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リオス・アルケイディス、若干改心する



 ◆◆◆



 当然だが私は常に、ティファナたんを階段の踊り場で襲いたいし、壁にその体を押し付けて、自分の体で挟んで迫りたいし、恥ずかしそうに私を睨む(ティファナたんは私を睨んでいるが、ツンデレというものなので、恥ずかしがっていると解釈している)瞳を覗き込んで、頬や唇に触れたいし、脱がせていいものなら脱がせたいと思っている。


『リオス。落ち着いて』


 ヴェルメリオが少年のような声で話しかけてくる。

 私の肩に乗っているヴェルメリオは寡黙で、滅多に話すことはないが、ごく稀に言葉を発することがある。

 声は、少年のものだ。

 できることならヴェルメリオの声が、ティファナたんのハニーボイスにならないだろうか。


『リオス様、おはようございます』

『今日も一日がんばりましょうね、リオス様』

『リオス様、学業に、生徒会の仕事に、王としての政務まで、日々がんばっていて偉いです』

『リオス様、ご飯にしますか? お風呂にしますか? それとも、私……なんて、やだ、恥ずかしいです……』


 なんて──おはようからおやすみまで、私を支えてくれるティファナたんの美声。

 最高だ。


『リオス、落ち着いて』


 残念ながら、ヴェルメリオの声は少年である。

 残念だ。

 残念でならない。

 それはともかく、私はティファナたんを全身全霊で愛しているが、どうやら私の全身全霊での愛というものは、ティファナたんには伝えてはいけないものらしい。


 ──ということを、私はティファナたんを連れて帰ろうとして城に逆に私が監禁された幼い頃からの教育で、多少は学んでいる。

 私の全身全霊の愛を伝えるとティファナたんは怯えてしまう。

 私がティファナたんをティファナたんと呼んでいることは隠さなくてはいけないし、部屋の『あれ』も、知られるのはよくないだろう。


 私は完璧で落ち着いていて誰にでも優しい、そして沈着冷静な王太子として振る舞う必要がある。

 そう母上に、泣きながら諭されたから、流石に少しは学んだ。


「リオス、いいですか、ティファナたんかわいい、はぁはぁ……十分の一スケールでティファナたん人形を作って飾って着せ替えて楽しみたい……長い枕にティファナたんの姿を描いて毎日一緒に寝たい……! 使用済みの衣服をコレクションとして並べたいし、成長記録を残すため、サイズオフした下着を全て保存しなければ……!」


 母上は、いつだか私の前で私の心の声を叫んだものである。

 いや、あの時は心の声ではなかったか。私はそういった欲望をあけすけに全て口にしていた気がする。

 私はティファナたんを愛しているので、それぐらい当然だと考えていたのだ。


「──などと言う男よりも、ティファナ、今日も元気そうで何よりだ。最近は、困ったことはないか? おはよう、ティファナ。先日私が送った髪飾りは、気に入ってくれただろうか?」


 母上は、私の真似をやめて、面白味と特徴のまるでない男の真似をした。


「という、爽やかな男性を、女性は好むものなのです。あなたの大好きなティファナたんも一緒! いいですか、リオス。気持ち悪いから婚約を解消してください! と言われるのが嫌だったら、擬態するのです。擬態。あなたはそのままでいい。ただ、完璧で冷静な王子様の仮面を被るのです。リオス、仮面を被るのよ!」


 母上は目尻に涙を浮かべながら、切なげに眉を寄せてそう言った。

 私の母上は私の母上というだけあって、造形の美しい女性だが、その時はなぜか作画が変わって見えた。

 それはともかくとして。


 私の擬態は、このところティファナたんとの接触が増えたせいか、崩れ落ちることが多くなってきている。

 私としては、ティファナたんから私への好意が感じられているのだから、もういいのでは?

 多少、舐めたり、触ったりしてもいいのでは?

 と、思っていた。


 私たちは婚約者である。ティファナたんの髪に触ったり、頬に触ったり、手を繋いだり、襲ったりしてもいいのではと思うわけだ。これはもちろん、嫌がったらやめるつもりでいるが、今のところはそんな様子もないのだから。


 ディオンとエルヴァインがやたらと邪魔をしてくるという問題はあるものの、私は私の考える良識の範囲内で、婚約者としてティファナたんと、色々したい。色々だ。具体的な例をあげると、問題があるので伏せておくが。


 そう思っていたのだが──。


「リオス様、どうしたんですか、何か悪いものでも食べましたか?」


「殿下、何がありましたか。道端の毒草でも食べましたか?」


「ディオン様、エルヴァイン様、不敬ですよ。殿下は道端の草は食べません。殿下が食べたいのはティファナちゃんです」


「アーシャ、口に出すな」


「アーシャ、私たちが黙っていることを言うんじゃない」


 応援部の練習があると生徒会室から出ていったティファナたんを見送っていた私に、ディオンとエルヴァイン、アーシャが話しかけてくる。


「いつもなら、ティファナたん、がばっ! って、しそうなところじゃないですか」


「ティファナたん、好きだ……! って、ティファナを押し倒そうとする殿下を止める準備は万端だったというのに、何事ですか」


「ディオン。エルヴァイン。私は人前でティファナを襲ったりしない。私は、完璧で沈着冷静で、常に落ち着きのある王太子だからな。ティファナはそんな私を尊敬しているのだから」


「あっ、感化されてる」


「殿下、素晴らしい! その通りです、殿下! その調子でお願いします!」


「ティファナちゃんの純粋な気持ちが、不浄な殿下を浄化してくれた……これで俺は監視役から解放されるかもしれない……!」


 いつも思うのだが、ディオンもエルヴァインも、人の恋愛に口を出しすぎではないだろうか。

 ともかく、私はティファナたんに尊敬されているのだ。

 ティファナたんの好む私でいないといけない。

 私はティファナたんを愛しているが、私もティファナたんに愛されたい。


 そのためには、やはり──私の全身全霊の愛情は、隠す必要があるのだろうな。気をつけなければ。

 ティファナたんは応援部に入り、私の体育祭での活躍を応援してくれるというのだから、期待に応えなくてはいけない。


『リオスが、はじめてまともなことを考えている……』


 あと、できればやはり、ヴェルメリオの声をティファナたんの声にしたいものだ。


お読みくださりありがとうございました!

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