応援部の鬼コーチ
私、いつも駄目だわ。
リオス様はリオス様の前ではやたらと無愛想かつ不機嫌そうになる可愛げのない私にも優しくしてくれるのに、今日だってすごく優しくしてくださったのに、恥ずかしさのあまりに逃げ出してしまったのだもの。
でも素敵だった、リオス様。
リオス様なんて完璧で素晴らしい方を尊敬するのは当たり前のことなのに、むしろ尊敬しない方がおかしいというのに、「ありがとう」って言ってくださった。
なんて謙虚なのかしら……!
謙虚で優しくて素敵、好き。
好きだってちゃんと伝えられたらいいのに。
でも──リオス様が私を好きでいてくれるなんて保証はどこにもないもの。
それを口にするのはやっぱり怖いし、怖くて、恥ずかしくて、伝えようとしても喉の奥に引っ込んでしまう。
『今日はでも、結構頑張ったのではないかな』
「珍しく、もふまるが優しい……」
『私はいつも君に優しいよ、ティファナ」
「色々失敗してしまいましたが、この先体育祭が待っているのですから、応援部として立派にリオス様を応援しないと! 愛情をいっぱい込めた応援で、リオス様も私のことが大好きになってくれるかもしれませんし……大好きに……ひぁ……」
『妄想で興奮するのはやめた方がいい、ティファナ』
「妄想で興奮するのは私の自由です……」
生徒会から応援部が練習している、主にダンスの練習などに使われる大ホールへと向かった。
大ホールにはすでに女生徒たちが揃っていて、制服から運動着に着替えて練習を始めている。
リリムさんが私に気づいて手を振ってくれた。
リリムさんが踊るたびに、豊満な胸がポヨンポヨンしている。あれが男性を魅了する強い味方の胸なのよね、きっと。
私は自分の胸に手を当てた。
大きすぎず、小さすぎずだ。
なんの特徴もない胸。もふまるは私のことを、ごく普通の、当たり障りのない、特徴のない恋する愚か者というのだけれど、胸のサイズも特徴のなさが出ている。
「もふまるを胸に仕込めば、私も、弾む胸が手に入るかもしれません」
『ろくでもないことを思いつくものではない。予言の聖獣をなんだと思っているんだ』
流石にちょっと怒られた。
私は大ホールの隣にある応援部準備室で運動着に着替えると、練習に参加した。
応援は基本的には、楽器演奏してくれる方々の音楽に合わせて踊るもので、両手にわしゃわしゃしたものを持つ。
これはポンポンと呼ばれている謎の物体で、振ったりするとキラキラ光る。
エミリーさんの服飾店で作ったもので、特殊な生地のために光を受けると銀や青や金色に色を変えて、振ると光るのである。
そのわしゃわしゃを両手に持って、腕を回したり飛んだり跳ねたりくるくる回ったりする。
舞踏会のダンスは一通り行うことができるけれど、エミリーさんの指導してくれる踊りはそれとは少し違うので難しい。
今日もエミリーさんはすらっとしたくびれたお腹がむき出しになっている、体にピッタリしたラメのギラギラした特注の運動着を着ている。
派手だけれど、エミリーさんは美人だから、とても似合うのよね。
「ティファナちゃんも参加したところで、もう一回最初から、通していくわよ〜〜〜!」
パンパンと、総勢十五名の応援部の前に立っているエミリーさんが手を叩いた。
楽隊の方々が、クラリネットやトロンボーンや、トランペットなどを構える。
「ワンツースリー、ハイ!」
軽快な音が鳴り響き、リリムさんと並んだ私は体をくねらせ、両手を振り回し、腰をくねらせて、飛んだり跳ねたりした。
「みんな、それでもやる気あるの!? もっとキレッキレに!」
「はい、先生!」
「手を伸ばして! そこ、リズムが合ってないわよ〜!」
「はい、先生!」
「自分が王国一可愛いって思うの! 可愛いわ、あんたたち! 輝いているわ〜!」
「先生〜!」
「そう! 最高! 可愛い、その動き、最高よ! もっとセクシーに! かつ、可愛く! 主役は自分よ! 視線を釘付けにしてやんなさい〜!」
「ハイ!」
エミリーさんの厳しく、そして愛のある指導に励まされながら、私たちは何回も踊った。
踊って踊って、踊りすぎて、最終的にはホールの床にぺたんと座り込んで、ゼエゼエした。
「……厳しすぎます……あぁ、私の可憐な汗が……私の色気がダダ漏れになってしまいます……」
「リリムちゃん、根性あるわね。バッチリだったわ」
「私は、手を抜かない女……」
「ティファナちゃんも可愛かったわ。表情がちょっと硬いけどね。リリムちゃんを見習って、笑顔よ、笑顔。踊っている時は、常にスマ〜イル!」
「は、はい、頑張ります……」
「みんなも偉かったわ〜! ところで今日は、本番の衣装を考えてきたのよ。あたしの実家のお店で責任を持って準備するから、安心してね!」
衣装という言葉に、皆がざわついた。
そういえば、衣装。応援部とは、どんなお洋服で踊るのかしら。
まさかドレスというわけではいだろうし、運動着というのも味気ないものね。
「今回のダンスは、ティファナちゃんも参加してくれるってことで、皆も知っている通り予言の聖獣の姿にちなんで、翼兎にしてみたわ。頭に兎耳。背中に翼。すごく可愛いわよ!」
エミリーさんが一枚の紙を、じゃーんと、私たちの前にかざして見せた。
そこには、頭に兎耳、背中に白い翼の生えた衣装が描かれていた。
それはいいのだけれど、足が付け根ぐらいまで剥き出して、お腹もむき出しで、両腕もむき出しだった。
痴女の服だわ。
「エミリーさん、これは露出が……!」
「何を言っているの、ティファナちゃん。応援部はこれぐらいの露出は当然よ。普段は許されないけど、応援部なら許されるの! お腹と、足を出すのは、可愛い!」
「私はかまいません。私の、可愛らしい腹部の魅力で、全ての男は私の前にひれ伏すでしょう……」
「うう……」
リリムさんは余裕だ。
私も、リオス様を魅了するためなのだから、多少の露出ぐらいは受け入れなくてはいけないのかもしれない。
他の女生徒たちも戸惑っていたようだけれど、リリムさんが了承し、私も頷いたからか、異論を唱える人はいなかった。
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