序章:ティファナ・シルベットと不吉な夢
どうしてこんなことになってしまったんだろう。
私は、広場に集まっている人々の姿や、それから私の隣に立っている顔に仮面をつけた黒服の男性の姿を見ながら思う。
あぁ、どうして。
私は、どこで間違えてしまったのだろう。
私の手には手枷が、脚には足枷がつけられている。
ここは王都の広場だ。
いつもなら楽しそうに、広場を歩いて買い物などをしている人々で賑わっているこの場所は、今は中央に処刑台が置かれていて、その処刑台を取り囲むように街の人々でいっぱいになっている。
処刑台──とは、私を磔にするための十字架である。
仮面を被った処刑人によって私は十字架に、縄で縛り付けられた。
手枷と足枷はそのままに、腰や胸を広場の中央に立っている棒へと縛り付けられると、身じろぐことしかできない。
「──ティファナ・シルベット。オフィーリアを殺そうとした悪女に、然るべき正義の鉄槌を!」
兵士の方々を従えて、オフィーリアさんを腕に抱いたリオス殿下が、冷たい目で私を見据えて言った。
私の、殿下。
ずっと好きだった。
今も、こんなことになってしまったけれど、ずっとあなたが──好き。
私の足元に乾いた木々やおがくずなどがたくさん敷き詰められる。
それから、油が撒かれた。
仮面を被った兵士の方の持つ松明に、赤々とした炎が灯る。
炎が、私の足元にくべられる。
燃えやすいものから一気に火がついて、炎が私の足元から燃え上がる。
私の足を、ぼろぼろのドレスを、皮膚を、焼く。
「いやあぁぁぁっ! リオス様、助けて、リオス様……っ!」
私は愛しい方の名前を呼んだ。
これは何かの間違い。リオス様は、私を助けに来てくれる。
大丈夫かティファナと言って、私を炎から助けてくれる。
熱い。熱い。熱い。苦しい。痛い。痛い。苦しい。
皮膚が焼ける痛みに私は悲鳴をあげた。
私の悲鳴をかき消すように、人々から歓声と拍手が湧き上がる。
あぁ──私は。
それでも。
それでもあなたが、好き。
今までも、これからも。あなたが、好き。
「ティファナ!」
遠く、絶望に彩られたリオス様の声が聞こえたような気がした。
リオス様の目が見開かれる。炎に焼かれてもう助からない私を、凝視している。
その手が、オフィーリアさんの首を無造作に掴んで、古い人形を塵箱に投げ捨てるように、乱雑に地面に投げ捨てた。
世界が崩れていく。
リオス様の慟哭に呼応するように、大地が震え、崩れ、そこここから火柱が上がった──。
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