表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/45

お菓子をつくるといい



 さわさわと、風が草花を揺らしている。

 学園近くの森である。

 午後の授業は、高品質の薬草キュアグラスの採取。

 学園からほどちかい森には特に魔物も出ないし、危険な動物もいない。校外実習によく使われる場所だ。


「キュアグラス、キュアグラス、キュアキュア〜」


 私は鼻歌混じりに、森の奥へと進んでいく。

 校外学習はいいわね。開放感があるもの。緑の匂も吹き抜ける風も爽やかでいい。


「ご機嫌ねぇ、ティファナちゃん。その姿、殿下に見せてあげたいわ」


「キュアキュア〜」


「可憐だね、二人とも。女同士の時だけに見せてくれる可愛い姿だと思うと、余計に可愛く感じるよ」


 リリムさんが私の手を握って、一緒に歌ってくれている。

 お友達と手を繋いで歩くなんて、とても楽しい。リオス様のことも大事だけれど、お友達も大事だ。

 学園生活、少し不安だったけれど、お友達がたくさんできて嬉しい。

 エミリーさんは呆れたように笑っている。シドニーさんが優しく微笑んでくれる。


「ティファナさんは可愛い、私は可憐、二人はキュアキュアキュアグラス……」


「意味がわからないわ、リリムちゃん」


 はっと、何かに気づいたように言うリリムさんを、エミリーさんが指でつついた。

 二人はキュアキュアキュアグラス。意味はわからないけれど、妙に楽しそうな感じはする。

 私はきょろきょろと辺りを見渡した。

 キュアグラスとは、すり潰して傷薬にしたり、錬成の聖獣を持つ錬成師の方々の手にかかると、他の素材と混ぜ合わされてヒール剤になったりする。

 傷薬は小さな傷ならすぐに治してくれる。ヒール剤は飲むと大きな傷でもすぐに治すことができる。

 キュアグラスの品質によって効果にかなりの差が出るので、基本的には高品質の成熟したキュアグラスを摘む。

 成熟したキュアグラスは、葉の色が緑ではなくて白っぽくなっているので、結構わかりやすい。


「ありました、キュアグラス!」


 私は視線の先に見つけたキュアグラスを指差した。

 木々の間に、キュアグラスの密生地がある。

 緑の葉のものに紛れて、白い葉のものがはえている。いくつか摘んで持って帰れば、今日の授業は合格である。


「ティファナ、みつけてくれてありがとう。早速摘もうか。授業で使うだけだから、あまり多くなくていいね」


「ずいぶん森の奥まで来たわね。他のみんなは、もっと手前で採取しているのかしら」


「私、手が汚れるのはちょっと……」


「リリムの分も摘んであげるよ」


「ありがとうございます、シドニーさん」


「シドニーちゃん、リリムちゃんを甘やかしすぎよ」


 密生地帯にしゃがんで、私は白っぽいキュアグラスを摘んで支給された袋の中に入れる。

 みんなもそれぞれ摘みはじめるけれど、リリムさんだけは土を触りたくないのか、私たちの周りをふらふら歩いている。


「あ! これは!」


 リリムさんが声をあげたので、私たちは何事かと立ち上がった。

 キュアグラスは摘むだけなので、そんなに時間はかからない。袋の中に入れて、少し離れた場所にいるリリムさんに駆け寄った。


「どうしましたか、リリムさん」


「ティファナさん、これは、ラブシック木苺です……」


「不穏な名前ね……」


 エミリーさんがびくりと震える。

 リリムさんが示しているのは、わさわさと生えている草の中に、ぽつぽつと実っている赤い実だった。

 いちごに似ているけれど、いちごよりも小さい。よくよく見ると、小さなハート型になっている。


「普通に食べても美味しいのですが、お菓子にするととても美味しいのですね……お菓子にすると、あまりのおいしさに食べさせた相手が速攻で恋に落ちる、その力、ハヤテの如く……という意味で、ラブシック木苺という名前がつきました……」


「それは殺傷能力が高そうだね」


 リリムさんの説明に、シドニーさんがうんうん頷く。


「速攻で、恋に……!?」


 つまり、リオス様に食べていただくと、リオス様は私を好きになるということかしら……!

 私は王国を救えるし、リオス様ともラブラブになれるということね。


「はい。その力、熊を一本締めするごとく……と、言われています」


「リリム、熊を一本締めするのは危険だからやめた方がいい」


「熊と素手で戦う前提で話をしているのが、おかしいわよ」


 シドニーさんとエミリーさんがリリムさんに注意をしている。

 私はラブシック木苺をじいっと見つめた。この果物で、お菓子を作れば、リオス様の心は私のものになるのかもしれない。

 でもそれって、いいのかしら。

 一服盛るのと一緒なんじゃないのかしら。


「ティファナさん……手作りお菓子を渡すとは、殿方の心を垂直斬りするぐらいに、恋愛にとっては効果的な行動……摘んでいって、一緒に作りましょう……一発必中、殿下殺し木苺ケーキを……!」


「はい……!」


 一瞬ためらったけれど、私は頷いた。

 

「あ。特に、おかしな効果はありません……ただ、美味しいというだけなので、大丈夫です……殿下は死にませんので……」


「よかったです!」


 それならよかった。一服盛るのはいけないことだものね。





お読みくださりありがとうございました!

評価、ブクマ、などしていただけると、とても励みになります、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ