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一緒の時間を過ごしてみよう



 私は再び、お友達たちと一緒に学園のカフェのテラス席に集まっていた。


 お昼休憩のランチタイムで、シドニーさんとリリムさん、エミリーさんと四人で過ごすこともあれば、リリムさんやエミリーさんがいない時もある。

 けれど大抵四人で過ごしているので、集まったといっても結構いつものことだったりもする。


「私、駄目でした……」


「うん、知っていたよ」


「知ってたわ」


「知っていました……ティファナさんが辛い思いをするのではないかと、あえて触れなかったのですけれど……」


 どよんと暗くなりながら私が言うと、皆顔を見合わせて頷いてくれる。


「ティファナちゃん、このところ元気がなかったから、何かやらかしたのかしらねぇって思ってたのよ」


「ファティアスは何も言っていなかったけどね。リオス殿下は特にティファナのことを話題にはあげていないみたいだけれど」


「詳しいことは知りませんが、何かが起こりましたか、ティファナさん……?」


 気遣いに満ちた視線を向けられて、私は瞳を潤ませた。


「私……自信満々な女にならなければと思って」


「うん」


 シドニーさんが頷いてくれる。


「リオス様に向かって、こんなに可愛い婚約者をリオス様が愛しているのは当然のことですわ、おーっほっほっほ……と、謎の高笑いを……」


「ティファナちゃん、そんな話し方しないでしょ、普段」


「はい」


「高笑いもしませんよね……」


「はぃぃ……」


 エミリーさんとリリムさんの指摘に、私は俯いた。

 やらかしてしまったことを思えば、もうどの面さげてリオス様の前に顔を出せばいいのかしらという感じだ。


「そしてふと我に返った私は、恥ずかしさが天元突破して、いつものようにリオス様を睨みつけて、逃げてきたのです」


「つまり、突然高飛車お嬢様になったと思ったら、いつもの殺し屋みたいな顔に戻って殿下を睨んで、それきり、と」


「うぅうう……」


「情緒不安定にも程があるわよ、ティファナちゃん」


 エミリーさんがやれやれと、首を振った。

 その通り過ぎて返す言葉もない。


「そうなのです……私もう、リオス様に会えません。やっぱり私などは、リオス様から半径三メートル以上離れたところでしか生きられないのです。落ち着きます。そして格好いい。好きです」


「可愛いですけれどね……それはそれで、とても可愛いと思いますけれど……」


「そうだね、私たちはどんなティファナでも可愛いとは思うけれど。リオス様はどう思っているのか、謎ではあるよね」


 とりなすようにいうリリムさんに、シドニーさんが同意をした後、悩ましげに眉を寄せた。


「それ以来、殿下のそばには顔を出していないの、ティファナ?」


「は、はい……恥ずかしすぎて無理です。ただでさえ好かれていないと思うのに、絶対に嫌われました。もう駄目です。国は滅ぶのです」


「いやいや、諦めてる場合じゃないでしょ。ティファナちゃん、国のことはともかくとして、殿下のことが好きなんでしょ? それならもう少し頑張らないとよ」


「そうですね……他の女に奪われる未来を知りながら、指を咥えて見ているだけなど、愚の骨頂です、ティファナさん。気合いを入れ直してください」


 エミリーさんとリリムさんに怒られた。

 でも確かに、二人の言うとおりだ。一日が終わるのなんてあっという間で、授業を受けて寝て起きてを繰り返していたら、気づけば夏季休暇が訪れてしまう。

 めそめそしていたら、リオス様は奪われてしまうのだ。悲しい。


「で、でも、自信満々を心がけると、高飛車な令嬢のような立ち振る舞いになってしまうのです、私……」


「謎ね。一体何をどうしたらそうなるのかしら」


 嘆息しながら、エミリーさんが紅茶のカップに口をつけた。


「どうしたらいいでしょう」


「兎にも角にも、側にいなくては、何もはじまりません。視界に入るのです、ティファナさん。常に殿下の視界に。斜め四十五度を心がけながら、上目遣いで潤んだ瞳で殿下を見つめるのです」


「斜め四十五度……」


 リリムさんがお手本を見せるようにして、私をうるうるした瞳で、上目遣いで見つめた。

 可愛い。思わずキスしたくなる可愛さだった。

 これを、私が。

 どう考えても睨みつけてしまうわよね。隙あらば殺す、みたいな、殺し屋の視線になってしまう自信がある。


「ええ。そうです。そのためには、まずは放課後。殿下の時間にうまく入り込まないと……」


「生徒会に入るといいんじゃないかな、ティファナ。自分で言うのは難しいと思うから、私の方からファティアスと殿下に掛け合っておくよ。ティファナが見聞を広めるために、生徒会に入りたがっているって」


「そ、そ、そんな、そんな、敷居が高すぎて私には無理です……!」


 クラブ活動、まだ決まっていないけれど。

 生徒会に入るともれなく放課後の時間を、リオス様と過ごすことになってしまう。

 生徒会室という同じ空間で。

 失神してしまう。


「頑張れ」


「頑張ってください……」


「ファイトよ、ティファナちゃん」


 そういうわけで、私は生徒会に入ることになった。



お読みくださりありがとうございました!

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