ドロシーの想い
「はぁい、そろそろ最終となりますので、急いでください」
黒い帽子を被った人族の係員に促され、オレたちはゴンドラに乗った。
ガチャリ
ドアが閉まって、ドロシーとオレは二人っきり。どうだろう? あの話、しておくべきなのか、ムードをぶち壊す? 迷ったオレだが、養女の件を切り出した。
「『観覧車』と言った時、何かを話したいって、顔したもんね。お姉ちゃん、分かり易過ぎ。少し複雑だけど、謹んでお受けします。ずーーっと、大好きな、お姉ちゃんと一緒というだけで、我慢するよ」
「我慢?」
「気付いてるでしょ? 私、もう、何十年も生きている、だから、私の『好き』は、お姉ちゃんとHしたいってことも含めてだよ」
「そうか、こういう事でドロシーを子供扱いしちゃダメだった、だからはっきり言うね。私はルル姫に操を立てている。体を合わせるのは彼女一人、と決めている、ってことだから」
「本当にクリティは真っ直ぐな人だね。決して逃げない、ますます、好きかな」
「あっ!」
「キスくらいいいでしょ? 戦闘では無敵なのに、こういうの隙だらけだね」
「あ、アハハハ」
「お姉ちゃん♪ 隣いい?」
ゴンドラを揺らさぬよう、慎重に立ち上がったドロシーは、一瞬「女」の顔になって、そう囁いた。
「どうぞ」
「こうやって、くっ付くのはいいんでしょ? だって親子になるのだから」
「うん、分かった」
ドロシーはオレ肩にもたれ静かに目を閉じた。
ドロシー、君は本当にそれでいいのかい? 「原理的に」無理だと分かっている、だけど、もし今度、転生したら……、ああ、そう考えてしまう人、多過ぎだ。
どんな人にも優しくはありたい、だけど、この優しさというものは数量限定品、叶えてあげられないこともある。
窓から外を見ると、ほどなく日が地平線に沈む。夕日の煌めきがゴンドラに満ち、まるで、琥珀の海に沈んしまったようだ。オレは、そっとドロシーの肩を抱いた。
彼女の肩、髪から伝わる温もり、心臓の鼓動が聞こえてくる気がした。もうちょっと、もうちょっとだけ、こうしていたい。だが、アインシュタインの名言を借りるまでもなく、夢幻の時間は、瞬く間に過ぎ去り、観覧車のゴンドラは非情にも地上に戻ってしまう。
オレたちは、手を繋いで、待ち合わせ場所である入園ゲートに向かった。
「あら、遅いじゃない、って、何? なんだか仲良しになっちゃって」
「だって、親子になるんでしょ? 大きなママ」
「って、クリティ、もう、言っちゃったの?」
「快諾いただきましたよ」
「え! ドロシーが子供ということは……」
「そう、だから、エリナは諦めて」
「うーーん、まだまだ、婚約破棄ということもあり得る」
「おい! おい! 俺、俺は?」
「知らないわ」
「ヒッデェェエ」
などと言いながら、ゲートを抜け外に出ると、大統領府リムジンが待っていた。
「申し訳ありません、一旦、冒険者ギルドに寄ってから、戻ってもらっていいですか?」
さすが姫、ヤヤルへの挨拶も忘れない。立ち寄った冒険者ギルドで一行はヤヤルに別れを告げた。
「今回は本当にありがとうございました。随分、お疲れでしょうから、みなさん、少し休暇を取ってはいただきたく思います。その間にマーメイドの件、調査させていただきますので」
ヤヤルってワーカホリック気味の人かもしれない。本当に仕事熱心だ。
「いろいろ分かりましたら、リムゲイム経由にてお伝えします」
「よろしくお願いします。では、失礼いたします」
リムジンを待たせたままなので、急ぐ必要がある、こういう時は姫が代表して喋ってくれる。
《マーメイドって海の中が棲家なんだよな? だから、情報が少ない?》
《そうじゃな、この世界に潜水具のようなものは、ないからのぉ〜》
《オレは?》
《主様は酸素不要じゃし、空気ごと流線型に「切り取って」進むというのが楽かもしれぬな》
《あ、今度の休暇、また、ニルスに行って、練習してみるか?》
大統領府に戻り、こちらも挨拶を済ませた頃、執務室に向かって廊下を走る足音がする。
「ドロシー、完成したぞ!」
シャドーナイトの改造が終わったのだろう、満面の笑みを湛えてクーノが飛び込んできた。
「ありがとう!!」
彼は、早々に手に持っていた傀儡をドロシーに渡した。新しいシャドーナイト、形は前とほぼ同じだが、背中にランドセルのようなものを背負っている。これが追加された無敵装置ということだろう。
受け取ったドロシーは、愛おしむように、傀儡をウエストバックの中に入れた。
「ねぇ、お姉ちゃん、シャドーナイト、ここまで強くなったのだから、新しい名前が必要だと思うの」
「って、私に命名せよと」
「うん!」
「クーノさん、その『無敵装置』って、何か、名前はあるのですか?」
「ああ、コードネームですか? 狼のように強くなる装置、ウルフヘジン、狼皮、と呼んでおります」
《どいつも、コイツも厨二病》
《じゃなぁ》
ま、狼の皮といえば、北欧神話で言うのところの狂戦士を指すよな。じゃ、決まりだな。
「ベルセルク、でいいかな?」
「カッコイイ!!! どういう意味?」
「無敵の戦士みたいな?」
まぁ、動く物なら肉親にも襲い掛かるという説明は省いておいた。
「うん、うん、いい、いい!!」
複雑な想いもあるのだろうが、ホント、ドロシー、いい笑顔を見せるようになった。
「では、行きますか?」




