可愛い下着に恐れおののくがいい
どういうわけか、生徒会一日目にして私は、ディオン様やエルヴァイン様からそれはもうおもてなしを受けた。
矢継ぎ早に繰り出されるお茶やお菓子の攻撃を有難く頂いていたら、生徒会のお仕事が終わっていた。
たいして何もしていないのに。
でも、生徒会室に常備されているお茶やお菓子、とても美味しかった。
特に、白兎の形をしたもちもちの皮に、桃クリームが入っているウサギまんじゅうが美味しかった。
私がにこにこしながらウサギまんじゅうを食べていると、もふまるはそれはもう嫌そうな顔をしていたけれど。
ディオン様は嬉しそうに「ティファナちゃんが笑った……!」と言って喜んでくれていて、リオス様はいつもの涼し気な無表情で、私をじっと見ていた。
よく食べる女だと思われたかもしれない。
人前でよく食べる女だと、呆れられたかもしれない。
どうしよう。でも、食べてしまったもの。美味しかったもの。
人からしていただいた親切は、無碍にはできないもの……!
私、またもや好感度を下げるような行動をとってしまったかもしれない。
――なんて、落ち込みながら、私はリオス様の隣をとぼとぼ歩いている。
リオス様は遅くなってしまったので寮まで送ると言ってくださった。
送って頂けるとか嬉しいけれど恥ずかしすぎて死んでしまう。
結構ですと断りそうになったのをなんとか堪えて、自信満々の女を心掛けた私は「よろしくてよ。どうしてもというのなら、仕方ないですわね、おーっほっほっほ」と、高笑いをした挙句、けほけほむせた。
またやってしまった。何をしているのかしら、私。途中までうまくいっていた気がするのに。
斜め四十五度から見上げるまではかなり成功していた気がするのに。
リオス様が淡々と「では、行こうかティファナ」と言って、何故か、ディオン様がお茶をふいていた。
何かお話をしなければとぐるぐる考えていたけれど、結局何の言葉も出てこなかった。
もふまるに助けを求めたけれど『頑張れ、ティファナ。あまり私に頼るのではないよ』と言われたきりだ。
よく考えたらもふまるだって私と会話することしかしないし、恋人がいるわけでもないし、こういう時の会話があまり思い浮ばないのかもしれない。
だって私の聖獣だもの。私の半身なのだから、私以上に会話が得意なんてことはないはずだ。
つまり、もふまるも実は口下手という可能性がある。
リオス様の肩には真っ赤なトカゲのヴェルメリオが乗っている。
トカゲというのはちょっと怖い形をしているけれど、リオス様の聖獣だと思うともうすべてが愛しい。
ほっぺたにすりすりできるぐらいに可愛いと思う。
そうだわ。
ヴェルメリオの話をしてみよう。
「リオス様」
「なんだ、ティファナ」
「ヴェルメリオは、トカゲですね」
「そうだな。君の聖獣は」
「もふまるです」
「もふまるは、うさぎだな。ティファナによく似ている」
「……り、りおすさま、は、うさぎがすき、ですか……?」
「あぁ。好きだ」
ああああぁ好きだと言われてしまったわ……!
リオス様はうさぎが好き。もふまるがうさぎでよかった。
「私も、私もトカゲ、好きです……」
「そうか。ありがとう」
お礼を言われてしまった……!
リオス様、優しい。寡黙だけれど、表情もあんまり変わらないけれど、でも優しい。
あぁ、リオス様とお話ができるというだけで、世界がきらきら輝いて見える。
なんてことはない女子寮だって、天上の御殿のように輝いている。
もう、女子寮についてしまった。悲しい。もっとお話ししたかった。
そして私はもっと、リオス様の心に爪痕を残さないといけない。
好きになって頂かなければ。少しでいいから、おそらくは駄々下がりしている好感度を取り戻したい。
女子寮の前に立って、私はリオス様を見上げた。
夕日に照らされたリオス様はいつも美しいけれど更に更に美しい。
できればこのまま愛を囁かれたい。熱烈に求められてみたい。女子寮の前でも構わない。
なんて――妄想をして、ふと気付いた。
そういえば、リリムさんは、可愛い下着は武器だと語っていたわね。
私もちゃんと見習って、毎日それはそれは可愛くも妖艶な下着を身に着けることを心掛け始めたのだ。
メルザに頼んだら、何故かすでにクローゼットに用意してあった。さすがメルザ。用意がいい。
せっかくなので、ちゃんと伝えておかなければ。
「り、リオス様……」
私はいつものごとく、緊張のせいで表情筋という表情筋を抹殺しながら口を開いた。
「どうした、ティファナ」
「私……実は、とても、可愛い下着を身に着けております」
「……ん?」
「可愛い下着です、リオス様。恐れおののくといいと思います」
「……………てぃふぁなた」
「リオス様! 迎えに来ましたよ、リオス様! あぁもう寮まで辿り着くのにどんだけかかってるんですか、心配しましたよ! ティファナちゃんさようなら、また明日!」
リオス様が何か言いかけたとき、どこからともなくディオン様が現れた。
騎乗用大狐に乗って、すごい勢いで。
そしてリオス様を大狐に強引に乗せると「さっ、帰りましょう」と言って、颯爽と男子寮へと向かっていった。
どういうことなの。
もしかして、ディオン様。
リオス様が好きなのかしら……だから嫉妬をして、邪魔をしようとしているのかしら……!
『いや、違うと思うよ』
もふまるは否定したけれど、私はディオン様への疑いを拭うことができなかった。
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