一撃必殺殿下殺しケーキ
お昼休み、私はリリムさんと一緒に料理クラブにやってきていた。
キュアグラスと一緒にラブシック木苺をたくさんつんで持ち帰ってきたけれど、リリムさんが「クラブ活動で使いたくて……」とうるうるした瞳で言うと、薬草学の先生は特に怒らなかった。
薬草学の先生は男性なので、リリムさんの必殺上目遣いで一撃だったのかもしれない。
尊敬だわ。私もそうなりたい。
料理クラブにはシドニーさんとエミリーさんもついてきてくれて、私たちがお菓子作りをするのを見守ってくれている。
「さぁ、ティファナさん。今日はラブシック木苺を使いまして、殿下を一撃で恋に落とす、一撃必殺殿下殺しタルトを作ります」
「一撃必殺、殿下殺しタルト」
私は思わず繰り返した。凄い名前のお菓子ね。リオス様を殺す――恋愛的な意味で。
うん。頑張らなきゃ。
「不安しかないわね……」
お昼ご飯にシドニーさんが買ってきてくれた、お手軽卵サンドを食べながら、エミリーさんが心配そうに言った。
「問題ありません。今回は時間がありませんので、お手軽三分間タルトです」
「そんなに早くできるのですか?」
「ええ。任せてください。ここに私のくるみもちがいます」
リリムさんの肩の上で、リスの姿をしたくるみもちが、小さな手をさっとあげた。
聖獣とお菓子、何か関係があるのかしら。
「くるみもちは、お菓子作りに重宝する冷却あたための聖獣……ほどよく温め、ほどよく焼き、ほどよく冷やしてくれるのです……」
「便利ね」
「便利です」
「いいね。つまり、くるみもちがいれば、冷たい飲み物が飲み放題ということだね」
私たちが褒めると、くるみもちはどことなく得意気に、鼻をつんとあげた。
『便利ではなくて悪かったな』
私の傍をふわふわ飛んでいるもふまるが、ご機嫌を悪くしているけれど、放っておくことにした。
だって、もふまるよりもくるみもちのほうが便利だもの。
リリムさんは料理クラブの保管庫から材料を取り出してきてくれる。
「まずは、このビスケットを、袋に入れて激しく砕きます……」
「激しく……!」
リリムさんがビスケットを袋に入れて、叩く用の棒を渡してくれる。
「で、でも、せっかくのビスケットを叩くなんて……私、申し訳なくて……!」
「いいのです……激しく叩いてください、ティファナさん……激しく、時に優しく……!」
「はい……!」
リリムさんに言われて、ドキドキしながら私は棒を持った。
えいえいと袋を叩くと、ビスケットが割れていく。
「そう、上手です、ティファナさん……激しいのですね……」
「は、はい、頑張っています……!」
「ビスケットを叩いているだけなのに、妙な色気、いけないと思うわよ、あたし」
「常に妙な色気があるのが、リリムのいいところだからね」
ビスケットが砕けたところで、ボウルに移して、溶かしたバターとミルクをいれる。
ボウルに入れたバターにリリムさんが手を翳すと、一瞬でいい感じに溶けた。これが、ほどよく温める力――と、私は感心しながらそれを見ていた。
「これを混ぜ合わせると、一塊になります」
「あ! 本当です! すごい! ビスケットが固まりました!」
「こちらを、バターを塗ったタルト型に敷き詰めます」
「はい、先生!」
リリムさん、凄く頼りになるわね。
私は言われた通りに小さめの、一口サイズのタルト型に敷き詰めていく。
「ラブシック木苺はとても甘いので、中のクリームは爽やかなクリームチーズにしましょう。レモンをいれて、爽やかさをプラスします。甘酸っぱさとは、ファーストキスの味とはよく言ったものですから……」
ボウルのクリームチーズをねりねりして、お砂糖とレモンの果汁を加える。
くるみもちの力でほどよく冷やされて固まったタルト生地に、クリームチーズを入れて、その上にラブシック木苺を並べた。
「最後に、可愛く粉砂糖を振りかけて、ミントの葉を飾ると――はい、完成です……!」
あっという間に、可愛い木苺タルトができた。
すごい、リリムさん、すごい。
男性にモテるというのも頷けるわね。こんなに上手にお菓子がつくれるのだもの。
「やはり……男心を掴むには、胃袋から……ともいいますので、菓子と、料理は、女の武器……というわけです。私は妥協しない女……全ての男は私の前にひれ伏すがいいと思っていますが、努力も惜しみません……」
「はい、先生……感動しました、私……」
「あっ、おいしー」
「美味しいよ、ティファナ、リリム」
出来上がった木苺タルトを、エミリーさんとシドニーさんがぱくぱく食べている。
いくつも作ったのでいいのだけれど、それを食べたら――。
「お二人とも、一撃必殺で私に恋をしましたか!?」
私が尋ねると、二人は顔を見合わせて、残念そうに首を振った。
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