ティファナ、白状させられる
啄むように唇が重なっては離れていく。
私はきつく目を閉じて、唇が重なる度に体を震わせた。
ぴくりと動いた指先で、シーツを掴む。
頭に嵌める形の、うさぎの耳がはずれる。衣装の背中の羽もいつの間にか外されて、ベッドに転がっている。
「ん……りお、さ……っ、もぉ……」
「もう?」
「わ、わたし、これいじょう、は……」
死んでしまいます……!
結構切実に胸が苦しい。呼吸も苦しい。幸せだけど恥ずかしくて、まさかこんなことになるとは思っていなくて。
頭が感情が、まるでおいつかない。
「これ以上すると、どうなるんだ、ティファナ。教えて」
「す、すき、すぎて、だめです……わ、わたし、おかしくなって、しまいます……」
もうとっくにおかしいのだけれど、これ以上おかしくなったらどうしよう。
「私も同じだ。君が好きすぎて、君を知る前の私のことなどもう思い出せない。私の世界の全ては、君だけになった。君を知る前の私はどう生きていたのかさえ、わからなくなってしまった」
「りおすさまぁ……」
「ティファナ――だから、教えて欲しい。君のことは、何でも知りたい」
「ぇ、あ……」
長く美しい銀の髪が、こつんと額を合わせられると、私の頬にさらりと触れた。
戯れるように鼻先が触れあい、それから唇が目尻に落ちる。
「ティファナ。学園に入って、君の様子は変わった。私は以前のティファナのことも愛しているが、最近の私の為に努力してくれていたティファナも愛している。どちらの君も一日中私の手元において眺め回したいぐらいに愛している」
「ひゃい……っ」
また噛んだわ。
もう、呂律もまわらない。
「私は君の全てが知りたい。おはようからおやすみまで、君の暮らしの全てをみつめて、できることなら記録媒体に保存して、いつでも見返すことのできるように保管しておきたい。切った髪も、爪も、君の全てを捨てずに保存して、手元に置いておきたい」
「はぅ……」
「君の口にはいる食事を記録し、身長と体重を常に把握し、血液で健康状態を調べて、全て私の管理下におきたいぐらいに愛している」
耳朶に唇が触れて、リオス様の涼しげな声が私の鼓膜を震わせた。
耳元で話をされるとぞくぞくするし、話の内容にもぞくぞくしてしまう。
いい意味で。
「写真や君を模した人形や、洋服を収集するのだけでは、足りない。こうして触れることが、ようやくできた。私の全力の愛情とはこんなものではないが、君は受け入れてくれるのだろう?」
「は、はい、のぞむことろです……! むしろうれしいです、りおすさま……」
「あぁ、ティファナ。だから、教えて欲しい。何かがあったのだろう? 私は君に対して、ごく普通のなんの特徴もない爽やかで完璧な婚約者として振る舞ってきたつもりだ。だが、君は不安になった。それは、何かが起こったからだろう」
「うぅ……」
リオス様、すごい。
なんでも分かってしまうのね。私の態度、確かに思い切り不審だったし、わかりやすかったとは思うけれど。
でも、それは流石に言えなくて。
だって、私が死んで、リオス様が国を滅ぼす夢を見たからだなんて、とても伝えられない。
「言えないのか、ティファナ」
「それは……」
「ティファナ。私は、全てを君に伝えた。私は君をずっとティファナたんと呼んでいるし、ティファナたん十二分の一スケール人形は春夏秋冬と、それぞれの季節の着替えが五十種類もある。だが、本物のティファナたんのほうがずっといい。柔らかいし、小さくて華奢で、可愛くて、■■■■して×××××して、●●●●したいと思っている」
「ひぅう……」
何か激しくすごいことを言われた気がするけれど、私の知識では理解できなかった。
ともかくすごいことを言われた気がする。
「私は君に、隠すことは何一つない。私の元から君が逃げようとするのなら、私は君を――どんな手を使ってでも、手元に置いて、閉じ込めて、どこにも行けないように、誰にも会えないようにするだろう」
「りお、さま、わたし、だめ……」
本当に駄目。死ぬ。もだえ死んでしまう。
私の妄想の中のリオス様よりも、今のリオス様の方が一億倍素敵だわ……!
こんなに激しく深い感情を向けられて、私はもう、心も体もどろどろだった。
このままとけて消えてしまうかもしれないというぐらいに、ふにゃふにゃで、語彙力は消し飛び思考回路は壊れて、頭の中が好きという単語でいっぱいになった。
「だから――教えて。ティファナ。君が隠していることを。全て、私に」
「だめ、です……」
「教えてくれるまで、キスをする。全身に。君が嫌がっても、泣いても、夜になって朝が来て、誰かが君を助けに来たとしても、君が口を開くまでやめない」
「っ、りお、すさま、やだぁ……」
「嫌?」
「いやじゃないです、ないですけど……! わたし、もう、限界で……っ、だから」
「だから、話せばいい」
「まって、まって……」
「待たない」
宣言通り、リオス様は再び私の唇に、唇を合わせる。
それから、首筋に。
耳に。髪に。指先一本一本に、指の間に、手のひらに。
その都度、私の体はしびれるみたいに、変な感じがして。熱くなって。
頭が沸騰して、血液も沸騰して、本当にどうにかなってしまいそうで。
「……いいます、いいますから、もお、だめ……っ」
「話せ、ティファナ」
指を絡められて手を繋がれて、親指の腹が私の手のひらを幾度も撫でる。
上着をめくりあげられて、剥き出しになった脇腹に唇が落ちて、脇腹から臍に触れて、鼠径部をカリッと噛まれた時には、私はもうすでに半泣きどころか、泣きじゃくっていた。
こんなに恥ずかしいことをされるなんて。
もちろん、嫌じゃないけれど――私が白状するまで、これが続くことを想像しただけで、背中がぞわぞわして、気が遠くなりそうだった。
「――予言を、見たんです……っ、もふまるが、私に予言の夢を、見せて」
「どんな?」
「リオス様が、……私じゃない女性と、愛し合う予言。私は、その、しょ、処刑を、されて……リオス様が私が死んでしまったあと、悲しんでくれて……王国を滅ぼす、夢です」
「は……?」
「え……?」
「本気か、ティファナ。あり得ないだろう。私がティファナ以外の女を? 私が? ティファナ以外の女を……? ありえない。ティファナ以外の女など女ではない。ティファナたんを裏切るのか、私が? 予言であれば、未来の私だろうが……しかし、予言の中の私は最終的にはティファナたんを失った絶望で、国を滅ぼすのだな。そこは正しい。私ならおそらくそうする。ティファナたんのいない世界など滅べばいい。ティファナたんを守れずに失った時点で私も愚かだ。私も含めて滅ぶべきだな」
「ま、まってください、リオス様……! リオス様は優しい方なので、そんなことはしません……」
「ティファナの命と王国だったら、ティファナの命のほうが大切だ。君以外はどうでもいい」
「り、りおす、さま……うぅ、だめなのに、うれしい……」
リオス様が私を抱きしめてくださるので、私は背中に腕を回して、ぐすぐす泣いた。
あぁ、すっかり話してしまった。
でも――なんだか肩の荷がおりたみたいに、楽になった。
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