婚姻届
翌朝、善は急げということで、「役場」に三人して届けを出すことにした。エルフの街は深い森の奥、所々にある開けた土地に住居や施設が点在している。
そこかしこには、樹齢数百年、いや千年はあろうかという大木が生い茂り、道もあえて舗装していない。ちょっと歩くだけで、十分なマイナスイオンを摂取できそうなところだ。
王宮から五分ほど歩くと、各種届出、証明書の発行などを行う役場、Government Officeについた。
エルフの一般家屋は木造のコテージ風のものも多いが、こちらは石造りの三階建、木製のドアを開けると、ちょっと冒険者ギルドに似ている、目的別に五つほどの受付カウンターが並んでいた。
その仕組みもオレの知る役場に似いるようだ、フロアにある記入台には各種届出用紙が備え付けられている。姫が婚姻届と養子縁組届に必要事項を記入した。
これらを、一番左の戸籍関連届出カウンターに提出すべく、姫がエルフの男性職員に声を掛けた。
「これは、これは、ルルメリア様、本日は、どのような、お届出でしょうか?」
「婚姻と養子縁組です」
エルフの年齢はよく分からないが、この職員、人標準なら、中年くらいにみえる、一瞬の間があって。
「ええええええええ!!!」
ただの事務手続きと言っていたが、姫はやっぱ王族だもんな、結婚して子供ができるって、そりゃなぁ〜 驚くよなぁ。
だけど、これも個人情報ってことだろ? 無闇に騒いではいかんと思うぞ、ま、今は早朝で、三人と職員以外、誰もいないのだけれど。
いずれにせよ、彼らの権限によっての否はないわけで、婚姻届には二人、養子縁組届けには三人でサインした。さらに、魔法の朱肉で母音を押し、それぞれの誓いを立てた、ということになるらしい。
必要人数の者が母音を押すと、届出用紙は光の泡となって虚空に消え去った。
《誓ったのはいいけど、届出用紙が消えるなんて、不味くない?》
《エルフの技術を侮るでない、これは、コンピューターシステムのデータベース登録を行ったのと同じじゃ》
《この施設にある魔道具かなんかで、いつでも、検索、閲覧できると?》
《ということじゃ》
《この世界、サプライチェーン不要の生産、治癒魔法をはじめとする医療、魔石によるエネルギー、あたりは21世紀より進んでいる、とは思っていたが、戸籍データベース、ガードロボのAIなど、魔法はコンピューターの代替ともなっているんだね》
《じゃな、遅れているのは、情報通信、交通あたりじゃろうか》
《そうだな、飛行機はもちろん、輸送船もないらしい》
アレ? そういえば、航空機は別としても、こんなに文明が進んでいるのに、輸送手段はほぼ陸上だけ? 少なくとも海路って話、聞いたことがない。と、考えているうちに、手続きが完了したようだ。
「さ、これで、私たちは、正式に家族となったわ」
姫の晴々とした顔、事務手続きだけ、といいながら、結構、本格的だった気もするが。
「晴れて、くっついてもOKってことね」
「ドロシー、なんで、クリティの方ばっかり行くのよ」
「だって、パパがいいの」
「ちょっ、私がママなわけ? 見た目、どちらも、女の子じゃない?」
「なんとなく、そう思うの」
流石、鋭いということかもしれない、ドロシー、直感的に前世のオレたちの関係性を感じとったのかもしれない。
《考え過ぎじゃ》
なんて、役場でうだうだやっていたのだが。そうだ! エリナとジャンを王宮に待たせている!
急いで戻って2号で出発。直接、プライベートビーチに降りられるというのは、とても楽だ。もののエイス(約7分)で、オレたちはニルスに到着した。
森の芳香は、一瞬で潮の香に変ずる。これは、これで、とてもいい、海からの風が心地よい。燦々と降り注ぐ太陽、白い砂、エメラルドの海面、寄せては返す波の音……。
そういえば、もう随分秋も深い、まもなく冬というこの時期。いくら世界的に温暖といったって、変じゃね? 十一月の沖縄の平均気温は摂氏二十五度くらいのはず。
「なんだが、暖か過ぎるというより、暑くないですか?」
「ええ、私もそう思っていました。ニルスがいくら温暖でも、冬も近い秋のこの時期に海に入れそうですもの」
と、話していたら、ブルーノが海の家から、こちらに向かって歩いてきた。
「いらっしゃい! 待っていましたよ」
「日を置かず押しかけてしまい、お手数をお掛けしますが、本日もよろしくお願いします」
「なんの、なんの、娘に会えると思えば、こんなこと」
「もう、そういう言い方をすると、姫様は、ついで、ってことにならない? 失礼よ」
「あ、ああ、そういう意味ではなく」
「エリナ、お父さんを虐めるのは、止めた方がいいかと」
「これも愛情表現よ」
「あ、あのぉ〜 ブルーノさん、つかぬことをお聞きしますが、最近、暑くないですか?」
「あああ! それは、そうですね、この季節で汗をかくなど、今までになかったことです、クリティさんがそういう質問をされるということは、何か重大事が絡んでいるのですか?」
「それを説明するのは、私の役目かな」
ルル姫は宝珠盗難に絡む魔獣の異常行動、そして、この異常気象も関連があると考えているという旨を説明した。
《関連しているとまでは、姫に言わなかったけどな》
《どう考えてもそうじゃろ?》




