自分に自信を持ってみよう!
『滅びの予言撲滅委員会』発足二日目。
本日の議題は、いかに私がリオス様に好かれる女になるか、である。
私たちは午前の授業を終えて、食堂のカフェテラスへと集まっていた。
昨日私がリオス様のあまりの魅力にやられて卒倒してしまったということもあり、朝はリオス様が私の様子を見にきてくれたけれど、私は相変わらず「問題ありません」とぶっきらぼうに答えるなどして、安定してリオス様から私への好感度を下げ続けていた。
もふまるには『絶望的だ、ティファナ』と言われた。
私もそう思う。
「ティファナちゃんが殿下に対して無駄に攻撃的になっちゃうのは、殿下の魅力に負けてるって思ってるからよね」
「そ、そうなのでしょうか……」
「ほら、イケメンを前にすると緊張しちゃって、喋れなくなっちゃうアレよ」
「確かに」
私はエミリーさんに言われて、うんうん頷いた。
私のお兄様もかなり美しい方ではあるのだけれど、お兄様とリオス様は違う。
お兄様は虹色に発光していない。
「ティファナの周りには、かなりの割合でイケメンがいるけれどね。私を筆頭に」
「シドニーちゃんは、自分をイケメン枠に入れているのね」
「あぁ。そうだよ。常々私は、なぜ自分が男に生まれなかったのだろうと不思議に思っているよ」
「シドニーさんの婚約者は、男性ですけれど……」
ジンジャーハニーレモンティーを飲みながら、リリムさんが尋ねる。
リリムさんはジンジャーハニーレモンティーがよく似合う。
常にジンジャーハニーレモンティーを飲んでいそうな雰囲気があるものね。
今日も制服からチラリと見える胸の谷間が眩しい。
「ファティアスは、女の子みたいで可愛いだろう? ティファナによく似ている」
確かにお兄様は女性みたいな男性である。私に似ているのも確かにそう。
「つまり、シドニーちゃんは性別が男だったら、ティファナちゃんを娶りたかったわけね?」
「そうだよ」
「そうなのですか!?」
私はガタガタと椅子の音を立てながら立ち上がった。
それから周囲を見渡して誰もいないことを確認すると、何事もなかったようにすとんと座った。
「私、シドニーさんのことはとても素敵なお友達だと思っています……」
「もちろん私もそうだけれどね。私がティファナの婚約者であれば、ティファナを悩ませたりしないのに、と思っているよ。殿下が何を考えているのかはわからないけれど、少し冷たい印象はあるよね」
シドニーさんが悩ましげに言った。
それから「ファティアスに尋ねても、リオス殿下は……悪い人ではないよ、なんていう曖昧な返事しかないしさ」と、肩をすくめる。
リオス様は悪い人ではないどころか大変素晴らしい方なのではないかしらと思う。
よく知らないけれど。
とっても優秀だし、学業の成績も優秀だし、ご病気の国王陛下の代わりに国の政のお仕事も昔からなさっているそうだし。ともかく素晴らしい方なのだ。
私にとっては理想であり憧れである。存在全てが素敵。
あまり親しくもないのに素敵と思っているとか、「それって顔が好きってこと?」と言われれば、そうだと頷くしかないのだけれど。
顔も体格も立ち振る舞いも声も、存在が尊いのだ。
「あたしは殿下のことはよく知らないけど、まぁそもそも、学園に来るまではそれこそ雲の上の存在だったわけだし。天上人ってやつねぇ。お目にかかれるなんて思ってなかったもの。街の人間にとっては国王陛下なんて、神様と同じようなものよね。まぁ、王国は平和だし、立派な方っていう噂ぐらいは知っていたけど」
エミリーさんの言葉に、リリムさんも頷いた。
「そうですね……学園という制度は、ありがたいものです。街で暮らすよりもずっと、獲物が多く……あっ、ティファナさん、ご安心を。私は人のものもには手を出さない女……全男性は私をちやほやするべきと思ってはいますけれど、婚約者や恋人のある方には触れない、話しかけない、近づかないの、モテ女の三原則が適応されます……」
「モテ女の三原則……」
ぜひ知りたい。
私はリリムさんに向かって身を乗り出した。
「教えてください、リリムさん。私、リオス様と仲良くなりたいのです……!」
「めざせ、既成事実、ですね、ティファナさん」
「は、はい、で、できることならば……!」
リオス様からこう、ぐいぐい求められたいという欲望が、ないわけではないし、もちろんないわけではないし、それはまぁ、あるといえばあるのだけれど。
想像するとときめきすぎて死にそうになるので考えていなかっただけで、もちろんあるわよ。
私だって、恋に憧れのある女。
「私も、できることならば、夕日の落ちる庭園のガゼボで二人きり、リオス様から激しく求められたいなどと、思います……っ」
「野外ね」
「初めてが、野外とはなんて破廉恥なのでしょう……でもとてもいいです、ティファナさん……」
「ティファナ。駄目だ。せめて二人きりの部屋、とかにしておこう、そこは」
私は両手で顔を押さえてきゃあきゃあした。
すごくみんなに注意されたような気がするけれど、よく聞こえなかった。
「野外か野外じゃないかはともかくとして、まずはリリム。モテ女の秘訣って何なのかしら?」
エミリーさんに尋ねられて、リリムさんが力強く頷く。
それから両手を胸の前で合わせて、愛らしい声で言った。
「そうですね……それはすなわち、自信、です。私などは、自分に自信しかない女……どんな男性も私の魅力の前に跪いて然るべきだと考えていますので……男性の前で緊張することなどありません……内面の魅力が、外見を輝かせるのです……そして輝いている私に、男性たちは花に群がるミツバチのように寄ってくるのです……」
確かに。
私は自信がないから、リオス様の魅力の前にひれ伏してしまって、言葉も碌に話すことができなくなってしまうのだわ。
だとしたら私も、リリムさんのように揺るぎのない絶対的な自信を持てばいいのね。
「私も自信を持てばいいのですね……で、でも、どうやって……私は、結構普通です、どうしましょう、皆さん……!」
「ティファナが、普通だって……?」
「どのあたりが普通なのかしら、ティファナちゃん」
「ティファナさんは、私の次ぐらいに可愛いです……でも、自信がないのですね……?」
シドニーさんとエミリーさんとリリムさんは顔を見合わせた。
「自信をつけるにはどうしたらいいか、か、難しいな。自信とは、自己肯定感を上げることだね。私が今日から、顔を合わせるたびにティファナに可愛いと言おう。今日も可愛いね、ティファナ。私のお姫様」
私の手をとって、シドニーさんが大輪の薔薇を背負いながら言った。
シドニーさんファンクラブの会員の方なら卒倒してしまいそうな微笑みだった。
「うーん、やっぱり髪型とか、メイクとか、お洋服かしら。着飾るのは女の武器。可愛くするのは鎧を纏うようなものなのよ」
「私などは自然体でも可愛いのですが、夜の美容体操と、バストアップ体操、スキンケアに髪の保湿は欠かしたことがありません。そして、常に可愛い下着です。常に可愛い下着を着ることで、私は可愛い下着を着ているんだぞ、恐れ慄け……という自信が湧いてきます」
「可愛い下着……恐れ慄け……」
私は思わず自分の下着について思いを馳せた。
お洋服や下着は、いつもメルザに選んでもらっているので、あんまり考えたことがなかったわね。
体の手入れも、メルザが全部してくれるものね。
私は両手を握りしめて「私も自信が持てるよう、頑張ります……!」と、決意をした。
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