった。
ふと気づくと、私は白い部屋の簡素なベッドに寝かされていた。
白い部屋──というのは、天井が白いからそう思っただけで、実際には私の寝かされているベッドの周りにはぐるっと囲むようにしてカーテンが引かれているので、白いかどうかはよくわからない。
「……ここは……」
制服の胸のリボンが、呼吸がしやすいようにか解かれている。
胸が窮屈だなと思っていたブレザーが脱がされていて、体が幾分か楽だ。
私はがばっと、起き上がった。
ここは、死後?
「わ、私……死んでしまったのかしら……」
「ティファナ。気を失っただけだ。死んでなどいないが……もしや、何か持病があるのか」
深く甘い声が、近くで聞こえる。
カーテンを開いて中に入ってきたのは、リオス様だった。
死後の世界にもリオス様が……これは走馬灯?
「ティファナ、怪我はないか?」
「……問題ありません」
リオス様が話しかけてくれている。
一緒にベッドに乗っているもふまるに頭をペシっと叩かれて正気に戻った私は、リオス様をいつものように睨みつけて、冷たい言葉を一言言い放った。
これはもう駄目かもしれないと、心の中で頭を抱えながら。
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