リオス様のコレクション
ここは、多分、リオス様の寝室。
ベッドには私の姿が描かれた等身大私の長枕があり、枕元には手のひらだいから、大きめのもの、顔だけの丸いものからだらんと垂れたものまで、私を模したマスコットが置かれている。
壁には写真の他に、そういえば私、こんなお洋服着ていたわね──という、サイズアウトしたお洋服。
広いお部屋の中には、私に関するものでいっぱいだった。
私は、ぞくぞくした。
リオス様が、私に関するものを、こんなに集めてくださっている。
お部屋が、私でいっぱいになっている。
「ティファナ。……私も、同じだ」
「リオス様……」
「ずっと隠していた。いや、正直、隠す必要はあるだろうかと疑問だったのだが、君のをことを好きすぎる私を見せると、君は怯えて逃げてしまうだろうと、方々から言われていてな」
「わ、私……」
「君が私を、好きだと言ってくれたのは嬉しい。だが、私の方が好きだ。ティファナ、私は君を愛している。君が婚約者になったときから、私は君しか見ていない」
「……は、わ、あ……っ」
お部屋に溢れる、見渡す限りの、私の姿。
一体どこで写真やお洋服を手に入れたのかしらってふと思ったけれど、マスコットたちは誰が作ったのかしらって疑問に思ったけれど、そんなことはどうでもいい。
リオス様が、私を……!
「これは、秘密だった。だが、君が打ち明けてくれたから、私も隠しているわけにはいかない」
あぁ、こんなことってあるのかしら……!
リオス様は、私のことが好き。
ずっと、好きで、いてくれた。
「ティファナ。……君の全てを手にいれたくて、仕方ない。君に好かれるために、完璧で、冷静で爽やかな男を演じていた。だが、これが本来の私だ。君は私を、嫌うか?」
静かな声でリオス様に問われる。
私は大きく首を振った。嫌うわけがない。むしろ──。
「嫌いません! 私、嬉しくて……! リオス様が私を好きでいてくださったこと……本当に、嬉しいです」
「ティファナ、……私の元から、逃げたくなったりしないか」
「なりません」
「君に、本来の私の、全力の愛情を捧げてもいいのだろうか」
「も、もちろんです……」
そんなの――嬉しいに決まっているもの!
というか、私はまだ浅かった。
等身大の抱き枕や、色んな形と大きさのマスコット、お洋服の収集に、天井に写真を貼り付けるなどなど。
私もリオス様をこよなく愛する者として、やっておかなくてはいけなかった気がする。
私の愛情、まだまだ足りない。
アルバムに幼い頃から今までの写真を保存して眺めるなんて、まだ甘かった。
私もリオス様の等身大抱き枕が欲しい。
でも、隣にリオス様が眠っていると思うと、安眠できないのではないかしら、緊張のあまり寝不足になってしまうのではないかなとも思う。
「私の……ティファナ」
「わ、わわ、私の……っ」
「好きだ、ティファナ。なんて可愛いんだ。乏しい表情の割にすぐに赤面するところも、突然の慣れない高笑いも、私を睨み付ける冷たい瞳も、そっけない態度も、恥ずかしがっているのだと思うと全部可愛い。食べてしまいたい」
「りおすさまぁ……」
致死量のリオス様を大量に摂取した私は、目眩とともにその場にぺたんと座り込みそうになる。
リオス様は私の腰を掴んで軽々と抱き上げると、私の体をベッドに座らせた。
「いい……最高だ……私の上着を着せることによって、ティファナの華奢な体が強調されている……袖から指だけ出ているところと、ぎりぎりを責める長さの長けの造形美。頭のうさぎ耳も可愛いな、ティファナ。私のためにそのような格好をしてくれるのは嬉しいが、私以外の者がティファナの可憐な足や腕や腹を見たのかと思うと、全員燃やして滅ぼしたくなってしまうな」
「あ……わ……」
リオス様のことを私は、どちらかというと寡黙な方だと思っていた。
必要なことは話すけれど、無駄なことは話さない。
そこが素敵って思っていたけれど──すごく、情熱的にお話ししてくれるリオス様も素敵。
もう、リオス様だったらなんでもいい。
というか、この状況は、何? 夢?
頑張ったご褒美にしては、少々刺激が強すぎるのではないかしら。
私の心はもう限界で、さっきから何度も意識を飛ばしそうになっているのに、夢から目覚める気配はない。
「だから、そのような姿は私の前だけにしてくれ。私と二人きりの時なら、いつでも大歓迎だ。ヴェルメリオが記録の聖獣であればな……いつでも好きなときに、ティファナを色んな角度から撮影できたというのに……! だが、生身のティファナを隅々まで味わえるというのは、とてもいいな。触るが、いいか」
「りおす、さ、……っ、あ、あ……」
くすぐように首筋に触れられ、頬に触れられ、髪に触れられる。
長い指が私の体を辿り、私はびくびくしながら体を小さくした。
「り、お、……りおす、しゃ、ま……っ」
あまりにも緊張しすぎて、噛んだ。
恥ずかしさで死ねる。
あぁ、一秒前の私を消したい。噛んだ。噛んでしまった。
淑女としてあるまじき言葉使いになってしまった。
いえ、もう、入学してからの私の行動を振り返ると、とっくに淑女としての私は終わっているのだけれど。
「ティファナたん……」
「たん……? ……っ、ふ、ぁ」
今、なにか幻聴が聞こえたような気がする。
あまり呼ばれたことのない呼び方で呼ばれたような気がして、あまりにもリオス様が近くて、指先が私の体に触れるのが恥ずかしくて、きつく閉じていた目を開くと、視界がぼやけた。
とさりと、背中がベッドに触れる。
学生寮のベッドは結構簡素で、天蓋もなければ広さもそこまでという感じ。
リオス様が私に覆い被さるようにしてベッドに乗って、簡素なベッドはぎしりと軋んだ。
「ん……ん……」
唇が、触れている。
私、リオス様とキスを――。
「ぁ、……りお、す、さ……っ、ん……!」
角度を変えながら、離れては触れる唇の感触に、私は――全力の愛情の恐ろしさを味わっていた。
死ぬかもしれないわ、私。
リオス様の近くにいるだけで私にとっては致死量だったのに、こんな――近いどころの話じゃない。
「ティファナ、甘い。小さい。柔らかい。可愛いな、ティファナ。私のティファナ。あぁ、どうして全てを記録に残しておけないのだろうか。私がティファナに口づける瞬間を、第三者となって凝視したい。様々な角度から記録に残して、いつでも反芻したいというのに……! 何故私は、私一人しかいないのか」
私に覆い被さるように私を抱きしめて、リオス様が嘆いている。
その気持ち、少しわかる。
私もお部屋の観葉植物になって、リオス様を見ていたいもの。
そう思ったけれど、何度も繰り返されるキスから解放されて息も絶え絶えな私は、何も言うことができなかった。
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