生徒会書記ティファナ・シルベット
学園の生徒会室は、広くて豪奢な造りになっている。
天井には光の聖獣を持つ方々が主に生業としている、ランプ技師の趣向を凝らした美しいシャンデリア。
木製の重厚感ある机に、座り心地のよい椅子、ソファセットやお菓子やお茶などの準備されているサロンも、執務室に続きの間として整えられている。
「ティファナ、見識を広めるために生徒会に入りたいとのこと、もちろん生徒会執行部は歓迎させてもらう」
「はい、ありがとうございます」
「生徒会執行部の活動は月曜日から金曜日までの放課後。水曜と金曜は休み。活動場所はここ、生徒会室だが、用事があれば誰かに伝えてくれたら無理に参加をする必要はない」
「わかりました」
「会長は私、副会長はディオン・ミケル。会計がエルヴァイン・アリオス。庶務がアーシャ・ニニス。今までアーシャには庶務と書記を兼任してもらっていたのだが、ティファナには書記をしてもらおうかと思っている」
生徒会室のソファ席に座って、リオス様が私に生徒会執行部の方々を紹介してくれる。
ディオン様のことは知っている。リオス様の側近でいつも一緒にいる、ミケル侯爵家のご長男。
赤毛に鳶色の瞳をした、爽やかな見た目の美形である。
エルヴァイン様は黒髪に金の瞳をした神秘的な見た目の方で、アリオス宰相家のご子息。
アーシャ様は美しい金髪をしっかり結っている、青い瞳に眼鏡をかけた真面目そうな女性だ。ニニス伯爵家のご令嬢。ニニス伯爵家といえば優秀な文官を輩出する家系で有名である。
ディオン様とエルヴァイン様は三年生、アーシャ様は二年生だ。
私は深々と礼をした。
こんなに長く、沢山、リオス様のお声を聞いてしまうなんて、幸せすぎて倒れそうだけれどなんとか踏ん張った。
そして睨まないように気をつけた。リオス様のお顔を見ると途端に駄目になってしまうので、視線を逸らして、にこやかに──というのは難しかったので、せめて無表情を心がけた。
「ティファナは私の婚約者ではあるが、学園内においてはどのような身分の者でも平等に扱う必要がある。皆も、ティファナに気兼ねなく接してやってほしい」
「ティファナ・シルベットと申します。よろしくお願いいたします」
私は皆さんに向かって、ぺこりとお辞儀をした。
「ティファナちゃん、ようこそ生徒会へ。来てくれて嬉しいなぁ、生徒会執行部の仕事なんて面倒過ぎて、誰もやりたがらないからね。ファティアスにもお願いしたんだけど、レース編みをしている方が楽しいって断られてしまって」
ディオン様がにっこり微笑んで言った。
お話しするのははじめてだけれど、とても気さくな方だ。
「ティファナ、困ったことがあればいつでも俺を頼ってくれて構わない。遠慮せずに話しかけてほしい」
エルヴァイン様が落ち着いた声音で言う。
ちょっと怖そうなイメージがあったけれど、優しい。よかった。
「ティファナさん、よろしくね。女は私一人だったから、寂しかったの。書記と、雑用係と両方行うの、大変だったし。書記を引き受けてくれてとても助かるわ」
アーシャ様も優しく声をかけてくれる。
よかった、みなさん優しそうな方々だ。
私が生徒会執行部に入ったことを純粋に歓迎してくれる。
私ときたら、リオス様に近づきたいという下心があってのことなのに、すごく申し訳ない気持ちになる。
「…………ティファナ」
「は、はい」
「しばらくは慣れないだろうし、また、以前のように倒れたら困る。君にはしばらくは私の側で、私の仕事を手伝ってもらおう」
「わかりました、リオス様」
「あぁあ! それは駄目だ! リオス殿下、生徒会は夏季休暇前の体育祭の支度がそれはそれは、それはもう忙しいんだから。ティファナちゃんにはアーシャちゃんと一緒に、雑務をしてもらわないと……」
リオス様の手伝い……リオス様とずっと一緒……!
どうしよう、足が震えてきた。そんな恐れ多いこと、いいのかしら。
私、こんなに幸せでいいのかしら。
頭の中に薔薇が咲き誇り、妖精たちが飛び回る。そんな私の気持ちに水を刺すようにして、ディオン様が大きな声をあげた。
「ディオン、私の取り決めに不満が?」
リオス様が静かな口調で問う。
「ないですけど、リオス様とティファナちゃんを二人っきりにするのはまずいっていうかなんていうか……!」
「何か問題があるか」
「ティファナちゃんが心配だし……」
ディオン様は何かを口の中でもごもごと言った。
リオス様はディオン様の意見を気にする様子もなく「ティファナ、それでは私の手伝いをしてくれるか」と言って、ソファから立ち上がった。
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