ティファナと作戦会議
私は寮の部屋に皆を招待した。
ここにリオス様が存在しない限り、私は元気である。
リオス様が存在してくださってもいい、もちろんいいのだけれど、出来れは半径三メートルぐらいは離れておきたい。
三メートルぐらい離れた場所から、そっと見守らせていただくぐらいが、ちょうどいい距離感なのよね。
それ以上近づいてしまうと、もれなく過呼吸が起こってしまう。
そしてはあはあしているのに気づかれないように一生懸命頑張るので、表情筋は死ぬし、リオス様から私への好感度も死ぬ。
「あんたの事情はだいたいわかったわよ、ティファナちゃん。見つめ合うとおしゃべりできなくなっちゃうのね。呼吸が止まるのね。星屑ロンリネスなのね」
リビングルームの対面式のソファに、私とシドニーさん、エミリーさんとリリムさんが座っている。
真ん中のテーブルにはメルザがお茶とお茶菓子を用意してくれた。
みんな一度お部屋に帰って制服から着替えている。肩をすくめるエミリーさんは、制服は男子のものだったけれど、今は体にぴったりとした異国風のドレスを着ている。女性用のデザインだけれど、よく似合う。
そして男子は女子寮には基本的に入れないけれど、エミリーさんは女子寮にお部屋があった。
嬉しい。これでいつでも恋愛相談できる。
「ティファナさん、そのお気持ち、とてもわかります……今から落とすと決めた殿方の前では、恥じらい恋する乙女のように、口数少なくなってしまうもの……潤んだ瞳で上目遣いでじっと三秒。三秒ほどで、殿方の心臓を射殺すことができます……」
「凄腕のハンターなんだね、リリムは」
「ええ、私は凄腕のハンターと呼ばれた女……」
感心したようにいうシドニーさんに、リリムさんは頷いた。
リリムさんのお洋服はとても可愛い。ふかふかでもこもこしている。ふかふかでもこもこした白いお洋服にはフードがついていて、フードにはうさぎのような耳がついている。ショートパンツから見える大腿が眩しい。
こんなに足を出して大丈夫なのかしらと心配になるぐらいに眩しいし、立派な胸がちらちら見えるのが、目のやり場に困る。そして可愛い。
シドニーさんは、制服はスカートだけれど、基本的にはスラックスを愛用している。開襟シャツにベストにスラックス。王子様のようなシドニーさんが女子寮を歩くと、熱い視線が女性たちから送られてくる。
私は特になんの特徴もない、華美すぎないドレスを選んだ。
ミントグリーンの髪色は着る服の色を結構選ぶ。真っ赤なドレスなど着てしまうと、全身ががちゃがちゃしてしまうので、基本的には白か、水色か、シャーベット色を選択している。
今日はシャーベットグリーンである。
「私……リオス様と仲良くなりたいのです。でも、これには深い事情がありまして」
「深い事情?」
シドニーさんが聞いた。シドニーさんの横にはちょこんと、白い猟犬が座っている。
リリムさんの膝には、小さなリス。エミリーさんの膝には、ハリネズミ。
リスの名前は『くるみもち』ハリネズミの名前は『とげぴ』というそうだ。可愛い。
私のもふまるも可愛いけれど、くるみもちも、とげぴも可愛い。
「深い事情……お嬢様、それは私も聞いていていいのでしょうか」
メルザが遠慮がちに言うので、私は頷いた。
「ここだけのお話にしてほしいのですけれど、私のもふまるには、予知の力があるのです」
「知っているわよ。有名な話だものね。それで?」
「知っています……ティファナさんが婚約者になった理由ですね……王太子殿下がフリーでしたら、私も、ワンチャン……狙っていこうかと、思ったのですが……私は人のものには手を出さない女……」
「リリムさんが人のものには手を出さない女でよかったです。とても勝てる気がしません」
「そんなこと……あります……私は不要な謙遜はしない女……」
「で、もふまるの予知と、あんたのリオス様と仲良くなろう大作戦には何か関係があるわけ?」
恥ずかしそうに自信満々な発言をするリリムさんを呆れたように見た後に、エミリーさんが言った。
「はい。どうやら、このままでは夏の終わり、秋の始まりに、オフィーリアさんという方が学園にいらっしゃって、リオス様はオフィーリアさんに心変わりをしてしまうらしいのです」
「なんだって?」
「そんな……」
「出たわね、わきまえない女」
私は、うん、と頷いた。
「それで、紆余曲折あって、私は火炙りの刑に。リオス様は私を火炙りにしてしまったせいで、王国を滅ぼしてしまうのです」
「なんだって!?」
「そんな……」
「なんでそうなるのよ!」
シドニーさんがソファから立ち上がり、リリムさんが瞳を涙で潤ませて、エミリーさんが、ばんっとテーブルを叩いた。
ガシャン、カラカラ……という音が部屋に響く。
メルザが「お嬢様、お嬢様が……」そ、顔面を蒼白にしながら、銀色のお盆を床に落とした音だった。
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