滅びの予言
私がリオス様のそれはそれは素敵なご尊顔を思い出してきゃあきゃあしていると、もふまるが私の顔を前足でペシペシ叩いた。
「ふわふわぴょんぴょん……」
『話をききなさい、ティファナ』
「真夜中にリオス様について思い出して興奮しすぎたせいで、疲れてしまいました……」
『君はあまり本気にしていないようだけれど、私の予言は本物だよ。私は予言の聖獣。今まで君に何も伝えなかったのは、伝える必要がなかったからだ。例えば、今日の朝食は蜂蜜パンケーキ……などをいちいち君に伝えたりしない』
「蜂蜜パンケーキ、好きだから嬉しい……」
蜂蜜パンケーキを美味しく食べるために、できれば二度寝したい。
でも、もふまるはとても真剣だ。私もふざけているわけじゃないけれど、リオス様の夢を見られたことが嬉しくて、激しく浮かれてしまったのでちょっと疲れてしまっただけだ。
私は小さく息をついて、表情を引き締めた。
「もふまる。先ほどの夢は、この先起こることなのですね?」
『あぁ。君がリオスになら殺されても良いと思うのは勝手だけれど、君はその続きを最後まで見ただろう? 君を失ったリオスは、罪悪感に飲み込まれて、聖獣の力を暴走させてしまう』
「リオス様の聖獣は、聖火の聖獣。炎とは、万物の生命の源。リオス様に相応しい聖獣です、格好良いです……!」
『そうだね。炎とは、特別なもの。炎、水、土、光、闇。これらの力は、聖獣の持つものの中でも最も特別な力と言える。聖炎の力が暴走し、この国は、大地が割れて炎が吹き出し、火の海に飲まれるだろう』
力を暴走させてしまうリオス様も素敵だけれど、私はきゅっと唇を結んで、ぶんぶんと首を振った。
それはよくないことだ。
いくらリオス様が素敵とはいえ、人々の暮らしがリオス様の手によって崩壊するのはいけない。
私なら、私個人ならいくら崩壊させていただいても構わないのだけれど……!
「でも、もふまる。どうすればいいのでしょう……? 今の夢だけでは、私には何が何やら……」
『夏の終わり。秋の始まり。この学園にオフィーリアという名の少女がやってくる。少女はリオスの心を奪い、嫉妬に狂った君はオフィーリアを害しようとする』
「まぁ……!」
どうしよう、私ならやりかねないかも……!
などと一瞬思ってしまった。
でもでも、そんなことしないわよ、私!
だってリオス様の幸せは私の幸せ。リオス様に捨てられたら、それはそれは悲しいって思うのだけれど、リオス様の愛する女性は私が守べき方だもの。
私はリオス様を草葉の陰から見守る覚悟は、すでにできているもの。
『実際に、どうなのかはわからない。私が見ることができるのは、ただのビジョンだ。私にはそのように見えたけれど、実際には違うのかもしれない。ともかく、それが原因で君はあのような目に』
確かにリオス様は、「オフィーリアを殺そうとした、ティファナ」と言っていた気がする。
もふまるは、私が夢で見たような映像を見ることができるだけみたいだ。
だとしたら、単純に考えれば、私は悪女になって処刑をされてしまうということになる。
『……けれど、炎に焼かれた君を見て、リオスは君を愛していたことに気づくのだろうね。そして、力が暴走する』
「す、素敵です……!」
『素敵なものか。過ちを犯した直後に、己の間違いに気づくなど、リオスも愚かものだよ。それで国を破滅に追い込んでしまうなんて』
「それだけではないのかもしれないのでしょう? 他に事情があるのかもしれないです」
リオス様は立派な方なので、もふまるは口を慎んだほうがいいと思う。
「でも、もふまる。私に何ができるのでしょう?」
リオス様の心変わりを、私に止めることができるとは思えない。
だって、恋とは呪いのようなものだもの。
私の心が私の思うようにならないように、リオス様だって、オフィーリアさんに一目惚れしてしまうかもしれないし。
『そうだね。……おそらく、君がリオスに愛されないと、この国は滅んでしまうのだろう。オフィーリアが現れる前に、リオスと君が固い絆で、愛で結ばれれば、きっと破滅を免れることができるはずだよ』
「そ、それは、既成事実を作れということですね……!?」
それはかなり私にとっては敷居が高いのだけれど、無理じゃないかなって、思うのだけれど。
『君たちは婚約者同士なのだろう。今よりももっと、仲を深めたらいいということだよ。君はリオスが好きなのだから、リオスにも君を好きになってもらえばいい』
「そ、そんな、おそれ多い……!」
私はもふまるを抱きしめて、ベッドにぽふんと横になった。
カーテンの隙間から覗いた窓は、もうすぐ夜明けなのだろう。空が白んできている。
私は深く長い息をついた。
リオス様に好きになってもらうなんて。
できそうにない。
だって私、リオス様のことが好きすぎて、婚約者になってからまともにお話しさえできていないのだもの……!
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