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滅びの予言撲滅委員会



 エミリーさんが痛む頭を抑えるように、眉間に指を当てると、ふるふると首を振った。


「どうして王子が浮気したらあんたが火炙りにされて、挙句王子が闇落ちして国が滅びるのよ。はじまりと終わりに落差ありすぎじゃない!? 火炙りってなんなの! 王国で火炙りにされた人間なんて聞いたことないわよ、あたし」


「数々の男性を手玉に取りまくっている男殺しの異名をとるリリムさんが火炙りというのならわかります……けれど、男性を手玉にとるどころか、好きな男性を無言で威圧してしまうティファナさんが火炙り……意味がわかりません……」


「いくらなんでも、血迷いすぎじゃないのかい、それは。その予言は本当なのかな」


 リリムさんが悲しそうに言って、シドニーさんが腕を組んで眉を寄せる。

 メルザは落としたトレイを拾うと、「お嬢様……そうですよね、予言が間違いという可能性も……」と言いながら、トレイをぎゅっと抱きしめてぶつぶつ呟いた。


「もふまるの予言はおそらく本当なのです。私、どうやらリオス様をオフィーリアさんに奪われた腹いせに、オフィーリアさんに酷いことをするようなのです。それで、その罪を罰せられて、火炙りになります」


「いやいや」


「その程度で火炙りでしたら、私を妬んで嫌がらせをしてきた女性たちなどで、街は死屍累々……火炙り祭りとなってしまいます……」


「リリム、嫌がらせをされているのかい?」


「大丈夫です。私はやられたらやり返す女……基本はきっちり十倍返しです……」


「せめて三倍で留めておいてやんなさいよ。それにしたって、火炙りはおかしいでしょ。あたしそういう、血生臭い野蛮な話は苦手なのよ。王国のどこで火炙りする気なの?」


「たぶん、ですけれど、王都の街の広場です。見物客さんたちがたくさんいました」


 私は夢の内容を思い出して言った。

 お城ではなさそうだったし、人の多い場所だった。学園でもない。色々な人が見にきていたから、多分そう。


「あたしの! お店の! 目の前ッ!」


 エミリーさんが、ばんばんテーブルを叩いた。

 カチャカチャティーカップが鳴るのを、リリムさんは自分の分だけをそっと取り上げて、口をつけた。


「私の実家、ラスティ商会も街の広場の一等地に、お店が……そんな場所で火炙りなんて、酷い……」


「そんな場所で火炙りなんて、勘弁してちょうだい。花火ならいいわよ、綺麗だから。火炙りよ、火炙り。怖すぎるわよ。ティファナちゃんを守らなきゃいけないのもそうだけど、街の平穏も守らなきゃ駄目よ」


「ええ、そうですね……かわいいものは大歓迎ですけれど、火炙りなんて不吉なことは許せません」


 今までふわふわおっとりとした喋り方をしていたリリムさんが、急に冷静な話し方をするので、わたしはビクッと震えた。今のリリムさんなら確かに、歯向かう女性たちに十倍返しをしそうだわ。


「そうだね……予言を疑ってかかるのは、よくないね。すまない、ティファナ。君は勇気を出して話をしてくれたのだろう。私たちを信頼して。だとしたら、私にできることは君を信じて、君を守ることだけだ」


 シドニーさんが、私の手をぎゅっと握りしめて言った。

 リオス様がいなかったらシドニーさんに恋に落ちていたかもしれない。シドニーさんの背後に大輪の薔薇の花の幻が見える。


『予言は本当だよ。でも、私の見る予言は確定した未来ではないから、変えようと思えば変えられるものだ。未来を変えるために、私の予言はあるのだから』


 私の膝に上にちょこんと乗っているもふまるが、私を見上げて言った。


「ありがとうございます、みなさん。私の話を聞いてくれて、心配してくれて、エミリーさんとリリムさんは出会ったばかりなのに……嬉しいです」


「そりゃあね、せっかく知り合ってお友達になったんだもの」


「私はお友達を大切にする女……そして、任せてください、ティファナさんと殿下が、常に、イチャイチャラブラブ、一心同体、果ては、既成事実を作ってしまえばこちらのもの……というやつです。得意分野です……」


「そうだね。そう難しいことではないと思うのだけれど。だって、ティファナと殿下はすでに、婚約者なのだから」


「で、でも、みなさん……! 私、今まで、リオス様に嫌われるような行動しかとっていなくて……」


 私は項垂れた。

 婚約者になってからの今までの私の態度を客観的に振り返ってみると、どれもこれも酷いものだった。


「リオス様に話しかけられたときは、大丈夫です、問題ありません、ぐらいしか返事ができなくて、顔を背けるのは日常茶飯事。半径三メートルから見つめる距離感がちょうど良く、せめてお写真、お写真ならと、記録師の方々からリオス様の秘蔵写真を入手してはアルバムに綴じ込み、夜な夜な眺めてほくそ笑む日々……もう、ここまでくると、嫌われ者の百点満点を突破して、百二十点、二百点満点、と言えるのでは……!?」


「早口」


「とても、早口……」


「ティファナは殿下のことを話し出すと、早口になるよね」


 私ははあはあ言いながらリオス様のことを話していた自分に気づいて、胸に手を当てると、スッと息を吸い込んだ。

 そして深く吐き出して、がっくり肩を落とした。


「若干、気持ち悪いですよね、私……」


「大丈夫よティファナちゃん。容姿が、全てを許してくれるわ」


「問題ありません、ティファナさん……かわいいは、正義、どんな行動を取っていようと、夜な夜な殿下の写真を見ながらティファナさんが妄想を膨らませてはあはあしていようと、ティファナさんはかわいい……乙女の錯乱で許されます……」


「そうだね。どの行動も恋するが故と知れば、全て可愛いと思えてしまうよ」


 あぁ、みんな優しい。

 すごく甘やかされている気がするのだけれど、これでいいのかしら。心配だわ。


「まぁでも、ティファナちゃんは可愛いけれど、可愛いだけじゃ足りないわね」


「そうですね……火炙り阻止のためにも、ティファナさんにはもう少し、気合を入れてもらわないといけないです……」


「私たちは、これから夏の終わりまでに、ティファナと殿下を心も体も結ばれた正しく愛し合う婚約者にしなければいけないのだね。このことは誰にも口外してはいけないね。火炙りと、殿下の乱心なんて……噂が広まれば殿下の耳に届いてしまうかもしれないしね」


 そういうと、みんなで顔を見合わせて、うん、と頷き合う。


「せっかくだから名前をつけましょ。あたしたちは、秘密の共有者で、協力者。そうね、滅びの予言撲滅委員会──なんて、どうかしら」


 エミリーさんの言葉に、私たちは同意した。

 シドニーさんが手を差し出すので、その手の上に手を重ねる。

 そして滅びの予言撲滅委員会は、秘密裏に結成されたのだった。

 その様子を見て、メルザが涙ぐみながら「でも、どうしてなのでしょう……」と、小さな声で呟いた。



お読みくださりありがとうございました!

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