それは、愛の重さ
私とリオス様は、昼休憩の時間を過ごすために東屋に向かった。
もふまるの予言どおりにいけば、私たちの元に迷子のオフィーリアさんが現れるはずだ。
ただし予言と違うのは、私たちの周囲に、ディオン様たちや、シドニーさんたちがみつからないように隠れているということ。
リオス様は周りに皆待機しているのを知りながら、私を膝に乗せて髪に触れたり、首筋に触ったりしていた。
「……リオス様、あの、今は……その……」
「私はいつも通りの私でいていいのだろう?」
「そ、そうですけれど……!」
唇を吸われて、瞳が潤む。
こんなことをしている場合ではないのに、つい、うっとりしてしまう。
「あ、あの……!」
そこに――オフィーリアさんが現れた。
これも夢と一緒だ。
オフィーリアさんのそばに飛んでいる、大きな蜂さんの瞳が赤く輝いた気がした。
「ごめんなさい、邪魔をする気はなくて……! 私、迷子になってしまって……学園に来たばかりなんです」
夢の中ではここでリオス様が立ち上がり「では、案内しよう」と言って、私を東屋に残していなくなってしまうのだったわね。
リリムさんたちの予想が正しければ、リオス様は精神攻撃にかかってしまう。
それで――私のことを忘れてしまうのだ。
リオス様はオフィーリアさんのことが好きになってしまって、私は嫉妬のあまりオフィーリアさんに酷いことをして(もしかしたら精神攻撃に気づいていた私は、オフィーリアさんの呪縛からリオス様を解放しようとしたのかもしれないけれど)結局、処刑されてしまう。
「迷子か。困っているのなら、案内しよう」
リオス様が立ち上がった。
――予言と一緒になってしまうのだろうか。
私の頑張りは、無駄だった?
違うわね、そんなことないわよね。私は、私にできることをしなきゃ。
だって、皆のおかげで、オフィーリアさん対策はばっちりできているのだから。
「リオス様……! わ、わ、私を一人にしないでください……! ティファナは、寂しくて……リオス様がいないと、死んじゃうんだから……!」
私は立ち上がったリオス様の手を握りしめ、斜め四十五度に首を傾げて上目遣いのコンボを決めた。
リリムさんから台詞も伝授済みだ。
死んじゃうんだから……っ、というところがポイントらしい。この、だから……っ、がいいらしい。
「ティファナたん……」
「リオス様、私以外の女の子を相手にしないでください……ティファナは、悲しいです……」
うるうるしながら、私は体をくねらせる。
こんな私の姿を、お友達やお兄様やディオン様たちに見られていると思うと、恥ずかしくて死ぬ。
でも、精神攻撃がリオス様にきいているかもしれない以上、手を抜くことはできない。
ここで、波状攻撃を仕掛けるのです……と、リリムさんの声が頭に響く。
メルザの私に着せたい下着コレクションの中からエミリーさんが選んだ、とても可愛らしくて趣味のいい下着を、私は着ている。
「あのね、リオス様……ティファナ、今日は、リオス様のために、すごく可愛い下着を選んできたのですよ……?」
「ティファナたん……私のティファナたん……大丈夫だ、私はずっと正気だった。だが、ティファナたんの可愛い波状攻撃を仕掛けられてみたかったのだ。最高だな……!」
よかった、リオス様、正気だった。
ということは、私の一連の非常に恥ずかしい言動は、全て無駄だったのでは?
と、思わなくもなかったけれど、リオス様がすごく喜んでいるので、頑張ってよかった。
「な……なんて嫌な、女なの……! 想像していたよりもずっと嫌な女……!」
オフィーリアさんが私を睨み付けている。
なんだかとても申し訳ない気持ちになった。
「不安に思わなくて大丈夫だ。私にとってはティファナたん以外の女など、そのあたりの石と同じだ。ティファナたんへの愛を疑うというのなら、今ここで、愛をしめそう!」
リオス様はオフィーリアさんに視線も向けずに、ものすごく堂々と、颯爽と、制服の上着を脱いだ。
そして、制服の下に着ている『ティファナたんプリントシャツ』が露わになった。
メルザに頼んで作って貰ったティファナたんプリントシャツには、バニーガールの服を着てすごく恥じらっている私の姿が、おおきくプリントされている。
「リオス様、格好いい……!」
リオス様は何を着ても似合う。何を着ても輝いている。
それが私の恥ずかしい姿がプリントされたシャツであっても……!
恥ずかしいお洋服を着ているのに堂々としているリオス様、素敵。今日も後光が差している。
私のリオス様は、いつでも輝いているわね……!
「変態だわ……」
オフィーリアさんが真っ青になって、震えている。
その肩を、両側からぽんっと、ディオン様とアーシャ先輩が叩いた。
「殿下は変態なんだ」
「知らなかったのね、可哀想に……ちなみに、お部屋にはティファナたんマスコットが三十体あるし、壁一面にティファナたんの写真。様々なちょっとえっちなお洋服を着せたティファナたんカレンダーも作成済みよ」
「……ひぇ……っ」
「オフィーリア。一年生を調べたら、 皆、何かしらの精神攻撃の支配下にあった。君だな」
エルヴァイン先輩が、水の膜で蜂の聖獣を閉じ込める。
「殿下を手に入れようとしたのだろう、君は。だが、殿下の愛を全力で受け止めるということは、三百六十五日毎日おはようからお休みまでの生活を管理されて、あらゆる角度から眺められて、あらゆるグッズを作られて、ありとあらゆる記録を残されたあげく、どろどろぐちゃぐちゃに愛されるということだ。君は、耐えられるのか。あと、少しでも愛を疑われたら、監禁されるぞ」
「……やだ、気持ち悪い……」
「それが正常な反応だろう。ティファナは喜んでいるが。……あの二人の間に、君は入り込めると思うか?」
「ごめんなさい! 私、無理です……!」
エルヴァイン様の前で、地面に膝をついてオフィーリアさんが泣いている。
シドニーさんとお兄様が顔を見合わせて「よかった、ティファナ」「頑張ったね、ティファナ」と褒めてくれる。
リリムさんが「他者を魅了するために頑張る女性を、嫌な女とは……」と言って怒っていて、エミリーさんが「殿下の服、悪くないわね」と、ティファナたんプリントシャツを褒めている。
私はリオス様に抱きついた。
「リオス様、大好きです……!」
「あぁ、私もだ。ティファナたんのためなら、王国を滅ぼしてもいい。それぐらい、愛している」
「滅ぼしたら駄目です」
「そうだな。私は全くの正気だが、可愛い下着を見たいな」
「はい。見てください、たくさん見ていいです。保存してもいいですよ、リオス様の好きにしてください。私は、リオス様のものですから……!」
あぁ、空が青い。
私たちは、いつもどおり。
もう――予言に怯える必要は、なくなったみたいだ。
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