リオス様は非の打ち所がない王太子殿下です
いつも思うのだけれど、リオス様はこんな愛想もなくてリオス様を睨みつけるばかりの女のことを、それとなく常に気遣ってくださっているのよね。
書類を集めて運ぶだけの仕事なのに、自分のお仕事を中断してまで私を心配して様子を見にきてくださったし。
もちろん、もちろん、完璧な王太子殿下でいらっしゃるリオス様の優しさは、私だけではなくて全王国民に対して発揮されるのだろうとは思うけれども、自分だけなんてそんな烏滸がましいこと考えていないけれど……!
でもでも、嬉しい。
あぁ、好き。好きすぎて死ねる。死んだらダメよ、私。私が死んだら王国が滅ぶのよ、多分。
リオス様が尊すぎて、毎日合法的にリオス様にお会いすることができる生徒会に入ってよかった。
こんなにお近づきになれるのだもの……最高だわ。最高だけれど、毎日致死量のリオス様を浴びて、私のメンタルは限界寸前というかなんというか、もちろん限界になっていたらいけないのだけれど、だって神々しすぎて隣に並んで歩くだけで私は過呼吸になってしまいそうになるのだもの……!
『早口、怖い』
もふまるが口を挟んでくる。
私の脳内なのだから、私の好きなようにさせてほしい。
「わ! ティファナちゃん、すごい量の書類だね……! ごめんね、一人で持たせて。持ってるのは殿下だけど。殿下、一瞬目を離した隙にいなくなったと思ったら、やっぱりティファナちゃんのところに……」
「私が部屋から出るのは、私の自由だろう、ディオン」
「ティファナちゃん、殿下に何かされなかった? 階段の踊り場で襲われたりとか、空き部屋に連れ込まれたりとか……! 急に服を脱がされたりしなかった?」
「……ディオン様、リオス様はそんなことはしません、真面目で冷静沈着な王太子殿下なのですよ」
「えっ」
「え……」
私がリオス様の疑いを否定すると、ディオン様とエルヴァイン様が何故か持っていた書類を落とし、紅茶をふいた。
ディオン様はまだわかるけれど、エルヴァイン様までどうしたのかしら。
いつも落ち着いている方なのに。
それはもちろん、私はいつでもウェルカムだし、いつでも準備はバッチリだし、むしろ望むところですという感じではあるのだけれど、リオス様はそんな方ではないのだ。
だから私は今、とっても頑張っているのに。
「ティファナちゃんにとって、殿下はどんな方なの?」
にこにこしながら、アーシャ先輩が尋ねてくる。
「……それは、その」
私はそういえばと、目を見開いた。
そういえば私の隣にはリオス様がいるのだった。リオス様の前で、リオス様の評価を言うなんてとんでもない……! それって好きだって伝えることと同じだもの。
私はリオス様を、恐る恐る見上げた。
美しい瞳と目が合ってしまい、いつも通り私は表情を固まらせた。
駄目だわ、私。
今すぐ顔を背けて逃げ出したい。恥ずかしい。恥ずかしい。
好きっていう気持ちがいっぱいになって、もしかしたら私の頭からはみ出してこう、文字になって私の周りにふわふわ浮いているかもしれないもの……!
見られるだけで苦しい。私、大丈夫かしら。今すぐ殺す、みたいな顔になっていないかしら。
可能性がありすぎて怖い。
『頑張るのでないのかな、ティファナ』
もふまるは他人事――ではないかもしれないけれど、羽のはえたうさちゃんだから簡単に言えるのだ。
でも、確かにもふまるの言うとおりよね。
私、頑張らないと。
「……私、リオス様のこと」
「あぁ、ティファナ」
リオス様が頷いてくれる。聞いているよ、という感じで促してくれる。
優しい、好き、素敵。
「リオス様のこと、……そ、尊敬、尊敬しています……!」
それだけ言うのが精一杯だった。
リオス様はピクリと眉を動かすと、両手に抱えていた書類を机の上に置いた。
それから、額に手を当てて、一度深い息を吐き出す。
何事かと思っていると、私の頬にそっと触れて、いつもあまり表情の出ないお顔に、笑みを浮かべてくださる。
「ありがとう、ティファナ」
「ひゃ、い……っ」
「えっ」
「え……っ」
間抜けな返事をする私の背後で、再びディオン様が今度はペン立てをガシャンガシャン言いながら落とし、エルヴァイン様が紅茶のカップをカシャンカシャンと倒す音が聞こえた。
「わ、私、私……その、私! 応援部の練習がありますので! 失礼させていただきます……!」
リオス様が、微笑んでいる。
私に向かって微笑んでいる。
もう、輝きがすごすぎて直視できない。リオス様の前では私などは小石のようなもの。その輝きで照らされるなんて烏滸がましいにも程があるもの……苦しい、好き。つらい。
様々な感情でいっぱいになった私は、リオス様の手を振り払うようにすると、生徒会室から逃げ出したのだった。
数秒後に、私って本当に駄目……という、罪悪感に打ちひしがれることになると知りながら。
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