ハッキング
いよいよ、決戦! 扉の前に立ったクーノがこう付け加えた。
「安心してください。ガーディアンは決して、この外扉から外へは出てきませんから。ああ、残念ながら、内扉の中、宝物庫内には、入って来ますので……」
《ネトゲみたいに、エリア逃げすれば、いいってこと?》
《うむ、じゃが、どうも気にいらん。こういうところも、神の何か? のように思えてきた》
《彼、いろいろ細かいのだよ》
「では、開けますよ」
クーノは扉横の壁面にあるガラス板ような装置に手を置いた、指紋認証ってことかな。高さ五メートルはあろうかという、鉄の扉は軋むような音を立てて、内側に開いた。
ああ、御誂え向きのバトルフィールドかもしれない、廊下は直線で約五十メートルほどもある。まず、オレが一人で一歩前に進んだ。
「シンニュウシャヲケンチ、サガッテ、クダサイ。アナタノ、ツウコウハ、キョカサレテイマセン」
《なに? コレ、どういうネタ? 別にロボット口調じゃなくてもいいのにさ》
《気分の問題じゃと思うぞ》
《誰の気分だよ?》
《皆のじゃ!》
《うん? 皆って誰?》
ガーディアン、侵入者だとしても、そのまま下がってくれれば問題ないという判断をしているようだ。ゆっくり歩いてこちらに近付いてくる。
廊下の中ほどまで来るのを見計らって、オレは魔法を放った。ダメ元で、ガーディアンの足を消そうとしてみたが、完全魔法防御に見事、弾かれた。
「シンニュウシャカラノ、コウゲキヲケンチ、ケイコク、ケイコク、アナタヲ、テキタイシャト、ニンテイシマシタ」
オレはガーディアンが十メートルほどの距離まで引きつけて、内扉手前にワープした。って、オイ! ガーディアンはワープまで予期していた? くるりと後ろを向くと、オレに向かって走ってくるではないか!
「コレハ、サイシュウケイコクデス、モドッテクダサイ」
思いの外、ガーディアンが走る速度は速い。うーーん、内扉を破って中に入るのは簡単だが、そうもいかないし。さてさて、このゲーム、かなり難易度が高いぞ、などと思っていたら。
「シンニュウシャカラノ、テキタイコウドウヲケンチ、テキイアリトミナシ、コウゲキヲカイシシマス」
再びガーディアンは方向を変え、外扉に向かって警告を発しながら戻って行った。エリナが素早く廊下に入り、矢で攻撃してくれたようだ。おおお! ガーディアン、外扉側の侵入者に対しては歩く、仕様らしい。
《ヨシ、予想通り、コイツのヘイトは揮発性、直近に攻撃した側にタゲが行くようだ》
《主様、その解説、皆に分かるか?》
さっきから言ってる皆って誰? まっいいか、解説するね。
ネトゲおいて、モンスターはヘイトが最も高いプレイヤーを攻撃するロジックになっているものが多い。ああ、そうか、悪い……。
ヘイトというのはモンスターの「ムカつき度」で、一般にはより高いダメージを与えたプレイヤーのヘイトが高いということになる。
だが、このヘイト、ダメージを与えた直後から、次第次第に醒めて行くケースがほとんどだ。どこぞのツンデレ王女様みたいに「いつまでも怒ってるわけじゃないんだからね」って感じだ。
今回はオレの魔法とエリナの矢によるヘイトが、うまい具合にバランスしたってことになる。
《言わずもがなだったかのぉ〜》
《だからぁ》
オレはガーディアンが外扉の十メートル手前に来たあたりで、再び消失魔法、やっぱりこっちへは、走って来るし!
おおお、絶妙な位置でガーディアンは方向を変える。さすが、エリナ! 上手い! コレなら、やろうと思えばいつまででも、やってられる?
いやいや、双方がタイミングを計るには、かなりの集中力が要求される。長時間は難しいだろうね。そんなことを考えていた十往復目、ガーディアンの動きがピタリと止まった。
「ツウコウキョカシャト、ニンシキシマシタ、ヨウコソ、ホウモツコヘ、ドウゾ、オトオリクダサイ」
「やったな! ドロシー!! おい! 大丈夫か!」
「大丈夫だよ、お姉ちゃん、ちょっと眩暈がしただけ、集中し過ぎたからじゃないかな?」
姫に抱き抱えられるようにドロシー、クーノ、エリナ、ジャンの順で廊下の奥に向かって歩いて来る。
「ありがとう、お姉ちゃん」
「ありがとうございます」
クーノ、何やらガーディアンの背中を触っているようだが、しばらくして。
ガタン
ガーディアンは、ガックリと膝を付いた。クーノが停止スイッチを押したようだ。
「もう、大丈夫だよ。ね、ね、お姉ちゃん、ドロシー頑張ったでしょ?」
「あああ、そうだね。エリナもナイスタイミング!」
「今回はドロシーですわ。クリティさん、彼女に何かご褒美を。ねぇ、ドロシー、何がいい?」
「うーーん、少し考えておく」
「さ、もう、ガーディアンは止めました。ついでで申し訳ないですが、宝物の確認に付き合ってもらっていいですか?」
クーノはガラス板に手を置いて内扉を開けた。おおおおお! これ、まさにファンタジーワールドの宝物庫、美術館のように壁奥と左右の壁がガラス張りになっていて、剣、鎧、魔道具などなどが多数保管されている。
《あの端っこにある両手剣、聖剣じゃね?》
《じゃのぉ〜 禍々しいオーラが出ておるわ》
《アレで斬られたら、オレ死ぬ?》
《主様は聖剣をも弾く魔法で守られてはおる。じゃが、体は生身の人と同じ、急所を刺されれば、果物ナイフでもあっさり死ねるぞ?》
《そういうことか!》




